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64・いじめられっ子、フュージョンで逆襲せよ8
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64・いじめられっ子、フュージョンで逆襲せよ8
「おい悲思惟、ひとつ聞いてもいいかよ?」
垂矢は手の指をパキパキ鳴らしながら、そもそも一番悪いのはテメェの方だと難癖をつけるように言い出した。
「だってそうだろう、いかにも弱そうでイジメて欲しいですみたいなオーラを出してさぁ、それでイジメてやったらこっちが大悪人。なんだそれ、ほんとうに可哀想なのはおれたちの方だろう? ちがうか?」
勤、それを聞くと背中に木刀を戻した。そして垂矢と同じように指を鳴らしながら答える。
「そう思うならそう思えばいいだろう。でもこっちはそれを気に入らない。だから立ち上がった。その聞いていて腹立たしい話、加害者のくせに気の毒ぶる胸糞悪いやつを完全否定するために」
「木刀は使わねぇのか?」
「おまえに指図されるモノじゃない、使い時に使う」
「思いっきり後悔させてやるからな……」
グググっとつよく両手をにぎる垂矢、じわりじわりとファイティングポーズを取って相手に近づいていく。つい今しがた勤の圧倒的な強さを見たところであるが、それでも怖気づかないのは自信があるせいなのか。
「ふん!」
グッと腰を入れた垂矢の左ストレートが来る。
「む!」
バシっと右手で相手の左を受け止めた。すると両者の手が力比べだとばかりに握り合う。そしてそのとき、垂矢がニヤっと笑って右ストレートを放った。
(ん?)
一瞬……右手に何かがあると見えたが反射的に動かした勤の左手は攻撃を受け取る。すると猛烈な痛みが生じた。ズブっと突き刺さる神経直通のはげしい痛み。そして血が出始める。
「ハハハ、おまえの左手つぶしてやる」
右手を押し込む垂矢、その右手にはこっそりつけたトゲ付きのメリケンサックがある。
「うぐぐぐ……」
押し込まれる左手からの出血がひどくなると、一瞬だが勤の表情が歪む。このままでは手の平を突き破られるかもしれない。
しかしここで顔面を深刻に青ざめさせたのは垂矢の方だった。勤の利き手である右につかまれる左手は垂矢にとっての利き手ではない。そのパワー違いは明らかであり、しだいに……確実に……指がへし折られそうになっていく。
「うくくく……ぅ」
両者の表情が対象的になっていく。グワっと力を入れる勤に対して、苦痛で顔面神経痛になりそうな垂矢。
「く、あぅぐ……」
垂矢、左手の指が折れそうだと感じながら押されていく。メリケンサックをつけているはずの自分がガクっと左ひざを落としてしまう。
「か、悲思惟よぉ、おまえそんなにおれが嫌いか? おれってそんなにおまえから嫌われなきゃいけないか?」
ヤンキーがよく放つ的なセリフをこぼす垂矢、その姿は他人が見れば気の毒な者となるだろうか。
「ふん!」
ここで勤、垂矢の顔面に右足を押し付ける。両手をグッとつかんで引っ張りながら、顔面を思いっきり蹴り押しながらハッキリと言う。
「あぁ、嫌いだよ。おまえなんか死ぬほど、いやちがう、死んでも大嫌いだよ。井時目、もしおまえが死んでクラスみんなで黙とう! とかなったら、おれは表向き黙とうはするけれど、心の中ではこう思う。やった、やった、やった、やった、井時目が死んだ、井時目が死んだ、やった、やった、やった、やった! って」
そうしてさらに深く踏み込む勤、それにより垂矢の真ん中の前下段が折れた。そして上段はグラグラっとなって抜け落ちそうになる。いや、それで持つわけがはない。突然に手と足を離され、はずみでひっくり返ると同時に垂矢のぐらついていた歯が抜けて地面に落ちる。
「お、おれの歯が……」
