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86・好きな女の子へ告白するに必要な言葉1
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86・好きな女の子へ告白するに必要な言葉1
それは月明かりがビューティフルに色っぽい午後の7時過ぎって頃だった。今日はけっこうあっちこっちに出張って忙したかったなぁと思う伊吹、夜風に当たってタバコでも吸おうと考え川原を歩いていた。
するとどうだろう、砂利道の真ん中に立ち川を見つめながら何やら大きな声を出している男の姿が目に入った。動く範囲は小さいが手振り身振りはやや大げさであるゆえ、演劇の練習かと伊吹は推測する。
「ちょっと見てみようっと」
石のベンチに腰を下ろしひんやりつめたい風に当たりながら、演劇に青春をかけているのであろう人の熱意を見てみた。すると声がちょっと若いと聞こえる。つぎに横顔などが月明かりに照らされて目に入ると、高校生くらいだと見えた。
「あぁ、ぼくは夜空の美しさを象徴する月みたいな、そんなあなたを思うしかできない弱い男に成り下がってしまいました。ぼくはもう不治の病にかかったも同じではないかと思えてなりません。こうなるとあなたが恋しいのに憎らしい。あぁ、もしあなたがこの男を憐れんでくれるというなら、どうかその手をやさしく差し伸べてもらえないでしょうか。その手がこのハートに少しでも触れてくれたら、わたしはあなたにその数百倍の熱意と愛をささげたいなどと思っているのですから」
男子高校生であろう者の声はエモさに満ちていた。それは自然体の声にはなっておらず、何がなんでも演技を決めて見せるぜ! 的なカクカク感にあふれている。だから見ていると笑ってしまいそうになるものの、熱意だけは確かなモノとして伝わるから笑うと気の毒だと思わせられてしまう。
「あぁ、エリっち……いとしいエリっち、どうしてあなたは冷静な顔をして、このぼくはここまで苦悩せねばならないですか? ぼくは硫酸の海に飛び込んでもだえるように苦しいのに、どうしてあなたの笑顔は安定していて、うつくしい月みたいに輝き続けるのですか? あなたが憎い、そして恋しい、あぁエリっち、あまりにもいとしいエリっち……」
エリっちというかわいい響きからして、おそらくは微笑ましい創作を舞台で演じるみたいな話かな? と伊吹は思いながらタバコを吸う。
「あぁ、エリっち……いまこの瞬間、38万kmの距離を超え天空で輝くあなたにこの想いを届けたい!」
熱のこもった声を空に向かって放つ者は、両腕を広げ月を抱きしめたい的な心を浮かばせる。ものすごく浸りこんでいるなぁと思ったら、彼の舞台は成功するだろうと思ってやれる伊吹だった。
「ふぅ……」
ひとまず落ち着いたのか両腕を下した彼は大きく深呼吸し、いましがたの熱量がウソみたいにおとなしい感じになる。そうして頭をかきながらフッと振り返ったら、座ってタバコを吸っている伊吹を目にした。
「な、な、な、な、ななな……」
急に噴き出す大慌てというアクション。それを見た伊吹、もしかして見られたくなかったわけ? と言いかけるも声を出すタイミングを逃す。すると相手の方がジャリジャリっと近づいてきて、今の見ていたんですか? と確認の問いをしてきた。
「見た、バッチリ見た。エリっちとか38万kmとか憎いとか愛しいとかモロモロ聞いた」
別に見てもいいのだろう? という目を浮かべながらサラっと言ってのける伊吹。すると相手は顔を赤くしテレの逆ギレってジタバタをやりだす。
「あぁもう、何を勝手に見ているんですか、マナー違反ですよ、マナー違反!」
「いや、おまえ……そんな目立つ場所で大声の演劇とかやったら目に入るだろう。っていうか……見て欲しいアピールとしか思えなかったぞ」
「み、見て欲しいなんて言っていませんよ。それにその、演劇などではありませんから」
「へ? じゃぁなんだ?」
