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第三話 予期せぬ敗北
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「「「うおーーーーー!!!」」」
歓声がスタジアム中に響き渡る。
王国最高の権威を持った御前闘技大会。
その決勝ともなれば物見遊山の観客たちも熱狂せざるを得ない。
スタジアムは異様な熱気に包まれていた。
勇者ハルデンベルグ 対 雷光のメルヴィル
近年稀にみる好カードという下馬評だ。
メルヴィルは今年に入って急成長を果たした若手の冒険者である。
一年経たずにS級まで昇り詰めるというのは過去に殆ど例のない快挙だ。
ただの少年にしか見えない大戦士は、神速の一撃で名を馳せ、ギルド最強クラスへと成り上がった。
「────遂にここまで来たぞ。敵を取らせてもらう。勇者ハルデンベルグ」
S級冒険者メルヴィルはその地位に相応しい威容を示しながらも、静かに告げた。
その姿は落ち着いており、因縁の相手と向き合っているという緊張などかけらも感じさせない。
この一年間で相当な修羅場を潜り抜けてきたことは、見るものが見れば即座にわかっただろう。
「ふむ……」
勇者は目の前の対戦相手を静かに観察して一言だけ声を漏らした。
観客から見ると、対峙する勇者の姿にも焦りはない。
だが、内心は見かけほど心穏やかではなかった。
(この力は一体……何をしたのだ。あの時の少年と同じとは到底思えん──)
勇者が動揺を隠しているのと同様に、メルヴィルも内心を覆い隠していた。
彼は静かな佇まいをしながらも、一年間抱き続けた復讐心を今まさに最高潮に燃やしていたのである。
(お前に地獄を見せられ、俺の心は一度折れた!だが、立ち直った!!確かにこれは作為あって与えられた力なのかもしれない!だが、それでも構わない!!その命、死んでいったアクラと村のみんなの鎮魂のため!貰い受ける!!)
カーン!!カーン!!!
試合開始の鐘が高らかに打ち鳴らされる。
速攻で勝負がつくという大方の予想に反して、じりじりとした間合いの取り合いが展開された。
メルヴィルは、動かない。
痺れを切らしたのか、好機を捉えたのか、先に仕掛けたのは勇者ハルデンベルグだった。
この国の武力の象徴──勇者の斬撃が小柄な少年に迫る。
防具を身に着けているとはいえ、バターのように全身鎧すら両断する勇者の一撃は受けきれるものではない。
観客はメルヴィルの次の行動は防御か回避であると信じ切っていた。
しかし、少年はまだ一歩も動かない。
「なっ!?」
一年の時を経て、今度は勇者が驚愕の声を上げる番となった。
勇者の一撃はメルヴィルの手刀によって受け止められている。
「「「うわーーーーー!!!」」」
観客はメルヴィルの成し遂げた偉業も、対戦者同士の実力差も理解できないながらも歓声を上げた。
だが、少年の顔色はまったく晴れない。
寧ろ、彼の顔はどこか失望の色を宿していた。
「……こんな、ものなのか。勇者の力っていうのは……。こんなやつに負けて!!俺はすべてを奪われたのかッ!!!」
勇者の振るった鋼の剣が、裸の腕によって止められるという異常事態。
動揺を隠しきれない勇者に、少年はそう叫んだ。
やり場のない怒りを発散しようと、メルヴィルは更に手刀を一閃する。
ガン!!
硬いもの同士がぶつかったような衝撃が勇者の手元に響く。
勇者は目の前で起こっていることすら信じられない。
勇 者 の 剣 が 折 ら れ た
ここにきて、勇者ハルデンベルグは勝敗を悟る。
(勝てない────)
彼我の実力差は圧倒的だった。
もしかするとそれは、一年前のあの日の差よりも────
降伏の言葉を口にするのにも、ほとんど躊躇いはいらない。
武人として生きてきた人生が、勇者の冒険の終わりを告げていた。
「────私の負けだ。この身はどうとでもするといい。だが、私も信義に従って生きてきたと自負している。それが故に斬られたとて本望だ」
ハルデンベルグの瞳にあるのは諦念と強い信念。
圧倒的優勢にあるはずのメルヴィルはギリっと奥歯をかみしめた。
「お前を!!お前ひとりを目指してっ!ここまで来たんだ!最後まで抵抗しろ!!奪ってやるぞ!お前の大切なもの全部!!かつてお前にやられたようにっ!!」
「────覚悟の上だ」
「地位も」
「当然」
「名誉も」
「それも当然だ」
「お前の大切な王女様もだ!!」
「────それも当然だな」
「そこで……怒りすら湧かないんだな。お前とは……一生分かり合えない。俺にはやっとそれが分かったよ」
初めてメルヴィルは剣を抜いた。
勇者の額に冷や汗が流れる。
「剣を抜くのは────せめてもの敵への敬意だ。これで終わらせる」
「────来い」
その一撃は、スタジアムの外壁を切り裂き、地面にすら深々と亀裂を生じさせた。
遅れて爆風が生じて、砂ぼこりが巻き上がる。
