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157・キャラクターの反乱バトル1
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157・キャラクターの反乱バトル1
「さーてと」
午後8時、物尾書矢(ものをかくや)20歳はイスに座る。そして机上のノートパソコンのキーボードに両手を置き、カチャカチャって音を踊る指先で奏でながらライトノベルの作成に励む。
「チッ……なにが、おまえの作品は他とまったく一緒だな……だ。なにがおまえのキャラは他と何にも変わらない……だ。何もわからない素人がほざくんじゃねぇよ、くそったれが」
執筆中にはげしくイラつく書矢がいる。その理由は本日の昼間にあって、喫茶店で駄弁った友人のせいだった。
「書矢、おまえの小説ってさぁ……」
コーヒーを飲みながら、ちょっと申し訳なさそうな顔を書矢に見せる友人。それは露骨なまでに思わせぶり。
「なんだよ……」
相手はおれの小説をホメるのではない? まさかけなすのか? と怯えつつ、たとえ無名作家でもダサい姿を見せるわけにはいかないと余裕を浮かべる。
「いや……書矢よぉ、おまえって小説家になりたいんだよな? だからライトノベルを書いて、そこから斬り込んで可能性をこじ開け進んで行きたいと言ったよな?」
「言った」
「おれはそれをかっこういいと思っていた。お、なに、もしかして友人が小説家とか有名人になる? だったら今の内にサインをもらおうかな! とか思ったりしたんだよな」
「サインが欲しいならしてやろうか?」
「いらねぇ……っていうか、ネットに出ているおまえの小説を見た。そうしておまえを応援する気が失せた。まぁ、これは小説も何も書けない素人の戯言と思ってくれたらいいよ」
友人がここでコーヒーカップを口に運んでいくと、小説家を目指す者にはつらい空気が浮かび上がる。
「それはおれがヘタクソだからか?」
書矢、ドキドキしながら酷評される理由を尋ねた。そうすることでヤワな心は持っていない! とアピール。
「いや、ふつうくらいの実力なんだろう。ヘタだとは思わなかった。読みやすい部類だろうとおれは思う。多分……5段評価でいえば3.8くらいの実力って感じじゃないかな」
「だったら何がいけないと?」
「なにって……書矢、おまえ本気かよ。なんだよあの小説は。おれはてっきり、小説家になりたい奴が正面切って自分の世界を作ったんだろうと期待していたんだ。だから仰天した、すべてにおいて仰天した。信じられねぇ、なんだこいつって思ったぜ」
「そ、そう思った理由はなんだよ……せっかくだ聞かせろよ」
「言ってもいいのか?」
友人が感情が薄いって感じの目を無名作家に向ける。一見すると静かでやさしそうだが、心をえぐる残酷さが裏にありそうにも見える。
「い、言えよ、聞いてやる。だってこのおれは批判なんか恐れない。おれはプロの小説家になるんだからな」
「そうか、だったら言わせてもらう。まず第一に、なんだあのクソ長いタイトルは。えっと……暗記できないから紙に書いてきた。おまえのクソな小説のタイトルは「転生したら異世界でチート能力爆裂な無双になりました。しかもバカみたいにモテるので内心ではハーレムをやりたいと思います。このまま主人公としてのよろこびを独り占めしたいと思います。嫉妬されても困りますってくらいたのしみます」と来た。なんだよこれ、人をバカにしてんのか? これがおまえのセンスってやつなのか?」
つめたい目を向ける友人曰く、109文字のタイトルを見ただけでブラウザバックしたくなったとのこと。
「それはちがう、おまえが素人だから何もわからないだけだ」
書矢、ここでは自信を持った顔で反論。今どきはそういう風にしないと売れないのだと、真実を知らない人間にやや上から目線で説明を投げつけた。
「そうか、そういう風にしないといけないのか」
「そうだ、中身が透けて見えるタイトルでなきゃダメなんだ」
「でもよ、書矢……どいつもこいつも同じじゃねぇかよ。似たように長くにセンスの欠片もないタイトルをつけている。それと同じかよ? いくらそうするべきだって、おれは自分のやりたいようにやるんだ! って姿勢を見せて欲しかったな。結局おまえもたくさんいるゴミみたいなやつらと変わらない。だからおれはタイトルだけで大打撃って感じにがっかりした」
「ぅ……く」
「で、さらに困ってしまうのが内容だ。言ってもいいか?」
「い、い、言えよ……」
「なんか必殺技ってところだけは少し考えているように思う。でもそれ以外は他のやつがやっているのと同じに感じる。ちがうのはキャラの名前だけっぽい。おれはこれまで読んだライトノベルとおまえの作品の何がちがうのかあまり説明出来ない」
「く……」
「そりゃぁおまえだって苦労はしているんだろうけど、あんまりも安直なんだよ、だから何にも響かない。他のやつといっしょなのはイヤだ! という思いで小説を書いて欲しいな」
「う……で、でも……」
「でも?」