「そ、それはその……こ、告白の練習っていうか……」
「告白の練習?」
「あぁもう……こうなったらあなたに責任を取ってもらいます。ぼくの相談に乗ってもらいますよ」
「ちょっと待て、なんでおれがそんな目に遭うんだ」
「乗りかかった船とかいうでしょう。あなたはぼくのプライベートな叫びを聞いた責任として、ぼくの悩みを聞く義務があるわけです」
「げぇ……」
なんだこいつ……とは思ったが、メガネをかけて気が弱いけれど実はイケメン予備軍みたいな顔をしている相手の目力に負けてしまった。
「おまえ高校生くらいだろう? もう7時半だぞ?」
一応大人らしく時間を気遣ってやったら、午後10時までに帰ればセーフにしてもらえるから大丈夫とかなんとか。
「じゃぁ、喫茶店にでもいくか」
「はい!」
こうして伊吹はなぜかどういうわけか、見知らぬ男子高校生と喫茶店へ入ることになった。さっさと退散することを心に決めておきながらガラガラ店内に入って奥のテーブルに着席。そしてコーヒーとコーラを注文し、それがテーブルに置かれたところで話が始まる。
「ぼく琴場足図(ことばたらず)って言います。赤裸々情熱高校の1年生です。よろしくお願いします」
「おれは家満登伊吹っていうんだけど、おれの事はどうでもいいよ。おまえの聞いて欲しい話っていうのを早く言うべし」
「えっとその……」
足図は急にソワソワし両手をこすり合わせ、ニヤついた顔でエヘエヘとやる。それを見た伊吹は舌打ちしてからぼやく、キモイ! と。
「えっとね、ぼくその……好きな女の子がいるんですよ、えへ」
「青春の片思いか」
「あ、でもつき合ってはいるんです」
「は? だったら両想いって事じゃないのか?」
「今のところは恋人のひとつ手前、友だちならってそういう段階でお付き合いしてもらっているんです。流行りの仮ラバーってやつです」
「仮ラバーってなに?」
「え、知らないんですか? 仮の恋人ってことで本命のひとつ手前って事じゃないですか? あなた若いのに遅れているって人ですか?」
「あ、まぁ……おれの事はいいんだよ。おまえの話を続けろよ」
「え、えっとですね、その女の子は高瀬恵理っていうんです。ポニーテールが似合っていてすごく美人でかわいくてやさしくて、しかもスタイルがよくてすごい魅力的な巨乳で、みんなは彼女のことをエリっちとか言うんですけど……えっと、えっと、えっと、と、とにかくきれいな月とかまぶしい太陽としか言いようがない女の子なんです、わかります?」
「へぇ、それはそれはステキな女の子だな」
「でしょう! そうなんですよ! そうなんだ、恵理さんはものすごくステキな女の子なんだ、そうなんだ、世界で一番……いや、宇宙で一番なんだ」
「恵理さん? そんな風に呼ぶのか? 仮ラバーとかいうなら、おまえもその子をエリっちとか呼べばいいじゃないか」
「そ、そんな恐れ多い。ぼくなんかどんなにがんばってもせいぜい上級貴族止まり。それが王女様に何をほざくって感じですよ」
「でも、たとえ仮でもつき合ってくれている。だったらそれって、グッとひと押しできれば本命になれるって事じゃないのか? 恵理さんとか他人行儀な言い方、それこそ赤裸々情熱高校って名前に負けているだろう」
「ぅ……」
「だいたいおまえ、さっきやっていたのはなんだよ。夜とはいえまだ7時過ぎだった。川原の隅っことか橋の下ならまだしも、通りのど真ん中ってクソ目立つところで大声を出して38万kがどうのとか言っていた。なんでそんなやつがテレたりするんだよ」
「そ、それはその……」
「なんだよ? 言ってみろよ」
「ぼくはそこそこ優秀な方だけど恵理さんはもっと優秀な女の子。だから問題がでてくるんです。ぼく、学力はそれなりだけど言葉っていうのをあまり持っていない。だから告白するとしても言葉を増やさないといけないわけで、そのためにあんな事をしていたんです」
「告白っていっても……」
「なんですか?」
「好きだ! っていえば終わりじゃないの?
