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クレーンゲームで巨乳フィギュアをゲットしたい!

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 クレーンゲームで巨乳フィギュアをゲットしたい!


 駅前のモールにたどり着いた真治と重がいる。木曜日の午後3時できれいな晴天ではあるものの、他に行く場所がないゆえ建物内へと入っていった。

「まずはちょっとゲーセン覗いていこう」

 重が1階の奥方面を指差す。

「行こうか」

 気持ちよくうなずく真治がいた。サイフの中にわんさかお金がある! というわけではないが、ここに来てゲーセンを覗かないのは寂しい。なんせ広大なスペースで夢空間みたいなモノだから。

「いまは空いてるなぁ。あ、真治、おれちょっとトイレに行ってくる」

 ゲーセンにたどり着くやすぐトイレに向かっていく重。それが戻ってくるまで一人となった真治は、なんか面白そうなのはないのかなぁとブラブラ歩行をやり始める。

 しかしそのとき!

「ぁ!」

 ビシーン! と頭の中にクールなムチが放たれた。スケールは大きくないが、ビリビリっとくる衝撃を受ける。

「おぉ……」

 真治はトロっとした目で、でっかいガラスに両手を当てる。そのビッグな入れ物の中には、ビックリするほど魅力的な巨乳フィギアが立つ。それは真治のおっぱい星人って特徴と同時に、真治が抱く好みも激しく突く良品。

(う、うわぁ……)

 周囲の事を忘れて見入る真治の姿は、魅惑的な女の子にドキドキする男子そのもの。どういうキャラクターなのかは知らない。でも知りたいと思わせるほど、ガラス内ガールはステキだ。まぶしいヒロイン光線がキラキラってタイプではなく、一見すると庶民的なやわらかい魅力がある。ショートレイヤーが似合い、全体の輪郭はふっくらしていて、しかもおっぱいは豊満でかなりの巨乳! なんとなく、それとなく、真治は思わずにいられない。

(ちょっとお姉ちゃんに似てるかも……)

 そう、そのキャラクターは優子が17歳くらいになったらそんな感じだろうって、そういう風に見えなくもなかった。アニメのまろやかな味わいがそのまんま具現化された見栄えは神がかっている。それは誰からも尊敬されてしかるべきほどの腕前なのだろう。

「真治、なに夢中になって見てるんだよ」

 ここで突然に舞い戻ってくる重。

「い、いや……その……」

 真っ赤な顔で恥じらい、何も見てないとか自爆レベルな言い訳をする。これはダメだ、めちゃくちゃに突っ込まれる! と内心恐怖する。ところが重の反応は真治の予想とは異なる。

「こ、これは……」

 瞬間悩殺を食らったみたいな勢いで、重がガラスに両手を当てる。

「え、そのキャラ知ってるの?」

 真治は軽いドキドキを隠しながら聞いてみた。

「この三次元にステキなおっぱいを! というアニメに登場するキャラだよ。名前はレディーミルクって言って、17歳でバスト98cmでブラジャーはHカップってキャラ。だからほら、このブラジャー姿がすごいそそるわけじゃん」

 他人にどう思われようと知った事か! 的な勢いで重が言い放った。なんてかっこうよい姿勢だろうと思うのだが、同時に真治は不思議だって気もした。橘高重というやつは、ここまで萌えアニメのマニアだっけ? と首をかしげる。それほど今の語りは情熱量がすごかった。

「いや、そんなすごい熱心じゃないって」

 突然にテンションを下げた重がいる。

「なに、急に顔を赤くしてどうしたんだよ」

 真治がとっても怪訝な顔をこしらえて浮かべる。

「お、おれさぁ、このレディーミルクって好きなんだよ」

「うん、それで?」

「だ、だってさ……このレディーミルクって……なんかお姉ちゃんに似てない? お姉ちゃんが女子高生になったら、たぶんこういう感じってイメージしない? だからさ、お姉ちゃんだ! とか思ってドキドキしちゃうわけで」

 ゆるく語る重の顔は淡い恋色になっている。それはイチゴ味のフルーチェを思わせるようなモノかもしれない。

「ま、まぁ……わかるような気はする」

 真治が震えボイスで認めるから、数秒ほど2人の間には静けさが漂う。でも湿っぽい話は抜きだ! と、重が勢いを取り戻す。

「おれ、絶対にレディーミルクをゲットするから!」

 重が吠える、男子が立つ! か細い資金源から500円玉なんて大物を取り出し、それを機械の口に突っ込んだ。ピッ! っと点灯する6という数字。すなわち熱い情熱のトライは6回ってこと、その6回に片思いのエネルギーすべてを注入するってこと。

 ガラスの中にいるレディーミルクというすごい巨乳女子は、白いシャツを脱ぐようなポーズをしている。内側の白い豊満フルカップ(Hカップ)を、あなたのためにという感じで見せつけている。そのブラジャーも豊かでやわらかそうな谷間も、天才的な作り込みによって感服せざるを得ない。

