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189・息吹争奪戦(巨乳ばっかりのバトル大会)5

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189・息吹争奪戦(巨乳ばっかりのバトル大会)5

 
 ガヤガヤ、突然に少し離れたところから騒がしいって情報が風に乗って飛んできた。人の叫び声に何かを破壊するような音などなど、それらは平和に反抗するサウンド。

「なんだ、また事件か……」

 息吹はそう言いながら2人の女子から離れ歩き出す。そうすると溜まっていたような女子のニオイや熱がスーッと消えて少し身軽になる。

「今日は事件が多い日だねぇ」

 かすみ、すぐさま息吹の横に付こうとする。

「今日の日本は物騒だね」

 かすみを突き飛ばしピタッと横に付く団子。そしてまた2人でギャーギャーやりだす。

―ガッシャーンー

 ガラスが割れるような音が響く。それはとあるパチンコ店の内側から聞こえてくるモノだった。

「イカサマには天罰あるのみや!」

 50代くらいの男がパチンコ台に向かって斧を振り上げる。それを何の躊躇苦も無く振り下ろすから、ガラスが割れて飛び散り、内側にある立派な液晶とかいうのもぶっ壊れる。

「何を無料で見学してのじゃぁ!」

 男、見事に破壊され内側を隠せなくなったガラスの向こうから店内を見ている人間が気に入らないらしく、斧を持って外に出てきた。さすれば当然悲鳴が起こり多くの人間がアリの群れみたいに広がり逃げる。

「やめなさい!」

 ここで突然誰もが予想していなかった声が生じる。それを出したのは息吹でもなければかすみでも団子でもない、近くにいた見知らぬ女性その人だった。

 あ、これはダメだ、危ない……と思った息吹、女性をなだめようと思ったが、それより先に女性が斧を持った男に近づく。

「人に迷惑をかけて楽しいですか? そんな物騒なモノを振り回して、もし人に当たったらどうする気です?」

 金髪のショートポニーテールという色白な女性、どう見てもヨーロッパの美人というやつであるが、物騒なモノを持っている男を前にまったく動じない。

「なんや! って……よう見たらすごいパツキン美人やん……うほ、しかもかなりの爆乳やん! おぉ、ええなぁ、ええなぁ」

 男、女性の美しく凛とした顔と同時に、グレーのフロントジップパーカーにある豊満なふくらみをうれしそうな目で見る。

「そうやなぁ、おれとデートしてくれるとか、あるいはその乳でパイズリしてくれるとか、それやったらおれ考えてもええけどなぁ」

「パイズリ? なんですか、それは」

「その豊満な乳で男を天国に導くってことやん。てか、日本語がしゃべれるんやったら、パイズリっていうのは早めに覚えなあかん言葉やで?」

「それはそれは……」

 女性は男を見つめたまま少し下がった。そして肩にかけていたバッグを地面に置くと、なんとフロントジップを下したではないか。えぇ! と男や周囲が驚くのも気にせず、そのままパーカーを脱ぎ捨てた。すると上半身は赤いスポーツブラだけになった。しかしただの美白むっちりグラマーというだけではない。明らかに何かスポーツをしているであろう鍛えが混じっている。

「わたしにパイズリとかいうのをして欲しいのだったら、わたしに勝てばいいのです。物事を進行させる権利は勝者にこそありですから」

 言った女性がクッと手刀の構えを取った。そうしてボッとコンロ火のようにオレンジ色のオーラが浮かび上がる。

「息吹くん、止めなくてもいいのかな……」

 かすみが息吹に言った声は女性に聞こえたらしい。だから構えそのままに女性がかすみに返しつぶやく。

「だいじょうぶです。むしろ心配するなら男の方にしてあげてください」

 こうなると息吹もかすみも団子もだまって見守るしかなくなる。惨劇みたいな展開になったらどうするんだ……と不安をおぼえつつ、女性が放つ並々ならぬ自信には割り込めない。

「よっしゃあ、パツキン爆乳ゲット! 今夜はセックスにパイズリ三昧や、我が人生に一片の迷いなしや! 今宵やひたすら踊ったるで!」

 男、斧を持っている自分が負けるとは思っていないに加え、相手の力が読み取れるほどの能力があるわけでもない。だからいつでも戦闘ができるって状態の相手を前に鼻の下を伸ばしてニヤニヤしまくり。

「スキあり!」

 ここで女性が動いた。最初の一瞬だけスーッとゆっくりに見えたが、次の瞬間には怒涛の攻撃連打が始まっていた。あまりにも素早く手数が多い。だから女性の足がうつくしいほど垂直に上がったら、斧を持った男の体が気の毒的に空高く舞い上がる。

「ハァァァァ!!!」

 女性が両手をにぎって脇をしめた。

「清く正しく生きてこそ高みあり!」

 叫んだ女性が入魂の突きたる一撃を右側で放つ。するとそれは落下してきた男の顔面中央にばっちり入力された。

「うげ……」

 男、鼻血ブーのまま地面に落下して転がる。そうすると手に持ち続けていた斧が離れる。

「押忍!」

 動けなくなった男を見ながらそう言った女性、クルっと回ってパーカーを取って着なおす。周りからは拍手大喝采であるが、だからといって救世主を気取ることもなく謙虚な人柄と目に映る。

「うん?」

 その女性、バッグを肩にかけたところで息吹と目が合った。それはほんとうにただの偶然に過ぎなかったが、一瞬女性の両目がパチクリと動く。次になぜかほんのり頬が赤くなったりする。

(あ、この感じはよろしくない!)

 かすみと団子はすぐにそう思った。いかんせん息吹にはフェロモンがあり、当たる女性には当たる。そしてすぐさまセックスしたいと思わせるという魔力的なモノがある。だからこそ生前は500人以上の女を食って捨ててホストで稼ぐことができたわけである。

「失礼ですが」

 女性が息吹に言い寄ってきた。

「なにか?」

 息吹はとりあえず返事をした。しかし女性が続ける内容というのは、とりあえずなんて表現では済まなかったのである。

「わたしと付き合って欲しいです」

 女性のいきなりの言い出しに息吹もかすみも団子も面食らう。

「付き合うというのは……どういう意味……かな?」

 息吹、生前は多くの女性とやりまくったしホレられまくったが、こんな展開はあまり記憶にないと思わずにいられない。

「わたしにはわかります」

「なにが?」

「あなたはつよい力を持っている人です、わたしにはわかります、ちがうとは言わせません」

「まぁ……つよいっていえばつよいけど、かなり反則ではあるわけで、マジメな話には向いてないキャラというか」

「そしてもうひとつ、あなたは女をよく知っていますね。以前はどうだったかわかりませんが、重要な今はけっこうマジメでやさしい人、そうですよね?」

「ん……マジメというか、大勢の女を泣かせた過去を反省はしている」

「それがマジメでありやさしさなのです。だからあなたはわたしとお似合となります」

「え……なんでそうなるの?」

「わたしの祖母がわたしに教えてくれたのです」

「なんて?」

「つよさを求める女は女としては弱くなりやすい。そんなおまえに向いている男性というのは、女を知り尽くしたからこそ一周してやさしさとマジメを手にした者であると。それでつよさを備えていれば言う事はないと、祖母はわたしにそう教えてくれたのです。そしてその言葉に該当する男性があなただと、一目見てそう思いました。間違っているとは思いません、絶対に」

「だから付き合うと?」

「もちろん結婚を前提に」

 なんという事だろう。いきなり何を言ってんの? と突っ込む事さえ忘れてしまうような力強い押しが女性から放たれている。これには息吹もかすみも団子もすぐには言葉が出なかった。
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