「そ、そんな、そんな殺風景な一言に情熱を束ねるなんて底辺丸出しじゃないですか? そんな告白したら恵理さんに嫌われてしまう」
「いや、だけど……重要なのは好きって一言だと思うけど」
「えぇ……そんなスカスカな告白でいいんですか? 伊吹さん、あなたって女性とつき合ったことないんですか?」
「まぁ……マジメで長い付き合いはした事ないけど……セックスなら相当な数とやった」
「せ、せ、セックス!? な、何人くらい?」
「500人くらい」
「ブッ! ごほごほ……」
「おい、だいじょうぶか」
「だいじょうぶです……っていうか、伊吹さんって人間のクズ」
「まぁな、否定はしない」
「じゃ、じゃぁ言葉についてちょっと語り合いましょう、そして告白についてのテクニックを伝授してください」
「えぇ……」
伊吹はここで店内の時計を見た。ただいまは午後8時10分と目に映った。まだ時間はあると本来はそう思うところだが、相手との話は絶対に長くなると思った。だからとりあえず今夜はここで終わりにしようという。
「悪いな、おれって男同士で夜遅くまで戯れる趣味はないから」
「じゃぁ、明日の日曜日、午前中にぼくとマック辺りで話の続きをしましょう」
「えぇ……マジか……」
「明日は午後から恵理さんとデートする予定があるんです。そこで格上げ要求の告白をしたいと思っているんです。だからそれがうまくいくために、伊吹さんが責任を持ってぼくにアドバイスをするって事です」
「なんでおれが責任持たなきゃいけないんだよ」
「伊吹さんはぼくのプライベートな声を勝手に聞きました。それで何もおとがめなしなんて考えが甘いですよ」
「くっそ面倒くせぇ……」
伊吹は立ち上がって伝票を手につかんだが、ここでちょっと言ってみる。今夜はこれでお開きだが、おれがどこに住む何者かわからないままお開きになるんだぞ? おれは明日おまえが指定する場所には来ないかもしれないぞ? と。
「あ、それはだいじょうぶだと思うから、だから明日、午前9時に〇〇駅前のマックに来てください」
「なんで大丈夫だと思うんだよ」
「伊吹さんって人間のクズだけど、でも約束は守るタイプって気がするんです。だってほら、クズほど礼儀を守るってよくある話じゃないですか。逆にいえば約束すら守れないクズは真正のクズで宇宙のゴミって話になるわけで」
「ちっ……」
こうして伊吹は相手のペースにハマったと思いつつ、明日はマックで会うと約束をするのだった。
それは月明かりがビューティフルに色っぽい午後の7時過ぎって頃だった。今日はけっこうあっちこっちに出張って忙したかったなぁと思う伊吹、夜風に当たってタバコでも吸おうと考え川原を歩いていた。
するとどうだろう、砂利道の真ん中に立ち川を見つめながら何やら大きな声を出している男の姿が目に入った。動く範囲は小さいが手振り身振りはやや大げさであるゆえ、演劇の練習かと伊吹は推測する。
「ちょっと見てみようっと」
石のベンチに腰を下ろしひんやりつめたい風に当たりながら、演劇に青春をかけているのであろう人の熱意を見てみた。すると声がちょっと若いと聞こえる。つぎに横顔などが月明かりに照らされて目に入ると、高校生くらいだと見えた。
「あぁ、ぼくは夜空の美しさを象徴する月みたいな、そんなあなたを思うしかできない弱い男に成り下がってしまいました。ぼくはもう不治の病にかかったも同じではないかと思えてなりません。こうなるとあなたが恋しいのに憎らしい。あぁ、もしあなたがこの男を憐れんでくれるというなら、どうかその手をやさしく差し伸べてもらえないでしょうか。その手がこのハートに少しでも触れてくれたら、わたしはあなたにその数百倍の熱意と愛をささげたいなどと思っているのですから」
男子高校生であろう者の声はエモさに満ちていた。それは自然体の声にはなっておらず、何がなんでも演技を決めて見せるぜ! 的なカクカク感にあふれている。だから見ていると笑ってしまいそうになるものの、熱意だけは確かなモノとして伝わるから笑うと気の毒だと思わせられてしまう。
