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19・椎名と燃得が相合傘1
しおりを挟む「なんで雨が降ってるんだよ……おれ、何か悪い事したか?」
午後4時半頃、図書室を出た燃得は廊下の窓を見てぼやかずにいられなかった。天気予報によれば本日の降水確率は10%、だからして実際に朝はきれいな晴天。それで傘を持っていこうなんて気になるはずはない。あげく図書室に入った午後3時頃までは晴れていたのだ。それでこうなると天に向かってツバを吐きたくなる。
「ったくムカつく……」
めずらしく図書室に入っていた燃得であるが、いったい何を読んでいたのか? それは「好みの女を落とす必勝マニュアル」という、中学校に置いてあるのが不思議としか思えないようなモノだった。
「望め……まだ佐藤と破局しないのかよ……あれかなぁ、ラブラブなのかなぁ……佐藤の巨乳にもうすでに甘えているのかなぁ……パイズリとかしてもらっているのかなぁ」
いかにも男子らしい嫉妬を抱えながら、燃得は涼しいというよりは寒いという感じすら漂う階段を降りていく。そしてザーザーって無慈悲な音が強まってくる。
「くっそぉ、今まで数人の女と付き合ったことがあるのに、なんで佐藤みたいな女とは縁がないんだろう。なんで世の中ってうまく回らないんだろう」
そんな事をつぶやきながらで入り口に立つ。そうすると猛烈な勢いで上から下に落ちる無数の縦線が目に入る。
「仕方ない、濡れるか……水も滴るいい男って言うもんな」
自分のセリフで自分を慰めてから、今まさに大雨の中に飛び出さん! と動きかけた。そのとき、不意に後ろから燃得に声がかかる。
「そこの男子」
それは女子の声だった。それは初めて聞く声だと思ったが、なぜか妙な感じが印象的だったから、立ち止まった燃得がくいっと振り返る。
「あ、あれ?」
本来なら女子に向かって、おまえ誰? とかいう所。だが傘を持って迫ってくる女子を見ると、あれ? あれ? あれ? としか思えなかった。
(さ、佐藤?)
燃得はやってくる女子の顔と同時に、もしかすればそれ以上に制服に浮かぶ豊かなふくらみって部分を見る。おぉ、けっこうなボリューム、それって巨乳じゃん! と言えるが、佐藤翠名にはちょっと届かない。しかし顔が……佐藤翠名そっくりなので、脳が軽いエラーを長く続ける。
「あんた学年は?」
「おれは2年だけど……」
「そう、わたし3年生なんだけれど……あんた傘持ってないんだ? ミジメだよね、哀れだよね、だから心優しいわたしは思った。途中まででも入れてあげようか?」
「え、おまえってやさしい巨乳なの?」
「やっぱりやーめた」
「なんだよそれ」
「わたし3年だって言ったでしょうが、年上への礼儀がなっていないやつなんて雨に濡れて風邪ひいて光熱出してその勢いで死ねばいいんだよ」
「きっつ! じゃぁなんて言えばいいんだよ……じゃなくて、なんて言えばいいですか?」
「そうだなぁ、まずはお姉さんかな」
「巨乳っぽいお姉さんでいいですか?」
「やっぱりやーめた」
「え、なんで? いまの何がいけなかったんですか?」
「わたし中3でDカップなんだよ、巨乳なんだよ。同じ女から巨乳っぽいって言われるなら気にしないけれど、男子から巨乳っぽいとか言われると殺意すら抱くんだよ」
「Dカップ! それってけっこうなボリューム」
「あ、もしかして事の本質をちゃんとわかってる?」
「おっぱい85cmくらいとか?」
「あんたおっぱい星人なんだね……」
「だって、だって……」
「だって、なによ?」
「同じクラスにすごい巨乳がいるから……あんなボリュームを見ていたらおっぱい星人にならない方がおかしいわけで」
「巨乳? それの名は?」
「佐藤翠名って言うんだけれど……」
「やっぱり……っていうか当然か。それわたしの妹、わたしは翠名の姉だから」
「えぇ! お、お姉さまだったのですか!」
「なによ急にキモイ言い方して」
「い、いや……お姉さんもやっぱり魅力的な女子だなぁと思って、けっこう好みだからドキドキしちゃって」
「わたしみたいな女子が好みだと?」
「はい! まぁ、乳のボリュームは妹に少し負けてはいるけれど」
「やっぱり入れてやらない、おまえは雨に濡れて帰れ!」
「ごめんなさい! 以後気を付けますよって、どうか傘に入れてください!」
燃得は何が何でも登場した巨乳女子と相合傘がしたいと思った。乳のボリュームは若干妹に負けるが、それでもなかなか豊かでやわらかそうだし、顔もかわいいし、キャラもなかなか好みの部類。そんな女子と相合傘をしたいと思わない男などいるわけがない。そして相合傘をすれば、豊かなふくらみが当たってキモチいい! ってラッキースケベが発生するかもしれないと、男子らしい妄想の膨れ上がりを止められるわけもない。
「あんた名前は?」
「火高燃得です。お姉さまは?」
「椎名だけれど」
「椎名お姉さまとか言っていいですか?」
「なんかうざいなぁ、ふつうにお姉さんでいいよ」
椎名、シュパ! っと折り畳みが傘を開いた。それはちょっと小さめで、2人をまったく濡れないように守ってくれる気がしない。でもだからこそ、密接のイチャイチャができるんじゃないか! と、燃得は心の中でうひひ♪ っと男らしくよろこぶ。
「ほら、おいで、途中までいっしょに帰ろう」
なんだかんだ言ってもやさしいって感じの椎名、傘を持っていない反対側の色白な手をクイクイっと動かし男子を誘う。
(やった、巨乳と相合傘ができる!)
えへへっと素直な笑いを隠せない燃得、これはすんごいラッキーだと興奮する。佐藤翠名そっくりで、佐藤翠名には少し劣るが巨乳って女子とイチャイチャできるなんて、まったく思いもしなかったのだから。
「では、よろしくお願いしまーす」
デレデレしながら椎名の横に位置した燃得、転がってきた甘いラッキーみたいな相合傘をしながら、きつい雨が降る外へと出た!
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