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142・愛しのスーパードールまりあ15

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142・愛しのスーパードールまりあ15


「では、おれも心を熱くしよう」

 まりあを見ながら言った息吹の体からオーラが浮かびだす。そしてそれは薄い白いから始まり、まりあと同じ青色となり手に持つ刀も青い炎で包まれていく。

「おまえの名前はなに?」

 まりあが向き合う相手に問う。

「おれは家満登伊吹」

 すると女は自分のまりあという名前を言いながら、刀の先を地面に向けていく。その先は夜のつめたいコンクリートに当たる。

「息吹、わたしはおまえなんかに負けない」

 まりあの声と青色に照らされる顔には何か策があるように見えなくもない。だから息吹は少し後ずさりして警戒。

「家満登息吹、ジャマだから死んでもらう」

 言ったまりあから、正確には先を地面につけている刀より何かが浮かんで巨大化していく。それは最初青い炎の増幅かと思ったが、ある生き物の形になっていくのがわかる。

(ヘビか……)

 そう、それは青い炎から生まれた巨大なヘビ。見る者の心にうつくしさと危うさのミックスフィーリングを与える。

「行け、ブルーコンドロ!」

 まりあが叫んだ、そして刀を下から上に向かってグワっと振り回す。すると巨大な青いヘビが一瞬の神速で口を開け息吹へ向かう。

「ぅ……」

 息吹、一瞬判断が遅れた。刀で斬れるか? などと考えてから空中へ逃げたがギリギリだった。後ほんのちょっと舞い上がりが遅かったら直撃を食らったかもしれない。

「空中へ上がったら避けられないよ!」

 まりあ、夜空に舞い上がった息吹を見てすぐさまニ発目を放とうとする。だが息吹は右手に持つ刀の体を見つめながら、空中で体をグッと捻って大きく叫ぶのだった。

「青竜!」

 すると空中にブルードラゴンの姿が出現。それはブルーコンドロより大きく、そしてバチバチ輝き神のごとくうつしい。

「ぶ、ブルードラゴン……」

 まりあ、ドキッとしながらもうっかり見入ってしまった。それは自分を攻撃するために向かってくるモノだというのに、あまりにうつくしいからってポーっとなってしまった。

 ドーン! 青竜が我を忘れていたまりあに直撃。青い竜の怒りをまともに食らったとしか見えなかったが、それは事実。青竜の姿がはじけるようにして消えたら、道端に転がるまりあの姿あり。

「あぁぁぁぁぁ!!!」

 転がるまりあが叫びながら転がり回るのは、いまの直撃で片腕がぶっ飛んだせいである。記憶カードを入れているのは反対側の腕であったが、まりあにとってみれば腕が一本消えたという事実が大変にショック。

 一方そのころ、離れたところから夜のバトルを見ていた由紀が大興奮。地面に転がるまりあの姿や痛々しいって声に、あの女死にますよ! と笑顔を隠すことができない。

「っていうか、まりあってドールなんだから、ハデにぶっ殺されたらいいんですよね。そうすれば先輩とわたしが安心して愛を紡げるって話ですよ」

 えへっと嬉しそうに笑う由紀。

「あ、あぁ……」

 和磨、ひとまず由紀の言う事に同意というつぶやきを落とす。しかしあそこの光景を目にすると胸が痛いというのも事実だった。

(まりあ……)

 26歳の男はあのヒーローとしか思えない存在にまりあが葬られるのかと思うと、急に苦しくなってきた。いいのだろうか、そんな事をさせていいのだろう、それはまりあがあまりに可哀想なのではないか? と悩みが湧いてくる。

「ぅ……く……」

 まりあの腕が飛んでしまった方からボタボタと液体が落ちる。それは血なのか、あるいは血に似た何かなのか、それとも全然ちがう何かなのか、いずれにせよ血というイメージで大量にボタボタ零れ落ちる。

「ドールなんだよな? だったらおれは気を使ったり胸を痛めたりはしないぞ。おれは悩んだりせず、この戦いを終わらせる」

 地面に着地した息吹、銃にマグナム弾をセットしながらまりあに近づく。そして2人の戦いをちょっと離れたところから見ているかすみは何も言えない。まりあが可哀想に見えるが、正しいの息吹の方だから口を挟まないようにしようと唇を結ぶ。

「終わりだ」

 息吹は膝を落としたまま立ち上がれないまりあの顔に銃口を向ける。だがこのとき、青い炎に照らされたまりあの顔にツーっと涙が流れるのを見た。そうすると、くだらない! と言い放つ事ができなくなり、仕方ないと割り切って口を開く。

