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153・コロッセオでの戦い3(フェスティバル・オブ・バトル)

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153・コロッセオでの戦い3(フェスティバル・オブ・バトル)

 
 コロッセオという巨大なスタジアムの一か所にある巨大な鉄格子が開いた。そしてこの広大な空間に響き渡るうなり声を上げられる巨体って生き物がゆっくり姿を現す。

「ライオン!?」

 息吹が思わずつぶやくと、同じ檻に入って隣にいるブ太郎がかんたんな説明をしてやる。

「あれはバーバリライオンです。とにかく鬣が壮大なスケール、よって正面からは超巨大な顔面しか見えないって話ですね。ま、コロッセオの代名詞みたいなモノですよ、バーバリライオンは」

 一方、バーバリライオンが登場すると安全な場所にいる観客は一斉に沸いた。待ちきれないという感じで、殺せ! という声もたくさん飛び交う。

 しかしフィールドの中央に立ち、合気道の構えを取る佐藤グラディアートルはとても落ち着いている。すさまじい威圧感を持つビッグキャットの出現にまったく動じていない。

―ガルルー

 音響に工夫でもしてあるのか、ライオンのうなり声が残酷かつ印象的に響き渡る。

「来い!」

 グラディアートルが叫ぶとバーバリライオンが動いた。圧巻とも言える鬣のせいでやや短く見える足をすばやく動かしながら、おそろしさを美しさに変換しながらターゲットに向かってダッシュ!

「む!」

 グラディアートル、加速して向かってくるバーバリライオンを構えたまま迎える。そしてライオンは来た、目の前は巨大な顔面しか見えない。そして岩をも砕きそうな犬歯と、人間を飲み込みそうな口内が劇的に映る。

「波!」

 男が叫び方足で力強く地面を踏むと、気合によって巨大なバーバリライオンが後ろへ吹き飛ぶ。そうしたら観客がまたより激しく湧く。

「この佐藤グラディアートルにとってみれば、ライオンなど体の大きなネコに過ぎない」

 道着に鉢巻姿の男はそう口にすると、構えたままジリジリと自ら前に進む。そうして起き上がり怒りに火が付いたライオンの最襲を待つ。

―ガルルルウルルー

 飢えに怒りが混じったライオンの声と表情は心臓の弱い者が見ればショック死するほど恐ろしくうつくしい。それがさっきよりも勢いよく向かってきた。そして食事であるべき者に向かってとびかかる。

「勝機!」

 ここでグラディアートルは自ら前に進んでかがみ込む。

「でやぁ!」

 下からはげしい突き上げ、いや、ミニアッパーみたいな攻撃が出た。するとどうだ、ライオンの体が宙に浮いたではないか。

「でやぁ!」

 同じ攻撃を連打でくり返すと、吠えるライオンの体がお手玉みたいにコロコロと浮かぶ。

「でやぁ!」

 男は息を持つかせぬ連打でライオンを浮かし転がす。

「でやぁ!」

 力加減を上げたのか、ライオンの体がグワーッと空に向かって舞がっていく。するとグラディアートルはグッとかがみ込み、大きな声で叫びながらライオンの真下からジャンプ!

「食らえ、飛翔体アタック!」

 右手をにぎり突き上げたまま突進。それは吠えているライオンの腹にぶち当たって……そのまま突き破る。

―ガオォォォォォー

 観客の鼓膜を破るようなボリュームでライオンの断末魔が響く。そしてグラディアートル拳に突き破られた体が半分に割れて砕け散る。

 ドワ! っと外に飛び出す内臓とかモロモロ。それらがドシャ! っと地面に落ちると、死亡しているライオンの下半身に神経が残っているのか、足がピクピクっと動いたりした。

―ワァァァァァー

 観客から拍手の嵐が起こる。そしてすぐさま汚物処理班というのが出てきて、風みたいなスピードでライオンの死体やら内臓などを片付ける。なぜならこれで終わりではないからだ。飢えた猛獣が同士の死体に食らいついては盛り上がらない、そのためである。

「これで終わるわけがあるまい」

 グラディアートルがつぶやいた通り、一匹のライオンで済ませてもらうほどコロッセオのショーは甘くない。歴史上、複数の猛獣と同時に戦い散っていった剣闘士の数など星の数に匹敵するのだから。

―がおぉぉー

―がぉぉぉー

―がぉぉぉー

 バーバリライオンが出てくる、出てくる、ひっきりなしに出てくる。それもう狂乱以外のなんでもない。これぞライオンのバーゲンセールという感じだ。

「ざっと……20頭」

 グラディアートルは尋常ではないライオンの群れを見ながら、グッと両腕を広げ青い空を見上げる。そうして大声で気合を入れ始める。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 そうしてライオンたちが走り出すと、道着の男は右手をにぎり、それを地面に向けて撃つ。

「おらぁ!」

 ズドーン! と大地を割るような音が鳴る。するとどうだ、あきれるほど大量にいるバーバリライオン達がグラついたのみならず、わずかだが体が浮かされてしまう。

「勝機!」

 ここでグラディアートルがかがみ込む。そうしてその体勢のまま片足を伸ばす。一見するとコサックダンスを始めそうな形だが、そのままコマのようにグルグル回転し始める。

「うぁぁぁぁ、グラディアートル・スピン!」

 叫ぶと同時に男の体は回転したまま落下して立ち上がれないライオンの群れに向かっていく。

 ブチブチ! とか、ブシュブシュ! とか、ライオンたちの気の毒な断末魔とか、あっちこっちに飛び散る足とか、破けた胴体よりこぼれ落ちる内物とか、短い時間の間に壮絶な光景が展開される。

「完了!」

 グラディアートルが技を終えて立ち上がると、辺り一面は大量の血とライオンのバラけた死体の山あり。

―わぁぁぁぁー
 
 観客たちから嵐のように湧き上がる大歓声に拍手。それは異常な営みを強制されている者であっても、尋常ではない高ぶりへと誘われる。だからグラディアートルはグッと手を握って右腕を突き上げ叫ぶのだった。

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 それを檻の中から見ていたブ太郎、なかなかやりますねと感心し隣の息吹に目をやる。すると息吹はため息を交えて言う他ない。

「あいつ……自分をマジメとか言っていたけど、マジメはこえぇぇとおれは思わずにいられないな」
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