数分後、観客が最初に見たのは、会場を後にする冒険者の後ろ姿と、無様に斬られ倒れ伏した勇者だった。
歓声がスタジアム中に響き渡る。
王国最高の権威を持った御前闘技大会。
その決勝ともなれば物見遊山の観客たちも熱狂せざるを得ない。
スタジアムは異様な熱気に包まれていた。
勇者ハルデンベルグ 対 雷光のメルヴィル
近年稀にみる好カードという下馬評だ。
メルヴィルは今年に入って急成長を果たした若手の冒険者である。
一年経たずにS級まで昇り詰めるというのは過去に殆ど例のない快挙だ。
ただの少年にしか見えない大戦士は、神速の一撃で名を馳せ、ギルド最強クラスへと成り上がった。
「────遂にここまで来たぞ。敵を取らせてもらう。勇者ハルデンベルグ」
S級冒険者メルヴィルはその地位に相応しい威容を示しながらも、静かに告げた。
その姿は落ち着いており、因縁の相手と向き合っているという緊張などかけらも感じさせない。
この一年間で相当な修羅場を潜り抜けてきたことは、見るものが見れば即座にわかっただろう。
「ふむ……」
勇者は目の前の対戦相手を静かに観察して一言だけ声を漏らした。
観客から見ると、対峙する勇者の姿にも焦りはない。
だが、内心は見かけほど心穏やかではなかった。
(この力は一体……何をしたのだ。あの時の少年と同じとは到底思えん──)
勇者が動揺を隠しているのと同様に、メルヴィルも内心を覆い隠していた。
彼は静かな佇まいをしながらも、一年間抱き続けた復讐心を今まさに最高潮に燃やしていたのである。
(お前に地獄を見せられ、俺の心は一度折れた!だが、立ち直った!!確かにこれは作為あって与えられた力なのかもしれない!だが、それでも構わない!!その命、死んでいったアクラと村のみんなの鎮魂のため!貰い受ける!!)
カーン!!カーン!!!
試合開始の鐘が高らかに打ち鳴らされる。
速攻で勝負がつくという大方の予想に反して、じりじりとした間合いの取り合いが展開された。
メルヴィルは、動かない。
痺れを切らしたのか、好機を捉えたのか、先に仕掛けたのは勇者ハルデンベルグだった。
この国の武力の象徴──勇者の斬撃が小柄な少年に迫る。
防具を身に着けているとはいえ、バターのように全身鎧すら両断する勇者の一撃は受けきれるものではない。
観客はメルヴィルの次の行動は防御か回避であると信じ切っていた。
しかし、少年はまだ一歩も動かない。
「なっ!?」
一年の時を経て、今度は勇者が驚愕の声を上げる番となった。
勇者の一撃はメルヴィルの手刀によって受け止められている。
「「「うわーーーーー!!!」」」
観客はメルヴィルの成し遂げた偉業も、対戦者同士の実力差も理解できないながらも歓声を上げた。
だが、少年の顔色はまったく晴れない。
寧ろ、彼の顔はどこか失望の色を宿していた。
「……こんな、ものなのか。勇者の力っていうのは……。こんなやつに負けて!!俺はすべてを奪われたのかッ!!!」
勇者の振るった鋼の剣が、裸の腕によって止められるという異常事態。
動揺を隠しきれない勇者に、少年はそう叫んだ。
やり場のない怒りを発散しようと、メルヴィルは更に手刀を一閃する。
ガン!!
硬いもの同士がぶつかったような衝撃が勇者の手元に響く。
勇者は目の前で起こっていることすら信じられない。
勇 者 の 剣 が 折 ら れ た
ここにきて、勇者ハルデンベルグは勝敗を悟る。
(勝てない────)
彼我の実力差は圧倒的だった。
もしかするとそれは、一年前のあの日の差よりも────
降伏の言葉を口にするのにも、ほとんど躊躇いはいらない。
武人として生きてきた人生が、勇者の冒険の終わりを告げていた。
「────私の負けだ。この身はどうとでもするといい。だが、私も信義に従って生きてきたと自負している。それが故に斬られたとて本望だ」
ハルデンベルグの瞳にあるのは諦念と強い信念。
圧倒的優勢にあるはずのメルヴィルはギリっと奥歯をかみしめた。
「お前を!!お前ひとりを目指してっ!ここまで来たんだ!最後まで抵抗しろ!!奪ってやるぞ!お前の大切なもの全部!!かつてお前にやられたようにっ!!」
「────覚悟の上だ」
「地位も」
「当然」
「名誉も」
「それも当然だ」
「お前の大切な王女様もだ!!」
「────それも当然だな」
「そこで……怒りすら湧かないんだな。お前とは……一生分かり合えない。俺にはやっとそれが分かったよ」
初めてメルヴィルは剣を抜いた。
勇者の額に冷や汗が流れる。
「剣を抜くのは────せめてもの敵への敬意だ。これで終わらせる」
「────来い」
その一撃は、スタジアムの外壁を切り裂き、地面にすら深々と亀裂を生じさせた。
遅れて爆風が生じて、砂ぼこりが巻き上がる。
数分後、観客が最初に見たのは、会場を後にする冒険者の後ろ姿と、無様に斬られ倒れ伏した勇者だった。
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