「お、おれのつくるキャラクター、女子はかわいいって人気がある」
「マンネリ好きにはハマるだろうな。だって他の作品といっしょなんだから。個性がない。人間としての中身がない。チョロインよろしくすぐホレる。主人公にべったり。男に従順しか取り柄がない、語りようがない。だからおれはおまえのキャラはダッチワイフみたいにしか思えなかった。おっさんの吐息がぶっかけられた人形みたいに思った」
「う……ぐぐ……」
「それが売れるための計算……なのか?」
「そ、そうだ、売れるためにやっているんだ! それが悪いか!」
「悪くない、でもクソにつまらない。他の何十万人って奴がやっているのと同じだ。自分の独自性がほとんどない。それで作品が当たってどうするんだよ? おまえって作家が産声を上げたとしても、それはこの世の利益にならないんじゃないのか? おまえ、作家になったらすぐ消えてしまう程度なんじゃないか? だからがっかりだ。なんだ、しょせんその程度か……と思った」
言った友人の目がちょっと寂し気。それはとても印象的だった。なぜならそれは書矢にとっては見捨てられたように思えてしまうから。
「まぁ、がんばれ」
友人はそれを言うと、書矢の小説および作家活動については何も話さなくなった。いや、それらには興味がないと無関心になってしまった。だから無名の作家こと書矢はとても傷ついた。
「うあぁぁぁぁ、くそぉぉぉ!!!!」
イスから立ち上がった書矢、昼間のやりとりを思い出し怒りに燃える。両手を握り白く明るい天井を見上げながら吐く。
「小説の事を何も知らないくせにズケズケ言いやがって。売れなきゃいけないんだよ、売れなきゃ小説書いたって意味なんか見いだせないんだよ。だから、だから売れるための戦略としてやっているんだ。そんなに言うならおまえがやってみろ、自分の世界とかで小説をアップしてみろ。絶対に誰も読まない、絶対に読者もいいね! も付かない。それがどんなにみじめで苦しいか……そういう事のひとつもわからない奴が偉そうに言うな、ちくしょぉぉぉぉ!!!!!!」
ぐあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁと湧き上がる怒りを鎮めるため、何度も何度も天井を見上げながら深呼吸。そうしてたしかに……マグマみたいな怒りを胸の内側に沈めることに成功。
「ふぅ……」
もう少しでマジに発狂するところだったと、やっと落ち着くことができた。そうして上を見ていた顔面をまっすぐに戻すと、これで執筆に集中できると着席。そうしてつぶやく。
「目指せ書籍化、目指せ累計100万部。売れる作家になってみせる。そうしてあいつを見返してやる」
「さーてと」
午後8時、物尾書矢(ものをかくや)20歳はイスに座る。そして机上のノートパソコンのキーボードに両手を置き、カチャカチャって音を踊る指先で奏でながらライトノベルの作成に励む。
「チッ……なにが、おまえの作品は他とまったく一緒だな……だ。なにがおまえのキャラは他と何にも変わらない……だ。何もわからない素人がほざくんじゃねぇよ、くそったれが」
執筆中にはげしくイラつく書矢がいる。その理由は本日の昼間にあって、喫茶店で駄弁った友人のせいだった。
「書矢、おまえの小説ってさぁ……」
コーヒーを飲みながら、ちょっと申し訳なさそうな顔を書矢に見せる友人。それは露骨なまでに思わせぶり。
「なんだよ……」
相手はおれの小説をホメるのではない? まさかけなすのか? と怯えつつ、たとえ無名作家でもダサい姿を見せるわけにはいかないと余裕を浮かべる。
「いや……書矢よぉ、おまえって小説家になりたいんだよな? だからライトノベルを書いて、そこから斬り込んで可能性をこじ開け進んで行きたいと言ったよな?」
「言った」
「おれはそれをかっこういいと思っていた。お、なに、もしかして友人が小説家とか有名人になる? だったら今の内にサインをもらおうかな! とか思ったりしたんだよな」
「サインが欲しいならしてやろうか?」
「いらねぇ……っていうか、ネットに出ているおまえの小説を見た。そうしておまえを応援する気が失せた。まぁ、これは小説も何も書けない素人の戯言と思ってくれたらいいよ」
友人がここでコーヒーカップを口に運んでいくと、小説家を目指す者にはつらい空気が浮かび上がる。
「それはおれがヘタクソだからか?」
書矢、ドキドキしながら酷評される理由を尋ねた。そうすることでヤワな心は持っていない! とアピール。
「いや、ふつうくらいの実力なんだろう。ヘタだとは思わなかった。読みやすい部類だろうとおれは思う。多分……5段評価でいえば3.8くらいの実力って感じじゃないかな」
「だったら何がいけないと?」
「なにって……書矢、おまえ本気かよ。なんだよあの小説は。おれはてっきり、小説家になりたい奴が正面切って自分の世界を作ったんだろうと期待していたんだ。だから仰天した、すべてにおいて仰天した。信じられねぇ、なんだこいつって思ったぜ」
「そ、そう思った理由はなんだよ……せっかくだ聞かせろよ」
