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7・望、ゲーマーの心を燃やしつつ恋心も噛む

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「よし!」

 ただいま午後8時、望が机に向かってイスに座る。眼前には27インチのゲーミングモニターがあり、机上の右端にはバカデカい一斤食パンみたいなミニタワーなるゲーミングPCがある。そして望は左手にコントローラーを持ち、右手のマウスでお目当てのゲームを呼び出す。
 
 あれは望が小6の時だった。親戚のおじさんなる人と話をしていたら、おまえ将来何がしたい? とか聞かれた。

「ゲーマーかな」

 そのときの望はそう答えたが、それは決してウソではなかった。ただ、ゲーム三昧で生きたい! なんて答えたら少し恥ずかしいかも……とか、周囲が冷たい目を向けるかも……なんてマイナスの感情もあった。

「よし、じゃぁゲーミングPCをプレゼントしよう、おまえが将来活躍するのをたのしみにしているぜ!」

 冗談とも本気とも言えるような声を出したおじさんだったが、ほんとうにゲーミングPCとゲーミングモニターを即購入して望にプレゼントしたのだった。

 両親は息子の部屋にゲーミングPCとゲーミングモニターを置くことをあまり快く思わなかったが、ふつうのPCとして有効活用する! という望の声が勝り押し切ることに成功。

 望み、最初はなんとなくゲームをやって遊びほうけてYou Tubeを見まくりとぜいたく品でダレた生活を満喫。しかしプレゼントしてくれた人の期待を裏切るのはゲスだ! と思い直し、ゲーマーを目指す自分にスイッチを入れた。

「よし、まずはデイリーミッションから」

 いま、望がドハマりして、どうせなら極めてみたいと思っているゲームのひとつがレーシングゲームだったりする。その名を「デス・アスファルト」という。なぜデス(死)という言葉がつくのかといえば、このゲームはライバル車に回転タックルをかまし破壊する事が可能という、むごい殺し合いみたいな要素を持っているからだ。

「早くシボレーのグランスポーツを手に入れたい」

 つぶやく望、ヘッドホンをし爆音でエンジンを吹かしながら、現時点でのお気に入りナンバー1の愛車、ダッジバイパーACRで爆走する。コンピューター相手であれば安定して1位を取れるようになってきた。

 最近の望がぐいぐい上達してきたのは、カーブやらコーナーに突入するタイミングと、そこから抜けるにおけるブレーキのリリースだ。これにより当初のへたっぴーが、それなりの戦士みたいなレベルになった。

 がしかし……問題はコンピューター相手ではなく、実際の他プレーヤーと競うマルチであり、これがとてつもないストレスとなる。

「ウソだろう……おまえらなんでそんなに速いんだよ……」

 始まって数秒くらいはいいとして、そこから後は気持ちよく離されていく。それはまるで猛烈な勢いで自分から逃げていく魚のよう。

 同じ車、性能同じ数値のはずなのに追いつけない。なぜか縮められない差がある。望はそれはいったいどこなのだ? と思いながら、どんどん引き離されていく。

「くっそぉ……なんで他のやつはカーブから抜けるのがそんなに速いんだ、なんでだ、何が違うっていうんだ」

 次第に頭も感情のヒートアップする。普段は乱れた自分を見せたくないと、冷静とかいい子ぶる望も、ゲーマーとしての戦いになると心が荒れていく。

 そして問題なのが、このゲームの醍醐味ことデスタックルという殺し技だ。8人で走ってただいま6位という位置にいる、つまりびりケツ寸前だ。しかしその位置でも殺し合いは発生する。下位でも過酷な争いは避けられないのがゲームである。

「あ!」

 望がドキッとしたその瞬間、デスタックルを食らった愛車が大破。ドシャ! っと猛烈な勢いで転がったあげく、無残なジャンク品ここにあり! とばかりハデに砕け散っていく。