もっとも目立つ場所の歯が上下とも抜けたらスース―する。そのショックは顔面や手に広がる激痛の比ではない。スマホを取り出し自分の顔を見た垂矢、不細工な面になってしまった事に激しく怒る。
「てめぇ……よくも……人の歯を……こうなったらもう、絶対に殺す」
垂矢、今度は隠し持っていたジャックナイフを手にする。そして対戦相手に忠告してやった。
「先に言っておく、もし捕まえたら問答無用に刺して殺す。ノドだって掻っ切ってピクピクさせてやる。おれは本気だからな」
すると再び木刀を取り出し上段の構えを取る。そして相手と同じように忠告をしておく。
「おれも本気だ、だから言っておく。おまえらヤンキーは反省もしないし、すぐ後で復讐する事を考える。だからそういう考えが起こらなくなるまで叩きのめす。その途中でおまえが死んでもかまわないとする」
こうして2人は最後の勝負に入った。正面でにらみ合い一瞬におのれのすべてを賭けんとタイミングを探る。そして勤は講堂のつめたい壁を背中にして立つ。それを見て垂矢は思った。
(あの構え、上から振り下ろすしかない。あいつはいま講堂の壁を背中にして立っているんだ、後ろは取られない代わり横に振り回すような事だってやりづらいはず……上から来る一発、それさえ避ければ、それができれば側面からあいつの内臓をえぐれる。フェイントをかけてみるか……)
垂矢、相手をジッと見つめたまま少し後退。そして気合の一声と共に仮のダッシュをして見せる。それはすぐさまブレーキをかける算段であり、相手が木刀を振り下ろした時が殺すチャンスと考えていた。
「でやぁ!」
掛け声とともに勤が取ったアクション、それは木刀の振りでも前に飛び出すでもなかった。後ろの壁を利用し空中へと舞い上がったのである。
(え……)
ダッシュに一時停止をかけていた垂矢、そこで華麗なる舞を見てしまったら、もうどのような反応も起こせるはずなし。
ブン! と凶悪なまでに太い音が空気中を走った。そしてガン! とひどく鈍い音を立たせ、垂矢の目をうつろにさせる。
「ぁ……」
ズサーっと地面に転がる垂矢、口からボロボロっと砕けた歯と血を大量にこぼしながら動けない。
「お、おまえ……これでも……おれに追撃するか?」
垂矢が言うと木刀を持った勤が近づいていく。そしてきっぱりと迷いのない声で言い切った。
「する。おまえらみたいな奴は、自分の身を守るためにも絶対に信じない。そして復讐する気がなくなるまで痛めつける。それはおまえらがこっちにやったのと同じだ。いつまでもいつまでも、いつかイジメをやめてくれると期待しても、永遠のごとく続けるのと変わらない」
言い終えた勤、倒れている垂矢の顔面を体の双方を殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る……
こうして垂矢は劇的な完全グロッキーとなった。もはや怒りも憎しみも沸くことなく、そして再び勤をイジメてやろうとも思わない。その内側は汚い根性やら感情がすべて流されきれいになった便器のようだった。
「終わった……」
はげしい戦いが終わった。自分の心と名誉を守るための戦いに勝利した。これでもう再びイジメられる事はないだろうと思われる。
しかし悲思惟勤はこれからが試練だ。彼は体育倉庫の裏側に行くと、金網越しに外の通りを見た。そうすると自分の内側からスーッと何かが抜けるように感じ始める。自分が自分に戻っていく、何の余計なモノがない自分という重量に戻っていくと感じる。
「息吹さん……」
勤が金網越しに見るのは通りに立っている息吹の姿。
「力を貸してくれて……ありがとうございます。おれ……これからは息吹さんの力を借りなくても、自分の力で逃げたりせず立ち向かう男になります。っていうかそうなるための物語はもう始めちゃっているから」
