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176・ホレた女のために戦え1

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176・ホレた女のために戦え1


「最近、急に暑くなったような気がする」

 ただいまは特にやる事がございません! という状態の息吹、なんか事件でも起こらないかなぁなんて思いながら、自販機で購入したつめたいジュースをグイグイやりもって10時過ぎの空を見上げる。

「息吹、家満登息吹」

 ここで突然に息吹は斜め後ろって位置から声をかけられた。

「ん?」

 誰だ? とか思いながら顔をそっちに動かしてみると、違和感だらけって感じ一杯の男が一人立っている。

「え?」

 思わずずっこけそうになったのは、その男が誰かすぐにわかると同時に、見慣れた格好と違い過ぎて脳がミニぐらつきを起こしたせい。

「佐藤グラディアートル……なんだその格好は」

 息吹、スーツ姿をビシっと決めているグラディアートルに怪訝って顔を向けずにはいられない。

「今日は大事な日だからな、いつもの道着ではいかんのだ。で、家満登息吹、ちょっと話を聞いてもらいたいと思っているのだが」

「いいけど、なんだ?」

「ま、あそこにある公園にでも行こう」

 グラディアートルはそう言って歩き出したが、ちょっとおちつかない感じが小さくたしかに浮かんでいる。これはまた面倒くさい話なのだろうか? と思う息吹、頭をかきながら公園に入り、ゴミ箱に空き缶を投げ入れてすぐ話とはなんだろうか? と聞く。

「じ、実はその……」

「なんだよ、なにをテレているんだよ」

「て、テレてなどいない。ただ少し動揺しているだけだ。実はその今日……この自分はデートする事になった」

「へ? デート?」

「そ、そうだ」

「デートって……2人がいっしょにたのしく過ごすって時間のことか?」

「他にはないだろう」

「い、いや……グラディアートルが誰とデートするのかと思うわけで」

「相手は閻美殿だ」

「閻美!?」

 これはまたいきなりビックリだという表情で目を丸くする息吹だった。この2人がいつの間に恋の歯車を回転させていたのかと、ちょっと信じられないようなキブンにもなる。

「実はその、エンマ大王からの命令なのだ」

「命令?」

「自分も閻美殿も、恋に飢えるのはそろそろ終わりにした方がいいだろうから、とりあえず一度はデートでもしろという強制。一応言っておくと、エンマ大王は息吹の事を恋に疎いロクデナシとか言っているそうだ」

「あぁ、そうですか……でもグラディアートル、強制されてイヤだとかそういう風には思わないのか?」

 息吹に言われたグラディアートル、即座にグッと表情を引き締めた。そして決してゲスな心などは持っていないという目をで力説。

「閻美殿が強制というのは気の毒だとは思っている。だ、だが……自分としては強制とか言っても、閻美殿とデートができるなら嬉しいと思うわけで、無理やり引っ付けられるオチではないとすれば、デートするくらいは許されるはずだと思いたい。ダメか? それはダメな事なのか? 家満登息吹」

 グラディアートルのその姿勢はホットな情熱に満ちていた。それこそ、男が男ゆえに持ちうる純愛を火の玉に変換したような勢いだとも言える。

「いや、いい、全然いい。せっかくデートできるのだし、結果は強制されないというなら、ふつうに楽しんでくればいいのだと思う」

 息吹のこの返事を聞くと、あまりに似合わないスーツ姿という男は、心底ホッとしたって表情に戻る。それからやっと自分が言いたいというか聞きたいという事を口にする。

「そ、それでだ息吹……」

「うん?」

「デートする時というのは……具体的に何をしたらいいのだ」

「何と言われても……とりあえずいっしょに散歩でもするとか、いっしょに買い物してみるとか、2人でたのしそうな場所に出張ってみるとか、ネタがないならラブロマンな映画でも見るとか」

「そうか……し、しかし……」

「なんだよ、まだ何かあるのか?」

「で、デートしている時というのは……いったい何の話をすればいいのだ? それがさっぱり分からないし思いつかない」

「会話なんていうのは……なんでもいい。素直であれ」

「素直?」

「そうだ、デート中の会話というよりデートそのものにおいて素直であるべし。現時点の自分を素直に丸ごと出せ。そうして正直な状態で相手に好いてもらいたいと情熱を持って突進だ。そうして相手を理解するように努力し、自分も少し変わりたいと思うならそれを努力につなげればいい。そんな風にやってダメだというのなら……」

「ダメだというのなら?」

「その2人は結ばれる運命にはなかったという事だ」

「そ、そうか……」

「ま、おれがグラディアートルにできるアドバイスがあるとすれば……」

「なんだ、頼む言ってくれ!」

「おまえは浮いた話に起用な男ではないが、マジメというのが取り柄ではあるはず。よって一発ですべてを決めようとかじゃなく、ゆっくり、小さな努力を積み重ね続ければいい。そうすれば、相手もおまえを見てくれるかもしれない。おまえの努力を評価してくれるかもしれない。そういう風になればおまえの方から相手に言う権利が発生するんだ。自分がこれだけ一生懸命なのだから、そっちの素直なキモチを聞かせてくれ! という風にな」

「おぉ……さすが、さすがだな息吹。いまおまえの話を聞いて何とも言い様のない感動をおぼえた。さすがに500人ほどの女を食い漁ったゲスな男は物事をよく知っている」

「おまえ、せっかくおれがいい事を言って感動的だったのに水を差すような発言するなよ」

「いや、いまの言葉はありがたく受け取る。礼を言う息吹」

「まぁ、素直なキモチでがんばれ。多分だが、閻美はそういう姿勢を評価してくれる女という気がするからな」

「わかった」

 かくしてグラディアートルは大変な発揚と理性を同時に発動させた。そのサマはまるで純真な男子高校生みたいな感じだ。

「では行ってくる」

「あぁ、グッドラック!」

 閻美との待ち合わせ場所に向かうため歩き出したグラディアートルの後姿を息吹は見送る。そして少しさみしさとうらやましさが混ざったような感じの声でつぶやいた。

「グラディアートルと閻美か……意外と合うんじゃないかな、いや、うなぎと梅干しみたいな感じでかなりいいかもしれない……という気がする」
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