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89・いけない先生と悪夢1

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89・いけない先生と悪夢1


 本日は朝からひたすら大雨という日だった。灰色の空が病気のようにザーザー大量の涙を落としまくる。おかげでつめたく陰鬱なフィーリングが世界を覆って止まない。

「あぁ……まったく面倒くさいなぁ」

 ひとりの少年が晴天小学校にたどり着く。彼はここに通う6年生であり、一度帰宅したのに戻ってきたのは単純に教科書を置き忘れていたせいだ。そんなの放っておけよ! ができたらいいのだが、それでは宿題ができないからやむを得ず戻ってきた。

「ふぅ……」

 午後5時、まだ夜と表現するには早いはずなのだが、しかも校舎の中は明るいはずなのだが、すべては外の暗さがいけないのだろうか、ずいぶん根暗で静かな空間みたいに思えてしまう。だからこの少年こと中野太一は早く用事を済ませて帰宅したいと思った。

「おぉ……」

 たどり着いた教室のドアを開けるとガラガラで誰もいない。窓の外に見える灰色って憂鬱なカラーが目立つせいだろうか、外の大雨サウンドが聞こえるというのに教室の静けさがそれを上回るように感じる。

「なんか怖いな……」

 太一はそう言いながらドアを閉め、教室の電気をつけずホラーチックなフンイキを少しだけ満喫。こういう場所で殺人事件が起こったりしたら、あるいはここに魔物みたいなモノが登場したら、いったいどれだけ恐ろしいだろうなんて事を考えながら学校のグランドが見えるデカい窓際にある自分の席へ到着。

「やっぱり教科書とかは毎日持って帰るようにしないとダメかぁ」

 つぶやいた太一が一冊の教科書を机から引っ張り出すとき、うっかり他の教科書も落とした。そこで手提げを持ったままかがみ込んだら……まさにその瞬間に突然ガラっとドアが開いた。

(あぅ!)

 暗く無音的な教室が突然破かれたような緊張にドキッとする太一だったが、なぜかそのとき声を抑えた。そして立ち上がればいいのだろうが、かがみ込んで隠れるような事をしてしまった。

 パッと電気がつく。室内はいきなり白くまぶしくなる。そうして2人の声というのが耳に入ってきた。

「なぁ、頼む。一度でいいから抱かせてくれ」

「いい加減にして、この変態!」

 それは耳にした太一が何とも思わないのはムリっぽい会話だった。まず男の方というのは生徒ではなく36歳の教師だ。

(隣クラス担任の関口……)

 隠れながらそっと見て教師が誰かを確認した。つぎに女子生徒とかいうのは、同じクラスの喜代村真理恵だと知る。交わされる会話からすると、2人は付き合っていたとからしいが、それだけでも太一には目が回る内容。

(うっそ……教師と生徒が付き合うとか、そんなのあり? だってここって小学校なのに)

 太一はそう思ったが場のフンイキがよくない。ここで突然に顔を出すのは間違いだとしか思えない。だから身を隠したままガマンという選択を取る。

「なんでだ喜代村、おまえ……先生のことが好きなんだろう? だったらどうしてだ、どうして愛し合う事を拒むんだ!」

 教師は女子生徒にそんな事を言っている。愛し合うなんて言い方をしているが、それがダイレクトな言葉に代わるとすればおそろしいと太一は青ざめながら息を飲む。

「先生のことは好きだったけど、セックスしたいなんて思ってないから。そんな話が出てきたら先生のこと嫌いになるよ?」

 喜代村真理恵はきっぱりとした口調で言い返している。どういう経緯かはわからないが、それでもなんとなく察しがついた。おそらく喜代村は何かの相談みたいな事を関口にして、話を聞いてくれるやさしい先生みたいに思って少し仲がよくなったんだろうなと太一は思う。

「なぁ、一回でいいんだよ、愛しているんだ、抱かせてくれよ」

 場所と立場を踏まえれば絶対的にダメであろう事を教師が口にしている。それを太一はおぞましいと思ったが、少し安心感を持っているのは、喜代村真理恵という同級生女子はきっぱり断って話が終わるだろうと思っているからだった。なんせ彼女は学級委員のしっかり者だから。

「喜代村! どうして先生の言うことが聞けないんだ!」

 ここで感情が高ぶったという声が発生。それに並行してビシ! っとビンタの生痛い音も生じた。

「はんぅ……」

 痛い! と訴える声が真理恵に出たら、今度は机がガラガラっと乱れ動く音が発生。

(な、なに……何してる?)

 太一、心臓をドキドキさせながらバレないように現場の中心に目をやる。すると机の上に押し倒された真理恵がいて、それを抑え込もうとする教師が我を忘れるって行動に出ようとしている。

「い、いや!」

 両足がジタバタさせる真理恵。

「生徒は先生の言う事を聞くものだぞ喜代村。それに……だいじょうぶ、先生はおまえにやさしくするから、絶対傷つけたりしないから」

 教師はそんなムチャクチャな事を言いながら生徒のスカートをムリヤリ脱がそうとする。

「ふざけんなバカ教師、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!」

 真理恵はありったけの怒りを込めて言い放った。するとベルトを外そうとしていた教師は怒りの行動に出てしまう。

「この……」

 男は嫌がっている女子生徒の髪の毛をつよくつかむと、全身全霊って大声で叫ぶ。

「子供が大人をバカにするな!」

 その醜い叫び声と同時に……ゴン! っとおそろしく鈍い音がした。その音は震えながら耳にした太一にジワーっとつめたく無慈悲な緊張をもたらす。喜代村真理恵の声や動く音が聞こえなくなったからなおさらだ。

(え、え、き、喜代村……喜代村は……どうなった?)

 気になる、大いに気になる。しかしはげしくおそろしいので確認の行動に出れない。教室に漂うこの空気を気にする事なく動くなんてまず不可能。

「喜代村? おい、おい!」

 教師のおどろく声が聞こえたら太一はよりいっそうドキドキして思わずにいられなかった。

(ま、ま、まさか……喜代村……死んじゃったとか……)

 ごくっと息を飲む太一だったが、どうやら胸の内で思った事は当たっていたらしい。

「喜代村、喜代村、き……」

 ここで教師の動きと声が止まった。それが何を意味しているのか、見なくてもわかると太一は思った。だが見たいと思っていなくてもあるモノが見えてしまった。

 ポタポタ、ポタポタ……っと、ある机から床に落ちるモノ。それは赤い液体である。何も言わない動かないって喜代村真理恵が横たわっている机からポタポタ落ちるモノである。だから太一はガクガク震えあり得ないほど真っ青になりながら内側でつぶやく。

(き、き、喜代村……し、死んで……)

 そう、喜代村真理恵は死んでしまったのである。後頭部をあまりにつよく打ち付けられ事で、暗く冷たい世界に旅立ってしまったのである。
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