「言ってもいいのか?」
友人が感情が薄いって感じの目を無名作家に向ける。一見すると静かでやさしそうだが、心をえぐる残酷さが裏にありそうにも見える。
「い、言えよ、聞いてやる。だってこのおれは批判なんか恐れない。おれはプロの小説家になるんだからな」
「そうか、だったら言わせてもらう。まず第一に、なんだあのクソ長いタイトルは。えっと……暗記できないから紙に書いてきた。おまえのクソな小説のタイトルは「転生したら異世界でチート能力爆裂な無双になりました。しかもバカみたいにモテるので内心ではハーレムをやりたいと思います。このまま主人公としてのよろこびを独り占めしたいと思います。嫉妬されても困りますってくらいたのしみます」と来た。なんだよこれ、人をバカにしてんのか? これがおまえのセンスってやつなのか?」
つめたい目を向ける友人曰く、109文字のタイトルを見ただけでブラウザバックしたくなったとのこと。
「それはちがう、おまえが素人だから何もわからないだけだ」
書矢、ここでは自信を持った顔で反論。今どきはそういう風にしないと売れないのだと、真実を知らない人間にやや上から目線で説明を投げつけた。
「そうか、そういう風にしないといけないのか」
「そうだ、中身が透けて見えるタイトルでなきゃダメなんだ」
「でもよ、書矢……どいつもこいつも同じじゃねぇかよ。似たように長くにセンスの欠片もないタイトルをつけている。それと同じかよ? いくらそうするべきだって、おれは自分のやりたいようにやるんだ! って姿勢を見せて欲しかったな。結局おまえもたくさんいるゴミみたいなやつらと変わらない。だからおれはタイトルだけで大打撃って感じにがっかりした」
「ぅ……く」
「で、さらに困ってしまうのが内容だ。言ってもいいか?」
「い、い、言えよ……」
「なんか必殺技ってところだけは少し考えているように思う。でもそれ以外は他のやつがやっているのと同じに感じる。ちがうのはキャラの名前だけっぽい。おれはこれまで読んだライトノベルとおまえの作品の何がちがうのかあまり説明出来ない」
「く……」
「そりゃぁおまえだって苦労はしているんだろうけど、あんまりも安直なんだよ、だから何にも響かない。他のやつといっしょなのはイヤだ! という思いで小説を書いて欲しいな」
「う……で、でも……」
「でも?」
「お、おれのつくるキャラクター、女子はかわいいって人気がある」
「マンネリ好きにはハマるだろうな。だって他の作品といっしょなんだから。個性がない。人間としての中身がない。チョロインよろしくすぐホレる。主人公にべったり。男に従順しか取り柄がない、語りようがない。だからおれはおまえのキャラはダッチワイフみたいにしか思えなかった。おっさんの吐息がぶっかけられた人形みたいに思った」
「う……ぐぐ……」
「それが売れるための計算……なのか?」
「そ、そうだ、売れるためにやっているんだ! それが悪いか!」
「悪くない、でもクソにつまらない。他の何十万人って奴がやっているのと同じだ。自分の独自性がほとんどない。それで作品が当たってどうするんだよ? おまえって作家が産声を上げたとしても、それはこの世の利益にならないんじゃないのか? おまえ、作家になったらすぐ消えてしまう程度なんじゃないか? だからがっかりだ。なんだ、しょせんその程度か……と思った」
言った友人の目がちょっと寂し気。それはとても印象的だった。なぜならそれは書矢にとっては見捨てられたように思えてしまうから。
「まぁ、がんばれ」
友人はそれを言うと、書矢の小説および作家活動については何も話さなくなった。いや、それらには興味がないと無関心になってしまった。だから無名の作家こと書矢はとても傷ついた。
「うあぁぁぁぁ、くそぉぉぉ!!!!」
イスから立ち上がった書矢、昼間のやりとりを思い出し怒りに燃える。両手を握り白く明るい天井を見上げながら吐く。
「小説の事を何も知らないくせにズケズケ言いやがって。売れなきゃいけないんだよ、売れなきゃ小説書いたって意味なんか見いだせないんだよ。だから、だから売れるための戦略としてやっているんだ。そんなに言うならおまえがやってみろ、自分の世界とかで小説をアップしてみろ。絶対に誰も読まない、絶対に読者もいいね! も付かない。それがどんなにみじめで苦しいか……そういう事のひとつもわからない奴が偉そうに言うな、ちくしょぉぉぉぉ!!!!!!」
ぐあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁと湧き上がる怒りを鎮めるため、何度も何度も天井を見上げながら深呼吸。そうしてたしかに……マグマみたいな怒りを胸の内側に沈めることに成功。
「ふぅ……」
もう少しでマジに発狂するところだったと、やっと落ち着くことができた。そうして上を見ていた顔面をまっすぐに戻すと、これで執筆に集中できると着席。そうしてつぶやく。
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