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105・サキュバスと12歳の少年に戻されてしまった息吹3

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105・サキュバスと12歳の少年に戻されてしまった息吹3


「ん?」

 息吹、まずは両目を下げて自分の両手を見てみる。同じ……としか思えないが、気のせいかグゥーっと小さくなったようだ。次に着ている衣服に目をやりながら掴んでみたりする。黒のカーディガン、黒のTシャツ、黒のチノパンツ、どれも同じだと思うが縮んでしまった感じがここでもする。

「うん?」

 ここで店内をグルっと見渡し、最後にサキュバス望を見て目の位置こと高さがおかしいと思う。

「息吹、すっごくかわいいよ。女が放っておかないね、それは」

 息吹、どうしても自分を見たくなる。しかしミラー代わりとなるモノがすぐ側にはないからしてトイレに行くしかないと思う。

「ちょっと待ってろよ」

 望に言ったとき……声がおかしいと気づく。この声は23歳の音色ではない。ずっと昔のなつかしい頃の声。

「わたしあれ、他にいい男がいないか探すからさ、また後で会おう。息吹は12歳の自分を楽しんだらいいよ。後でちゃんとこの胸に抱いてあげるから、パイズリだってしてあげるから、それまでは焦らないで! っと」

 言ってうふ♪ っと微笑む女。

「クソ……」

 望を逃がしたくないと思ったが、今の自分をハッキリ見る方が先だからということで、息吹はトイレという空間に飛び込む。そしてでっかいミラーの前に立ち、そこに映る自分を見て頭の中が真っ白になった。

「え、え、え、え、え、え……」

 家満登息吹、その名と人物は同じだが、どう見ても今現在の顔や姿にあらず。誰がどう見たってそれは11歳から13歳のいずれかという感じであり、12歳が正解なのでは? というモノ。そして顔がそうなのだから全体像も23歳とはちがう。

「12歳……マジ……これってほんとうにおれ?」

 息吹は鏡を見ながら自分の頬をつねってみたりする。そうして鏡に映るのとこの自分が完全リンクと承知したら、額に左手を当ててなげく。不覚、油断などするからキスされてしまったとおのれを悔いる。

「っていうか、望は? サキュバス望は?」

 息吹が慌ててトイレから出ようとすると、中に入ろうとしてきたやってきた見知らぬ男性とぶつかる。そのとき両者には明らかな身長があり、相手が大男なのではなく、息吹が12歳に戻っていることを痛感させる。そしてダメ押しって感じで言われた。

「気をつけろよ、このクソガキ」

 あぁ……なんてなつかしい響き。言われるとハンパなく腹立たしい言葉。それをたんになつかしいと思っただけではない。賢者であるはずの自分が、実は愚者なんですと怒りをぶっ放したくなる。人に迷惑をかける事をやりたくなるなんて、そんな性質の悪い感覚もなつかしく湧き上がってくる。

「望は?」

 バッと店内に出た息吹だが、そこにはサキュバス望ことすごい巨乳って女の姿は見当たらない。

「ふざけんなよ」

 今や少年となった息吹、店の外に出た。そしてあっちこっちとキョロキョロやってみた。しかしお目当ての女はどこにも見当たらない。そして行き交う人間のほぼすべてが自分より背が高いことにショックを受ける。身長が下がったことにより、世界がずいぶんと大きく広く見えてしまう。実際にはちっぽけなモノだというのに。

「あ、見てみてあの子」

「あ、かわいい……小6かな、中1かな」

「なんか抱きたくなるって感じがしない?」

 そんな声が聞こえた方に向いてみると、女子高生2人が自分を見ている。そしてその顔には明らかに、息吹少年に一目惚れというストロベリーな感じが漂っている。

「チッ……」

 息吹、ひとまずこの場から退散。そして走り出して思った。23歳の息吹も体型などに問題があるわけでなく運動神経もよい方であるが、12歳はまったく別次元に軽い。

「そういやこんな感じだったな。なっつかしい!」

 昔のことなんかどうでもいいぜ! と思っているはずの息吹だったが、12歳になって体の勢いを感じると考えが少し変わるような気がしてしまう。いい、この感じはすごくいい! と、単細胞な愚者みたいに喜びが沸くので、人目を盗で三次元から四次元に入る。そして人に見られないという中で、すごく久しぶりの全力ダッシュをかました。

「おぉ、この感じ……これ、そうこれ……ジェットな感じ、息切れと無縁の、いつまでも暴れたくなるこの感じ」

 走った、思いっきり走った。12歳でもそんなに長くダッシュしたら息切れして当たり前だろうってくらい突っ走った。そして立ち止まりゼーゼーやるとき、たとえ息切れしても気持ちがいいと思う忘れていた若さにカンゲキしてしまうのだった。

「こうなると12歳を楽しみたいとか思わなくもないが……この姿ではどこで何をするとか制限付きまくりだしなぁ。いやまぁ、もう死んだ者だからそれでもいいんだろうけど」

 ブツブツやりながらなんとなく歩いて12歳の目線で見慣れた世界を見渡してみる。それはなつかしさと新鮮味が混ざり合った、狂気とも天才とも取れるような感情を誘う。

 しかしここで息吹、風に乗って聞こえてきた声を耳にして足を止めた。それは裏通りに入ってすぐ出てくる公園の近くで、1人の女子に3人の男が絡むという光景。

「イヤです! あなたたちなんか好みじゃないですから」

 そう言っている女子というの見た感じは中学2年生から高校1年くらいだろうか。身長は160cm前後、アッシュという色合いのショートボブって髪型であり、ほんのりボーイッシュが混じっていながら美形女子とふっくらな顔立ち。花色の薄手パーカーを上にまとい、内側にはマンダリンオレンジっぽいカラーの無地Tシャツがあり、控えめに言ってとても豊かでふっくらやわらかそうって巨乳具合が現物としてあり、下はピオニーパープルのロングスカート。

「そんなこと言わないでよぉ」

「めっちゃかわいいじゃん、1000年に一人って感じじゃん」

「しかも巨乳! これってもう天使だよ、きみはこの世を代表するラブリー巨乳エンジェルだよ、自信もって!」

 性欲満タンな大学生であろう3人はうれしそうにニヤニヤして女子を囲む。その様は3匹の狼が極上の羊を食べようとヨダレを垂らしているようにしか見えない。

「ああいう光景はこの世のお約束なのかぁ」

 息吹少年、これは放っておけないという事で四次元より三次元にフッと移動。そうしてどこからともなく愛用アイテムの一つである木刀を取り出す。でもそのとき思った。

「おれが12歳って縮んだら武器がそれに合わせたサイズになるのか……だがおれは負けない!」

 息吹、スーッとゆっくり息を吸いながら顔を上に向け、それを吐き出してから叫んでやった。

「こらぁ、おまえら何をやってるんだ!」
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