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46・売る側と買う側2

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46・売る側と買う側2


 日曜日、晴天、そしてデートおよび友人と戯れる予定なし。そこで卓郎は午前中だけ駅前に出向いて賑わいを感じ、昼からは家でひとりボーッとするのだと決めた。

「なんだろうなぁ、今日は鳥子とデートする予定がないから……逆にホッとしてしまうな」

 つい先日のあの出来事、鳥子の誕生日に味わった忌々しいと思うキブン、それがまだ尾を引いていた。しかしそれでいて別れるなんて選択肢を握れないのが卓郎という男の性質。まったく男は損するように出来ていると思いながら、駅前書店にでも入ろうかと思った。

「あれ? あれは……」

 ここでフッと目に入った人物がいる。それは会社の同僚であり、クールっぽいフンイキと人付き合いが苦手そう……ってイメージを両立させている年上の男、十三岡志有(とみおかしゆう)だった。

「十三岡さん」

 卓郎は不愛想に見える十三岡に声をかけていた。誰でもいいからちょっと話を聞いて欲しいという思いがあったので、不愛想に見える十三岡でもよかったという事。

「あぁ、損擦岳か、奇遇だな」

「え、えぇ……奇遇ですね」

 なんつー話しかけづらさだと思ったし、情けない自分の意識を暴露するにはきつい相手では? と思ったが、逆にこういう人に聞いてもらった方がいいのかもしれない! と思い切り出した。

「あ、あの、そこの喫茶にでも行きませんか」

「おれが損擦岳と? なぜ?」

「い、いやその……聞いて欲しい話があって」

「だったらここで聞く」

「いや、ここではダメなわけで……お願いします! おれがおごりますから、それでぜひ」

「わかった、手を打とう」

 こうして卓郎は十三岡とすぐそこにある喫茶店に入った。なぜ? と思うほど気まずい感じにまかれながら着席すると、卓郎はホットコーヒーをとウエイトレスの巨乳って部分をチラっと見ながら注文。

「損擦岳」

「は、はい、なんですか?」

「コーヒー以外のモノを何か頼んでもいいのか?」

「あぁ、いいですよ。おごりますから」

「だったらおれは特大のチョコレートパフェとコーヒーで頼む」

「ブッ!」

 思わず飲んでいた水を吹きそうになった。今のは何の冗談? とか言いたくなったが、十三岡は真顔だ。そして何か言いたげな卓郎を見ながらつぶやく。

「おれがチョコレートパフェを食べたら何か問題でも?」

「い、いや、そんな……ただちょっとイメージ的に意外だなぁと思ったりしただけです」

「おれは甘いモノが好きなんだ。コンビニのスィーツも熱心に追いかけているしな」

「そ、そうなんですか」

 意外だ……なんとなく十三岡に色々質問してみたい気がしてきた……と卓郎は思ったが、注文した品がテーブルに並んだところで自分の言いたい事を打ち明けた。つい先日に生じた鳥子とのやり取り、そしてどうして女ばかり自分勝手で許されるのか? という愚痴を。

「そうか、厚釜志はそういう女だったのか」

「そうなんですよ、ね、なんかこうムカつくでしょう?

「でもおまえ、そういう厚釜志が好きなのだろう?」

「え?」

「だったらおまえの負けだ。惚れたが運の尽きって言葉を抱きしめて生きるしかない」

「そ、そんな……十三岡さんってずいぶん厳しいんですね」

「おれはおまえみたいに、なんだかんだ言いながら男らしい態度に出れず、別れる事もできず、不満タラタラでありながら女に捨てられるのが怖いとおどおどして生きるような男が嫌いだ。だから、いまこうやっておごってもらって言うのは申し訳ないが、正直に言えばそういうことだ」

 十三岡はひとりで食うのはカロリー高すぎでしょう! みたいなチョコレートパフェを食べながらスーッとひんやり感じさせられるような目で卓郎を見つめる。

「おれと鳥子はバカップルって事ですか?」

「いや、厚釜志はよくない女だがおまえもあまりよくない男。だからお似合いって事だろう。損擦岳、知っているか? 恋愛は自分の力量以上の相手とはできない。つまりおまえと厚釜志は同レベルのナイスカップルってことだ」

 十三岡に言われ見つめられると、つめたい沼に沈められるようだった。それは理不尽とかではなく、まことにその通り! という感じに満ちており、言い返しても勝てないみたいな気にさせられる。

「じゃ、じゃぁちょっとだけ十三岡さんに質問させてください」

「なんだ?」

「十三岡さんは結婚してないですよね? おれより年上なのに独身ですよね? それってどうなんですか?」

「どうとは?」

「つ、つまりその……おれにえらそうな事を言えた義理なのかなぁと」

「おれとおまえでは決定的に違うところがある。おれは自分の心に正直に生きている。そして誰にもこびへつらわない、この十三岡志有、志有という名前に恥じる生き方は何もしていない」

「彼女がいるとか話を聞いた事がない……十三岡さんは同性愛ですか?」

「いや、そういう趣味はまったくない」

「じゃ、じゃぁ密かに彼女がいるとか?」

「いや、いない。おれは三次元の女がキライだからな」

「え?」

「おれは二次元が好きだ。今日も二次元グッズにアダルト関連を買おうと思って駅前にやってきた」

「え、えぇ、と、十三岡さんがですか?」

 卓郎、あまりのおどろきに思わず声を少し大きくし、あげくには立ち上がったりしてしまった。だから周囲の目線が自分たちのテーブルに向けられてしまう。だからオホンと咳払いして着席すると、声のトーンを落として聞いた。

「ほんとうなんですか、十三岡さん」

「おれはウソが嫌いだ。志有という名前に泥を塗らないよう正直に生きるのみだ。なんなら見せようか? おれが今日どういうモノを買いたいと思っているか」

 そう言った十三岡がスマホを取り出した。思わず一瞬、見たい! と思ったが、なんか話がおかしくなってね? という気もしたので、いやいいです……と低調に断った。それから話を自分のところへ引っ張り戻す。

「おれ……鳥子とは別れた方がいいんですかね?」

「だろうな。でもおまえはきっと別れない。なんだかんだ言って結局はそういう行動に出られないだろう」

「どうしてそう思うんですか?」

「自分のプライドを傷つける相手、それが自分と同レベルだと分かっていない。分かったとしても認めようとしない。そうして心を傷つけられたとか言いながらその相手にすがる。そうだろう? おまえからはそういう弱さを感じる。そうしてその弱さを女に食われやせ細っていくだけだろうなって気がする」

「十三岡さん……厳しすぎますよ」

「べつにいいだろう、おれはおまえの兄でも父でもない。おまえと厚釜志がどのような物語を紡ごうと、それとおれは永遠に無関係。ではおれはこれで失礼する。ごちそうになったな」

 志有が立ち上がりスーッと席を離れる。テーブルにあるでっかい空っぽになったパフェの入れ物とか、三次元がきらいで二次元アイラブユーとか、アダルトグッズを求めてきたとか、それらはもう意外のオンパレード。しかしそれでも、店から出ていく志有の後姿を見ると、深いため息をこぼしながら卓郎は言わずにいられなかった。

「格好良すぎますよ、十三岡さん……」
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