「あぁ、エリっち……いとしいエリっち、どうしてあなたは冷静な顔をして、このぼくはここまで苦悩せねばならないですか? ぼくは硫酸の海に飛び込んでもだえるように苦しいのに、どうしてあなたの笑顔は安定していて、うつくしい月みたいに輝き続けるのですか? あなたが憎い、そして恋しい、あぁエリっち、あまりにもいとしいエリっち……」
エリっちというかわいい響きからして、おそらくは微笑ましい創作を舞台で演じるみたいな話かな? と伊吹は思いながらタバコを吸う。
「あぁ、エリっち……いまこの瞬間、38万kmの距離を超え天空で輝くあなたにこの想いを届けたい!」
熱のこもった声を空に向かって放つ者は、両腕を広げ月を抱きしめたい的な心を浮かばせる。ものすごく浸りこんでいるなぁと思ったら、彼の舞台は成功するだろうと思ってやれる伊吹だった。
「ふぅ……」
ひとまず落ち着いたのか両腕を下した彼は大きく深呼吸し、いましがたの熱量がウソみたいにおとなしい感じになる。そうして頭をかきながらフッと振り返ったら、座ってタバコを吸っている伊吹を目にした。
「な、な、な、な、ななな……」
急に噴き出す大慌てというアクション。それを見た伊吹、もしかして見られたくなかったわけ? と言いかけるも声を出すタイミングを逃す。すると相手の方がジャリジャリっと近づいてきて、今の見ていたんですか? と確認の問いをしてきた。
「見た、バッチリ見た。エリっちとか38万kmとか憎いとか愛しいとかモロモロ聞いた」
別に見てもいいのだろう? という目を浮かべながらサラっと言ってのける伊吹。すると相手は顔を赤くしテレの逆ギレってジタバタをやりだす。
「あぁもう、何を勝手に見ているんですか、マナー違反ですよ、マナー違反!」
「いや、おまえ……そんな目立つ場所で大声の演劇とかやったら目に入るだろう。っていうか……見て欲しいアピールとしか思えなかったぞ」
「み、見て欲しいなんて言っていませんよ。それにその、演劇などではありませんから」
「へ? じゃぁなんだ?」
「そ、それはその……こ、告白の練習っていうか……」
「告白の練習?」
「あぁもう……こうなったらあなたに責任を取ってもらいます。ぼくの相談に乗ってもらいますよ」
「ちょっと待て、なんでおれがそんな目に遭うんだ」
「乗りかかった船とかいうでしょう。あなたはぼくのプライベートな叫びを聞いた責任として、ぼくの悩みを聞く義務があるわけです」
「げぇ……」
なんだこいつ……とは思ったが、メガネをかけて気が弱いけれど実はイケメン予備軍みたいな顔をしている相手の目力に負けてしまった。
「おまえ高校生くらいだろう? もう7時半だぞ?」
一応大人らしく時間を気遣ってやったら、午後10時までに帰ればセーフにしてもらえるから大丈夫とかなんとか。
「じゃぁ、喫茶店にでもいくか」
「はい!」
こうして伊吹はなぜかどういうわけか、見知らぬ男子高校生と喫茶店へ入ることになった。さっさと退散することを心に決めておきながらガラガラ店内に入って奥のテーブルに着席。そしてコーヒーとコーラを注文し、それがテーブルに置かれたところで話が始まる。
「ぼく琴場足図(ことばたらず)って言います。赤裸々情熱高校の1年生です。よろしくお願いします」
「おれは家満登伊吹っていうんだけど、おれの事はどうでもいいよ。おまえの聞いて欲しい話っていうのを早く言うべし」
「えっとその……」
足図は急にソワソワし両手をこすり合わせ、ニヤついた顔でエヘエヘとやる。それを見た伊吹は舌打ちしてからぼやく、キモイ! と。
「えっとね、ぼくその……好きな女の子がいるんですよ、えへ」
「青春の片思いか」
「あ、でもつき合ってはいるんです」
「は? だったら両想いって事じゃないのか?」
「今のところは恋人のひとつ手前、友だちならってそういう段階でお付き合いしてもらっているんです。流行りの仮ラバーってやつです」
「仮ラバーってなに?」
「え、知らないんですか? 仮の恋人ってことで本命のひとつ手前って事じゃないですか? あなた若いのに遅れているって人ですか?」
「あ、まぁ……おれの事はいいんだよ。おまえの話を続けろよ」
「え、えっとですね、その女の子は高瀬恵理っていうんです。ポニーテールが似合っていてすごく美人でかわいくてやさしくて、しかもスタイルがよくてすごい魅力的な巨乳で、みんなは彼女のことをエリっちとか言うんですけど……えっと、えっと、えっと、と、とにかくきれいな月とかまぶしい太陽としか言いようがない女の子なんです、わかります?」