そう言って一礼すると、息吹も軽く手を振りがんばれよと一言発した。そして勤が一礼から顔を上げると、もう息吹の姿はなかった。
「おい悲思惟、ひとつ聞いてもいいかよ?」
垂矢は手の指をパキパキ鳴らしながら、そもそも一番悪いのはテメェの方だと難癖をつけるように言い出した。
「だってそうだろう、いかにも弱そうでイジメて欲しいですみたいなオーラを出してさぁ、それでイジメてやったらこっちが大悪人。なんだそれ、ほんとうに可哀想なのはおれたちの方だろう? ちがうか?」
勤、それを聞くと背中に木刀を戻した。そして垂矢と同じように指を鳴らしながら答える。
「そう思うならそう思えばいいだろう。でもこっちはそれを気に入らない。だから立ち上がった。その聞いていて腹立たしい話、加害者のくせに気の毒ぶる胸糞悪いやつを完全否定するために」
「木刀は使わねぇのか?」
「おまえに指図されるモノじゃない、使い時に使う」
「思いっきり後悔させてやるからな……」
グググっとつよく両手をにぎる垂矢、じわりじわりとファイティングポーズを取って相手に近づいていく。つい今しがた勤の圧倒的な強さを見たところであるが、それでも怖気づかないのは自信があるせいなのか。
「ふん!」
グッと腰を入れた垂矢の左ストレートが来る。
「む!」
バシっと右手で相手の左を受け止めた。すると両者の手が力比べだとばかりに握り合う。そしてそのとき、垂矢がニヤっと笑って右ストレートを放った。
(ん?)
一瞬……右手に何かがあると見えたが反射的に動かした勤の左手は攻撃を受け取る。すると猛烈な痛みが生じた。ズブっと突き刺さる神経直通のはげしい痛み。そして血が出始める。
「ハハハ、おまえの左手つぶしてやる」
右手を押し込む垂矢、その右手にはこっそりつけたトゲ付きのメリケンサックがある。
「うぐぐぐ……」
押し込まれる左手からの出血がひどくなると、一瞬だが勤の表情が歪む。このままでは手の平を突き破られるかもしれない。
しかしここで顔面を深刻に青ざめさせたのは垂矢の方だった。勤の利き手である右につかまれる左手は垂矢にとっての利き手ではない。そのパワー違いは明らかであり、しだいに……確実に……指がへし折られそうになっていく。
「うくくく……ぅ」
両者の表情が対象的になっていく。グワっと力を入れる勤に対して、苦痛で顔面神経痛になりそうな垂矢。
「く、あぅぐ……」
垂矢、左手の指が折れそうだと感じながら押されていく。メリケンサックをつけているはずの自分がガクっと左ひざを落としてしまう。
「か、悲思惟よぉ、おまえそんなにおれが嫌いか? おれってそんなにおまえから嫌われなきゃいけないか?」
ヤンキーがよく放つ的なセリフをこぼす垂矢、その姿は他人が見れば気の毒な者となるだろうか。
「ふん!」
ここで勤、垂矢の顔面に右足を押し付ける。両手をグッとつかんで引っ張りながら、顔面を思いっきり蹴り押しながらハッキリと言う。
「あぁ、嫌いだよ。おまえなんか死ぬほど、いやちがう、死んでも大嫌いだよ。井時目、もしおまえが死んでクラスみんなで黙とう! とかなったら、おれは表向き黙とうはするけれど、心の中ではこう思う。やった、やった、やった、やった、井時目が死んだ、井時目が死んだ、やった、やった、やった、やった! って」
そうしてさらに深く踏み込む勤、それにより垂矢の真ん中の前下段が折れた。そして上段はグラグラっとなって抜け落ちそうになる。いや、それで持つわけがはない。突然に手と足を離され、はずみでひっくり返ると同時に垂矢のぐらついていた歯が抜けて地面に落ちる。
「お、おれの歯が……」
もっとも目立つ場所の歯が上下とも抜けたらスース―する。そのショックは顔面や手に広がる激痛の比ではない。スマホを取り出し自分の顔を見た垂矢、不細工な面になってしまった事に激しく怒る。