「おまえ、ふざけんなよ! ちょ、待てよボケ、腐れな分際で人に迷惑かけるとか、おまえ絶対殺す、絶対殺す!」

 普段は熱い心を見られたくないと恥ずかしがる望も、ゲーマーモードになると言葉があれ心は鉛も溶かすような温度になる。

「ちょっと待て、おまえ、殺させろ、逃げるな、逃げるな! おまえ絶対殺す、だからおまえ死ねって、おまえなんか死んで当たり前!」

 最下位に落とされた望、自分を攻撃したライバル車を殺したいと必死になってニトロの爆速を試みるが時すでに遅し……他の7人すべてがゴールインしてしまった。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! くっそ、ムカつく、ムカつく、ムカつく、アホが人のジャマしやがって……アホの分際で人を不愉快にさせやがって、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!!」

 普段は抑えている熱い心が飛び散りまくる。これがゲーム、これがゲーマー、そしてこれが熱い戦いという現実。

「ハァハァ……くっそ……誰がこんなクソなゲームやるもんか、こんなクソなゲームはこの世から消えてなくなれつーんだよ!」

 負けるといつもそう叫ぶ。だがしばらくするとまたこのゲームをやる。そして思う、自分が超えられないでいるカベを超えてムカつくやつらを見返したい! と。

「ちょっと休憩……」

 ゲーマーとして体力を消費したら寝転がって休憩する。それは毎度の事だが、最近ちょっと変化が生じていた。

「どれにしようかな……」

 疲れて寝転がる前、ネットラジオを聴くようにするのが最近の望だ。なぜそんな事をするようになったのかと言えば……他でもない話題のネタを増やすため、出来る事なら語彙力をアップさせるため。

 佐藤翠名……ただいまの望にとってはこの世で一番愛しい巨乳女子。そんな彼女が出来たというのに、話題のネタが少ないのはピンチだ。最高の存在を失う可能性だって高まってしまう。

「佐藤もゲームとかやるのかな……いっしょにゲームとかやってみたいな……」

 今のところ望は自分がゲーマーの心を持った少年という事実を伏せていた。いい格好したがるという悪い癖と同時に、ゲームなんて言ったら女子が引くのではないかと恐れているゆえ。

「はぁ……」

 ラジオ番組を再生したら床にゴロっと寝転がる。そして休憩しながらも注意深くラジオを聴く。話のネタに使えそうなモノはないか、おもしろい話はないか、そして自分では思いつかないような表現とか言い回しが出て来ないかなどと期待する。

「ん……」

 しかし翠名という彼女が出来ると、ふっとスキを突かれるみたいな事が発生するようになった。急にせつなくなって……胸の内が佐藤翠名を思いながらぐぅーっと沈んでいく。せつないという名前の底なし沼にハマっていくみたいに。

「佐藤翠名……」

 突然破裂するかのごとくせつなくなったから起き上がると、自分のやろうとしている事が気恥ずかしいと顔を赤くしながらも、それでも仕方ないだろう! とばかりに、やわらかい抱き枕を床において上から見つめる。

「さ、佐藤……翠名……」

 真正面からぐぃっと枕に抱きつくと、ムニュウって弾力に抱かれながら……顔を真っ赤にしながら、いま自分は翠名という彼女の巨乳に甘えているとか全力で妄想。でもそれをやると、せつなさという言葉が心臓から男子という部分に広がっていく。
「さ、佐藤……」

 気がついたら枕を横にし、仰向けになってジーンズにトランクスを下していた。そして灰色みたいな天井を見上げながら自分のたましいを燃やす。ゲーマーとしてではなく、彼女への想いに身を焦がすひとりのピュアな男子として。

「ぁ……んぅん……」

 ギューン! っと一気に上昇していく想い。ゆっくりかみしめるように味わいたいと思っても、翠名の顔やら全体像を思い浮かべたら勢いに減速なんぞかけられるわけがないのだ。

「あんぅぅ!!!」

 佐藤翠名が好きだ! と思ったその瞬間、秘めていた想いが無機質な空気の中に飛んでいく。せつなさというモノが白い液体になって天井めがけて大量に飛んでいった。
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