「これだけおっぱいが大きいと、上から掴むのはかんたんって気がする」

 重は1ボタンを押しながら期待感に溺れる。上にあるアームを横に動かしながら、あの白い巨乳ブラジャーをつかめば成功だと信じる。

「いっけぇ!」

 かけ声と同時に前方へ進んでいく手。それは人間で言うと、親指、人差し指、中指の3本しかない。もしかしたらつかめる? という期待を煽るには最高の形状と言える。

「絶対に取る!」

 重の声と同時に落下していく3本指。それらの先端は確かに重の狙う位置へたどり着いていた。レディーミルクの白いフルカップを掴むように思えた。

―おっぱいゲットー

 誰が見てもそう思えたのだが……無常にも魅惑の商品は落下してしまった。チャレンジできるのはあと5回しかない。

「きみたち苦戦しているね」

 ここで突如として若い男が現れた。2人の少年が戸惑っている間に、ガラスの内側を見ながらテキパキ話を進めていく。

「コツがあるんだよなぁ、実はかんたんなんだよなぁ」

 うっすらと、でも濃密に興味を引っぱる声。当然ながら重は反応するしかない。500円玉を突っ込んだ者としては、若い男が救世主のように見えるのは当然のことなのだから。

「おれもレディーミルク好きだからさ、自分のために取るよ。きみは横で見ていいい。良い勉強になると思うぜ」

 男はレディーミルクが入った台の前にたち、重の隣で別アームを動かす事にした。

「100円だけ?」

 重が男の手にある硬貨を見てつぶやいてしまう。

「100円で十分さ。正しいテクと情熱があれば、100円以上はいらない」

 いかにもアニメ……的なセリフを放った男が100円玉を投入。その姿にはまったく迷いや怯えがない。尊敬に値するほど堂々としている。よっぽど自分を信じていなければ浮かばせられないオーラだ。

「行くぜ! よく見ておけよ少年!」

 男の声に重は真剣な目を固める。でっかいガラスの内側で成される動きを、何一つ見逃すまいと見続けた。ウィーンと横に進んでいく手。今度はウヮーンと前に進んでいく。そうして男が丸ボタンから手を離す。それは見ている重にとってはまちがっているように思えた。

(ムリ……絶対ちょっとズレてる)

 そう思い下がっていくマシーンの手を見るのだが、なんと! その無感情な手はレディーミルクの豊満なバストを前後からギュッと鷲掴み。それは絵に描いたようなカンペキな仕事だ。

「えぇ……」

 おどろく重が声を出すのは当たり前。乳をつかまれたレディーミルクは、ガタガタ揺れながらも落下しない。完全な捕獲という他ない見事さであり、まちがいなく職人技。

「レディーミルクゲット!」

 男は淡々とした表情で得たばかりの商品を手に持つ。

「すげぇ……」

 たましい抜かれたみたいな顔をすると、重は男にポンと肩を叩かれる。そうしてやさしくもきびしい声で言われた。

「ほんとうならきみにくれてやるべきなんだろうな。そうすればみんながハッピーって物語なんだろうな。だけど少年、男は……男は自分の力で勝利を掴み取らなきゃいけない。きみならできる、だから自分の力で栄光をもぎ取るんだ」

 男の声は良き先生みたいだった。重の心を震わせ、レディーミルクゲットへの情熱を加速させる。

「じゃぁな、きみの情熱にグッドラック!」

 男はそう行って立ち去っていった。そうして重は残っている回数のチャレンジに命をかけた。

(思い出せ……さっき見たのを思い出すんだ……)

 あの見事な乳の鷲掴みを再現できればいい。そうすればレディーミルクは我が掌中に落ちる! と重は奮闘した。

 しかし……なにがいけないのか? どこでちがいが生じるというのか、レディーミルクは重の思いをことごとく突っぱねる。そして最後の1プレイも最高の攻撃と思われたのにハズレてしまった。

「あぅ……」

 ドン! と両手で台を叩く重。

「すぐにはムリだよ。今日はこれくらいで終わりにしよう」

 真治は重に引くよう促した。500円の損失は痛いが、500円しか使っていないと思えばいいんだと考える。それは極めて健全な心のあり方だった。しかし金を使った者はそういうわけにはいかない。

「ちょっと待っていてくれ、両替してくるから」

「え? 両替? まだ使う気?」

 青ざめる真治に対して重は言い放った。もしもの時のために、いわゆる命玉として1000円札を有しているのだと。

「マジで? それ使ってもいいわけ?」

 真治は止めるように説得した。

「だいじょうぶ。だって1000円あるわけで、そのうち半分で止めておけば500円残る。500円あればだいじょうぶだ」

 重から飛び出すぶっ飛びのセリフ。それはギャンブル中毒を思わせる感じであり、実際少年の目はギラギラになっている。レディーミルクを手にするためなら、他のことは喜んで犠牲にしようって目だ。

「ぅく……」

 およそ10分後、500円を使ってダメだった重がいる。そして当然の成り行きとばかり残りの500円玉を投入するのだった。

(あ~あ……止めとけばいいのに……)

 あきれて声も出ない真治がいた。しかし重の状況を別の場所から見ている者たちもいたのだ。

「店長どうっすか? あのガキはまだクレーンゲームやってます?」

 事務所みたいなところへ、先ほどの若い男がやってきた。手にはレディーミルクを持ち、パソコンと向かい合っている別の男性に声をかける。

「あぁ、やってるよ。あいつバカだよな、がんばったら取れると思ってるんだよな。見ろよあの必死な顔、まるでお猿さんって感じ。でも絶対に取らせない。あと4000円くらい使ったら考えてやるけどな」

 パソコンでクレーンの裏操作をする店長、それを見ながら笑う若い男。そんな事は知らない橘高重は、命玉の1000円を全部使い果たしてしまった。
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