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84・いまだにエロ本を忘れられず過去に生きる男2

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84・いまだにエロ本を忘れられず過去に生きる男2


「お姉ちゃん、どうしてもエロ本を売ってくれへんのやな?」

 男はそう言って彩乃を見る。

「だからないんです、ウソだと思うなら日本中のコンビニ、いえいえ書店とかいう場所を回ってみたらどうですか? っていうかあなた、そんな情熱を持っているのに普段どういう生活をしているんですか?」

「おれの事はどうでもええんや、おれはエロ本が欲しいんじゃぁぁぁ!!!」

 男、突然に着ている黒いジャンパーの背中からショットガンを取り出した。そう、それは本物のショットガン。

「ショットガン!」

 おどろく彩乃に銃口を向ける男、エロ本を出せと脅す。

「だから……ないモノはないんです」

 彩乃はこの人に犯罪を起こして欲しくないと思いつつ、ドキドキしながら両手を上げる。

「よし、こうなったら持久戦勝負や。お姉ちゃん、こっちにこい、心配するな、おれはええ女にひどい事はせぇへん」

 そう言われてもすぐに反応出来ない彩乃がいる。豊満な胸いっぱいにオドオドするばかり。

「さっさと来いや、きいひんかったら、隣の女を撃つで!」

 男はショットガンを今までいたの? という感じの女に向け変える。すると年上の彩乃は動くしかない。年上の自分が年下を見殺しにするなんて外道な生き方はできないと思うから。

「よし、おまえ、おまえみたいなザコはいらん、出ていけや!」

 彩乃をゲットしたらもう一人の女には用などないと出ていくよう指示。そしてやってきた彩乃の後ろに立ち、腕を前に回すが……思わずうっかり左がボワン! と揺れるふくらみをつかみ揉んでしまう。するとどうだ、ムニュっと大きくやわらかい……なんとも言えぬすごい手触りとか揉み応えが発生。

「ちょ、ど、どこ触っているんですか!」

 真っ赤な顔で怒る彩乃。

「あ、ごめん……うっかり」

 慌ててふくらみから手を離す男だったが、もっと揉みたいなんて邪念を急いで追い払う。次に今頃やってきた店長に雑誌売り場上方のドアを開けさせ外に追い出す。そして店内には自分とグラマー女の2人だけとしてから、自動ドアの電源を切り裏口のドアなどすべて内から鍵をかける。

「よし、これでええ」

 男曰く、女を人質にして立てこもれば当然やってくるって警察に要求するらしい。エロ本をよこせ! と。

「エロ本なんかもうないのに……」

 彩乃は自分を捕獲して前代未聞の情けない犯罪を起こそうとする男を嘆く。しかし彼は自分を魅力的だと言ってくれた人、なんとしても過ちを起こさせたくないと思いなおす。

「あの、お客さん」

「なんや、どうしたん?」

「せっかくだから名前とか教えてくれませんか? わたしは母院彩乃と言います」

「おぉ、彩乃……ええ名前やな。かわいさとやさしさの二本立てって感じがグッと来るわ」

「で、お客さんの名前は?」

「おれは竹下序兄(たけしたじょにー)、中学生の頃はイカしたジョニーとか言われてたな」

 ここで一瞬、序兄は少し昔ばなしをやり始めた。それが店内に純情無垢って感じを広めるが、彩乃はそこから説得に斬り込もうとした。しかしそれより先にコンビニの正面から声が飛んできた。それはやってきた警察が拡声器で序兄の説得をする声。

「あーあー、聞こえるか? 何が目的かは知らないが、バカな事は止めて出てくるんだ」

 それを聞いた序兄、店内に置いてあった拡声器を持つと、開いているドアの方を見ながらけっこうなボリュームで言い放つ。

「エロ本や、エロ本持ってこいや そうしたらこの魅力的な女性はすぐ放したるわい」

 すると警官たちは怪訝な顔を合わせる。いったいどんな要求が出てくるのかとハラハラしていたらエロ本だ、いったいどういう事だ? とその場にいる数人が理解しがたいと悩むような表情になる。だから頭がおかしいのかな? と思う犯人の男と拡声器のやかましい声で会話。

「エロ本ならコンビニの中にあるだろう」

「あほー! それは週刊誌やろう、おれが言うてんのはエロ本や! おまえらかてエロ本でシコった経験があるやろう、それを持って来い言うとるんや」

「いや、おれらはエロ本なんか知らない。おれらはAVで育ったから」

「あほーーーー! 誰がおまえらの話なんか聞きたい言うた! エロ本じゃ、エロ本持って来い、そうせんとこの魅力的な女性がかわいそうな目に遭うかもしれんで?」

 ここで警官たちは再び顔を合わせひそひそやる。エロ本なんかどこで売っているんだ? と誰かが言う。すると別の誰かはこう言った。今どきのコンビニや書店に置かれているはずはないと。

「ここらにアダルトショップはあるか?」

「いや、あるとかいっても繁華街にしかない。車で行って帰ってきても1時間以上はかかるぞ」

「あ、ちょっと待てよ、近くにブックマイマイがある。そこでならエロ本があるかもしれない」

「よし、いますぐ行って買ってこい」

 こうして警官たちはコンビニ店内の男が要求しているエロ本というのをブックマイマイで購入した。

「おーい、聞こえるか。おまえの言うエロ本を買ってきたぞ」

「ほんまか! よっしゃ、開いている窓から中に放り込めや」

「わかった」

 警官の一人が言われた通りにすると、序兄は期待感に満ちた顔で投げ込まれたモノを手にする。

「どうだ、満足か? だったらすぐその女性を離すんだ」

 警官たちはこれで厄介ごとは終わったと思った。しかし店内から外に出てくる声は怒りに溢れている。

「あほか!! おれが欲しいのはこんなAVのカタログみたいな安っぽいエロ本とちゃうんじゃ! おれが欲しいのはもっとこう、人の手と情熱が注ぎ込まれたハンドメイドのエロ本なんじゃ。おまえらそんな事もわからんのか、おまえらいったい男としてどんな生き方してきたんじゃ、恥ずかしないんか!」

 警官たちは男の言っている事がわからないと思った。だから全員でちょっと会話したって誰も理解ができない。

「人の手と情熱が注ぎ込まれたエロ本ってなんだ?」

「ハンドメイドのエロ本とか意味がわからん」

 警官たちが途方に暮れ始めると、たまたまその近くを通りかかった伊吹が立ち止まる。いったい何事だ? と思ったので、野次馬の一人である老婆にそれとなく声をかけてみる。

「何があったの?」

「いや、それがね、なんでもエロ本を持って来いってわめている男がいるらしいのよ」

「え、エロ本?」

「そう、びっくりよね、エロ本なんて……いったいどの時代に生きているって話よ」

 どうでもいい話なのかなと伊吹は思った。しかし聞けば女性が人質になっているという。それではちょっと無視できないなということで、一度その場を離れてから三次元より四次元に移動。誰の目に止まる事なくコンビニへ向かって歩いていく。

「今どきエロ本をよこせって……そんな奴がいるとは……」

 伊吹、大勢の人間が見つめるコンビニに誰の目にも触れず接近したら、スーッと分厚いガラスを抜けて店内へと入っていった。
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