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41・先生いっしょに死んでください4

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41・先生いっしょに死んでください4


「話ってなにかな?」

 この日の放課後、愚香進という教師は赤井熱美と体育倉庫の裏側で向き合う。ハッキリってこれは進にしてみれば予想した事が一度もない珍事。なぜヤンキーの赤井熱美が自分に聞いて欲しい話があると訴えてきたのか、それはいったいどんな内容なのかサッパリ見当がつかない。

「先生、やっぱりあれ? 国語の教師っていうのは詩人モードとかいうのがあって、うっかりするといけない恋愛に走りたくなるって事っすか?」

 そう言った熱美はクスっと笑った。しかし相手の教師が何のことだ? と返したら呆れた表情になり、腕組みをしながら軽蔑の目を浮かべた。

「先生さぁ、あんたいくつよ? たしか49歳じゃなかった? でも見た目はもっと老けてるよね。そんな男が事もあろうに同じ学校の生徒、しかも美人で爆乳っておいしいのを食べているとか狂気だよ、狂気!」

「な、なんだいきなり人聞きが悪い」

「先生、男らしくないな。チャキ! っと認めればいいのにさ」

 熱美、やれやれ見損なったぜ! と訴えるような表情をそのままにスマホを取り出した。そうして何やらデータを取り出してから教師に渡すのだが、渡す前に注意として言っておく。

「焦ってスマホつぶしても意味ないから、データのコピーはとってあるもの。それにつぶしたら弁償だから覚えておいて」

 こうしてスマホを見せられた男は驚愕。そこには夜のラブホに入っていく二人の姿があったからだ。

「こ、これは……」

「仲間の一人が撮影したんだよ。国語の先生は無防備だなぁとか言ってたよ」

「こ、こんなのフェイクだ、作り物だ」

「まぁまぁ先生、ここからが話の本番だよ。おちついてわたしの言う事を聞いてちょうだいよ」

 熱美はスマホを奪い取ると、淡々とした声で要求を述べた。それはヤンキーグループ4人に合計80万円支払うこと。ひとり20万円ずつ分けて遊びたいとかいうらしい。

「そんなお金あるもんか」

「そうかなぁ、仮にお金まったく無しだったら霊子って爆乳にお小遣いあげたりできないと思うけどちがう?」

「う……」

「800万ではなく80万はやさしいなぁと思って欲しいな」

 熱美、そうつぶやいてからちょっと表情をやわらげた。相手の緊張に怒りが混じろうとする手前において、心得ているとばかり思いやりあるような笑みでこう続ける。

「80万円払ってくれたら、先生の味方になると約束してあげるよ」

「や、約束?」

「先生、怪椎霊子を地獄に落とそう。学校裁判をやろう。そこで先生は無罪になって、霊子だけが有罪になればいい。そうなるように応援する。だってわたしも他の女子も霊子が嫌いだもん。教師とファックしておきながら、あの容姿とオーラでごまかせるとかムカつく。地獄に落としてやらなきゃいけないタイプだよ、霊子は」

 エヘっとかわいく笑って見せる熱美がいう学校裁判というのは、自らの黒い行為や罪を学校に打ち明ける。殺人など擁護不可能な場合を除けば、自ら演説して生徒の審判を仰ぐという流れができる。そうして無罪なら刑罰はなし。

 しかし大多数の生徒から有罪を言い渡された場合、教師なら免職、生徒なら退学となる。

「先生の受け持ちは国語だよね、だったらさぁ、上手な演説とかできるでしょう? ほんのちょっとだけ自分も悪かったとかいって、でも大部分はあの巨乳が悪いんだという演説、それをやりなよ。そうすれば先生は無罪で霊子は有罪で退学、ざまーみやがれって話」

 熱美はここで男を安心させてやるためにこう続けた。自分たちはヤンキーであるけれど、ゆえに約束は守ると。

「80万円、今日中に払って。そうしたら学校中の女子に先生はかわいそうって話を吹き込んであげるよ」

「今日中ってそんな……」

「自分の人生がかかっているんだよ? 今すぐ下ろしに行けばいいじゃん」

「わ、わかった、そうする。じゃぁ学校で待っていてくれるか?」

「もちろん、待ってるよ。あ、それとここまでの会話は録音しておいたから、変な気は起こさないこと。だいじょうぶ、お金さえもらったらわたしら先生の味方になってあげるから」

 熱美にそう言われると情けない男はとても安心した。霊子という34年も年下である巨乳女子の事なんかより、わが身の保身だけで頭がいっぱい。ぶっちゃけ今の進にしてみれば、霊子が交通事故で死んだら表向きは泣いて心の中ではガッツポーズになるだろうって話だ。

 彼はちょっと用事がなどとウソを言って仕事の手を止めた。早く仕事を終わらせるために中断したくないと考える男であるが、ここでは言われた金額を引き下ろして戻ってくる事しか頭にない。

 車に乗る。学校を出る。そしてすぐ近くの銀行に駆け込みATMを前に立ち、お望みの金額っていうのを引き下ろし封筒に突っ込む。

「おぉ、行動が速い。いいよ、そういうのは女に好かれるよ先生」

 熱美が笑って手を伸ばそうとしたら、教師はほんとうにこれで味方になってくれるのだな? と疑る。

「ヤンキーだしゆすってるから信用してもらえなくても仕方ないか。じゃぁ先生、わたしはこのお金を受け取ったら先生を裏切りませんと言うから、それを録音してもいいよ」

 こうして成すべきが終わるととっても分厚い封筒が熱美に渡される。そうして次は段取りという話になった。

「先生は明日、昼休みくらいに学校裁判がしたいと申し出たらいいよ。それまでにわたしらはすべての女子に先生は可哀想で霊子は悪人と吹き込んでおくから。だいじょうぶ! なぜなら先生、この世で勝利するのは女、および女を味方につけている男なんだから」

 熱美はそう言うとカバンに封筒を突っ込み、じゃあね! とにっこりして見せる。それは霊子みたいな上品っぽい感じではなかったが、フレンドリーっぽい感じは霊子よりつよかった。して立ち去ろうとしたが、最後の忠告として言っておく。

「先生、もう霊子に電話もメールしてはダメだよ? 男って女々しいからさぁ、そういう踏ん切りの悪さは命取りになりやすい」

 それだけ伝えたら熱美は教師の前から立ち去った。そうして一人になった男は、まるで悪い夢でも見ていたようだと思いおのれの頬をつねる。そうするとたしかな痛みが生じ、これはきつい現実だと嘆くようにこぼす。

「仕方ない……これは必然な流れだ。どのみちいつまでも続けられるわけではなかったかし、そろそろ終わりにしたいと思っていた。そうさ、これで怪椎霊子と手を切れる。おれの過ちが消えてきれいな自由に戻れるんだ」

 自分にも非があったと胸の奥底では認めている。女子高生に先生ってかわいいなどと言われドキッとしたのは恥だとも思っている。だがそれでも進は自由に戻りたいって意識に背中を押されるから、おどろくほど早く霊子は悪い女だと本気で思うようになっていた。あの女がいるから、あの女がたぶらかしたりするから、自分みたいな独身の中年が気迷いを起こしたのだと、すべてを霊子のせいにし自分は被害者だという意識をがっちり太い柱として胸の中に立てていくのだった。
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