「てめぇ……よくも……人の歯を……こうなったらもう、絶対に殺す」
垂矢、今度は隠し持っていたジャックナイフを手にする。そして対戦相手に忠告してやった。
「先に言っておく、もし捕まえたら問答無用に刺して殺す。ノドだって掻っ切ってピクピクさせてやる。おれは本気だからな」
すると再び木刀を取り出し上段の構えを取る。そして相手と同じように忠告をしておく。
「おれも本気だ、だから言っておく。おまえらヤンキーは反省もしないし、すぐ後で復讐する事を考える。だからそういう考えが起こらなくなるまで叩きのめす。その途中でおまえが死んでもかまわないとする」
こうして2人は最後の勝負に入った。正面でにらみ合い一瞬におのれのすべてを賭けんとタイミングを探る。そして勤は講堂のつめたい壁を背中にして立つ。それを見て垂矢は思った。
(あの構え、上から振り下ろすしかない。あいつはいま講堂の壁を背中にして立っているんだ、後ろは取られない代わり横に振り回すような事だってやりづらいはず……上から来る一発、それさえ避ければ、それができれば側面からあいつの内臓をえぐれる。フェイントをかけてみるか……)
垂矢、相手をジッと見つめたまま少し後退。そして気合の一声と共に仮のダッシュをして見せる。それはすぐさまブレーキをかける算段であり、相手が木刀を振り下ろした時が殺すチャンスと考えていた。
「でやぁ!」
掛け声とともに勤が取ったアクション、それは木刀の振りでも前に飛び出すでもなかった。後ろの壁を利用し空中へと舞い上がったのである。
(え……)
ダッシュに一時停止をかけていた垂矢、そこで華麗なる舞を見てしまったら、もうどのような反応も起こせるはずなし。
ブン! と凶悪なまでに太い音が空気中を走った。そしてガン! とひどく鈍い音を立たせ、垂矢の目をうつろにさせる。
「ぁ……」
ズサーっと地面に転がる垂矢、口からボロボロっと砕けた歯と血を大量にこぼしながら動けない。
「お、おまえ……これでも……おれに追撃するか?」
垂矢が言うと木刀を持った勤が近づいていく。そしてきっぱりと迷いのない声で言い切った。
「する。おまえらみたいな奴は、自分の身を守るためにも絶対に信じない。そして復讐する気がなくなるまで痛めつける。それはおまえらがこっちにやったのと同じだ。いつまでもいつまでも、いつかイジメをやめてくれると期待しても、永遠のごとく続けるのと変わらない」
言い終えた勤、倒れている垂矢の顔面を体の双方を殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る……
こうして垂矢は劇的な完全グロッキーとなった。もはや怒りも憎しみも沸くことなく、そして再び勤をイジメてやろうとも思わない。その内側は汚い根性やら感情がすべて流されきれいになった便器のようだった。
「終わった……」
はげしい戦いが終わった。自分の心と名誉を守るための戦いに勝利した。これでもう再びイジメられる事はないだろうと思われる。
しかし悲思惟勤はこれからが試練だ。彼は体育倉庫の裏側に行くと、金網越しに外の通りを見た。そうすると自分の内側からスーッと何かが抜けるように感じ始める。自分が自分に戻っていく、何の余計なモノがない自分という重量に戻っていくと感じる。
「息吹さん……」
勤が金網越しに見るのは通りに立っている息吹の姿。
「力を貸してくれて……ありがとうございます。おれ……これからは息吹さんの力を借りなくても、自分の力で逃げたりせず立ち向かう男になります。っていうかそうなるための物語はもう始めちゃっているから」
そう言って一礼すると、息吹も軽く手を振りがんばれよと一言発した。そして勤が一礼から顔を上げると、もう息吹の姿はなかった。
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