「へぇ、それはそれはステキな女の子だな」
「でしょう! そうなんですよ! そうなんだ、恵理さんはものすごくステキな女の子なんだ、そうなんだ、世界で一番……いや、宇宙で一番なんだ」
「恵理さん? そんな風に呼ぶのか? 仮ラバーとかいうなら、おまえもその子をエリっちとか呼べばいいじゃないか」
「そ、そんな恐れ多い。ぼくなんかどんなにがんばってもせいぜい上級貴族止まり。それが王女様に何をほざくって感じですよ」
「でも、たとえ仮でもつき合ってくれている。だったらそれって、グッとひと押しできれば本命になれるって事じゃないのか? 恵理さんとか他人行儀な言い方、それこそ赤裸々情熱高校って名前に負けているだろう」
「ぅ……」
「だいたいおまえ、さっきやっていたのはなんだよ。夜とはいえまだ7時過ぎだった。川原の隅っことか橋の下ならまだしも、通りのど真ん中ってクソ目立つところで大声を出して38万kがどうのとか言っていた。なんでそんなやつがテレたりするんだよ」
「そ、それはその……」
「なんだよ? 言ってみろよ」
「ぼくはそこそこ優秀な方だけど恵理さんはもっと優秀な女の子。だから問題がでてくるんです。ぼく、学力はそれなりだけど言葉っていうのをあまり持っていない。だから告白するとしても言葉を増やさないといけないわけで、そのためにあんな事をしていたんです」
「告白っていっても……」
「なんですか?」
「好きだ! っていえば終わりじゃないの?
「そ、そんな、そんな殺風景な一言に情熱を束ねるなんて底辺丸出しじゃないですか? そんな告白したら恵理さんに嫌われてしまう」
「いや、だけど……重要なのは好きって一言だと思うけど」
「えぇ……そんなスカスカな告白でいいんですか? 伊吹さん、あなたって女性とつき合ったことないんですか?」
「まぁ……マジメで長い付き合いはした事ないけど……セックスなら相当な数とやった」
「せ、せ、セックス!? な、何人くらい?」
「500人くらい」
「ブッ! ごほごほ……」
「おい、だいじょうぶか」
「だいじょうぶです……っていうか、伊吹さんって人間のクズ」
「まぁな、否定はしない」
「じゃ、じゃぁ言葉についてちょっと語り合いましょう、そして告白についてのテクニックを伝授してください」
「えぇ……」
伊吹はここで店内の時計を見た。ただいまは午後8時10分と目に映った。まだ時間はあると本来はそう思うところだが、相手との話は絶対に長くなると思った。だからとりあえず今夜はここで終わりにしようという。
「悪いな、おれって男同士で夜遅くまで戯れる趣味はないから」
「じゃぁ、明日の日曜日、午前中にぼくとマック辺りで話の続きをしましょう」
「えぇ……マジか……」
「明日は午後から恵理さんとデートする予定があるんです。そこで格上げ要求の告白をしたいと思っているんです。だからそれがうまくいくために、伊吹さんが責任を持ってぼくにアドバイスをするって事です」
「なんでおれが責任持たなきゃいけないんだよ」
「伊吹さんはぼくのプライベートな声を勝手に聞きました。それで何もおとがめなしなんて考えが甘いですよ」
「くっそ面倒くせぇ……」
伊吹は立ち上がって伝票を手につかんだが、ここでちょっと言ってみる。今夜はこれでお開きだが、おれがどこに住む何者かわからないままお開きになるんだぞ? おれは明日おまえが指定する場所には来ないかもしれないぞ? と。
「あ、それはだいじょうぶだと思うから、だから明日、午前9時に〇〇駅前のマックに来てください」
「なんで大丈夫だと思うんだよ」
「伊吹さんって人間のクズだけど、でも約束は守るタイプって気がするんです。だってほら、クズほど礼儀を守るってよくある話じゃないですか。逆にいえば約束すら守れないクズは真正のクズで宇宙のゴミって話になるわけで」
「ちっ……」
こうして伊吹は相手のペースにハマったと思いつつ、明日はマックで会うと約束をするのだった。
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