「ドールに言うのも変かもしれないが……何かいい残す事は? あれば聞いてやる」

 するとまりあ、いっぱい涙を流しながら、もっと愛し合いたいと純情な子どもみたいに言う。

「せっかく……せっかく動けるようになったって、命をもらったも同じで、和磨くんという人と愛し合う事ができるようになったのに、もっとそれをやって愛のすばらしさを味わいたいと思っていたのに、でも……こんな風になったらムリ。こんな風になったらわたし……存在してはいけないモノでしかない。どんなに愛が欲しいと思っても、求める方がまちがっているだけの存在でしかないんだよね」

 まりあ、ガクガク震えながら涙いっぱいの目で息吹を見ながら言った。好きな人であればまだしも、そうでもない人間につぶされるのはイヤだから、せめて自爆させて欲しいと。

「自爆?」

「潔く自分で死ぬ……それくらい……それくらいさせて欲しい」

 まりあ、涙まみれの顔のまま残っている方の手を動かす。それを自分の衣服、下半身側に差し込みゴソゴソやってから息吹に伝えた。

「いま、爆弾をONにしたから逃げて。あと3分で大爆発するから」

「わかった」

 息吹、マグナム弾をまりあに放つのは止め、この場から遠ざかろうと思った。しかしこのとき、まったく予想しない事が発生する。

「まりあ!」

 泣きながら走って来たのは他でもない和磨だった。この流れを見ていてあまりにも胸が痛いと耐えられなくなったせいだ。

「バカ、なにを……爆発するんだぞ!」

 息吹、突然にやってきた和磨を制止できなかった。だがまりあの彼氏という男は、涙流しながら両膝を落としまりあと向き合い。

「まりあ……まりあ」

 和磨は泣きながら覚悟した。まりあが激怒して殺されても、これは自分のせいだから甘んじて受け入れようと。しかしまりあは激怒するどころか、涙いっぱいの顔でちょっとうれしそうな顔で言ったんだ。

「和磨くん……今まで……ありがとう」

「あ、ありがとうってなに? なんで礼を言う? なんで怒らない?」

「もういいよ、ほんとうはもっと愛し合いたかったけど、でもわたしは何も得られなかったわけじゃない。短い間とはいえ和磨くんと愛し合えた、うれしかった、ものすごく……だから和磨くん、早くここから立ち去って、爆発するから」

「そ、そんなこと、そんなことできるもんか!」

 和磨、なんとまりあをグッと強く真正面から抱きしめた。そしておどろくまりあの耳元で真心のセリフを放つ。

「まりあ……好きだ、だからいっしょに死のう」

 これには息吹もかすみも驚きで固まってしまう。だがそんなの許せるわけがないと声を発するのが由紀。

「先輩! 何しているんですか! しっかりしてください、先輩にはわたしがいるじゃないですか! そいつはドールなんですよね? しかも爆発するとか言っているんですよ? 先輩には……先輩にはわたしがいればいいじゃないですか!」

 これは決まったと一同は思った。だが何という事か、和磨は由紀の声にまりあを抱きしめながら反論したのである。

「うるさい、だまれ、だまれ! そもそも内田、おまえが悪いんだ、おまえが横から乱入したりするから、だからピュアな物語がおかしくなった。全部おまえが悪い、おまえがおれとまりあのラブストーリーを引き裂いたんだ!」

 由紀、そう言われて目の前が真っ白になる。今のはいったい何? と、脳の一部が破損したように動けなくなる。

「バカ、ボーッとしている場合じゃないでしょう!」

 かすみ、由紀の手をつかんで走り出す。そしてしばらくしたら、後方にどでかい爆発音が発生。赤とオレンジの輝きが周囲一帯を包み込む。振り返ってみると、かずまとまりあがいたところに人の姿はない。何かが転がっているようには見えるが、人の形はない。

「く、先輩のバカ!」

 かすみの手をふりほどいた由紀、燃え盛る生々しい現場に戻ったら、そこに転がっているまりあが使っていた刀を手に取る。そして自分の首を切って自決しようとする。

「バカ、何やっているんですか!」

 かずみのビンタがビシ! っと決まる。そして手から刀を取り上げられ、由紀は悔しそうに涙を流して叫んだ。

「先輩は……小田和磨は、あのバカはわたしよりドールを選んだ。逆にいえばわたしはドールに負けたんだよ? ドールに負けたなんて……だったらわたしは死ぬしかないでしょう!」

 そんな悲しい声を聞かされたかすみ、今度はそっとやさしく由紀の手を取って言ってやる。

「ドールに負けたっていうなら……これからドールなんかに負けないステキな女になればいいじゃないですか」

「く……」

 こうして一人の男が愛に飢えて紡いだ物語は終わった。いや、もしかすると愛は終わらないのかもしれない。和磨とまりあ、2人は夜空の星になって愛し合っていくのかもしれないのだから。
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