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エピローグ1)竜宮城から帰って来て
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全ての撮影が終わってしまい、僕は日常に帰った。
これまでの会社と自宅を行き来するだけの生活。労働の日々への帰還だ。
友達も恋人もいない。その余暇の時間、イメージビデオの新作をチェックしたり。それくらいの楽しみしかないのが僕の元の生活だった。
その生活へと帰ってきたのである。
でももう、どうやっても前の自分に戻ることなんて出来ないさ。僕は抜け殻みたいになって、毎日を過ごしている。
端的に言えば、美咲ちゃんとゆかりちゃんのことを思い出しているわけである。
二人が近くに来たときの温かい体温の気配とか、二人の髪の毛の香りとか、息遣いのかすかな音とか。
話し声、視線、もちろん二人の制服姿に水着姿、もうあらゆることを。
そしてスタッフさんたちに指示を出していた自分の姿にも想いを馳せてしまう。
あのときの研ぎ澄まされた感覚。かつてなく僕の脳は冴え渡っていたなあ。「生きている」という実感をバシバシと感じられた。
僕の魂はまだ、あの撮影現場を彷徨ったままだ。
そう、まるでベトナム帰還兵のようなのである。いや、あれは戦場のトラウマに悩まされるっていう悲惨な話しであるけど。
アメリカの平和な街にいるのに、ベトコンが襲ってきそうな気配に悩まされるとか、そういう嫌な思い出だから、その比喩は違うと言えば違うのだけど。
でも、身体と魂がバラバラって意味においては同じ。
いや、むしろ竜宮城帰りの浦島太郎に近いのかもしれないな。
そう、イメージビデオの撮影現場はまるで竜宮城のようだった!
でもきっとあの現場は、竜宮城なんかよりも素敵な楽園だったに違いない。
竜宮城なんて全てが受け身、魚たちに酒を飲まされたり、差し出された食事を食べたり、踊りを見せられたりとか、ただただ接待されるだけ。
でも撮影現場は、いはば僕が支配する王国だったのである。
恐いベテランのスタッフさん、我儘なアイドル、厄介なマネージャーさん、誰も彼も僕の指示なんて聞いてはくれないのだけど、だからこそこっちも必死でコミュニケーションを試みて、それが伝わってたりもして、手応えを得て。
自分の意志と主導によって、夢が実現する世界だった。
それと玉手箱だ。
竜宮城との違いはそれもある。
元の世界に帰った僕の手元に、玉手箱がないんだ。何の手土産をもらっていない。
まあ、あれを開けると、一気に年老いて、枯れ果てしまうわけであるが。一瞬にして、死の手前までワープ。
でも、それは今の僕が望むことでもあるのかもしれない。もうあの楽しい思いを味わえないのなら、さっさと死んでしまいたいもの。
そうか! なるほど。
あれは慈悲の賜物だったのかもしれない。
もう二度と味わうことの出来ない至上の快楽のあと、それ以降、退屈な何も起きない人生を送るのはつらいに違いないと、玉姫様は浦島太郎をさっさと寿命を全うさせてあげようとして、あの不条理な手土産を渡したに違いない。
もう一度竜宮城へ行きたい。あの官能の世界に戻りたい。しかし目的地は海の奥底である。二度と行くことは出来ない場所。
そのときの浦島さんの絶望はどれほどのものだったろうか。
そんな浦島への優しさ。お節介。
玉手箱を開けて、黙々と白い煙に包まれて、すっかり年老いた浦島さんはきっと、今の僕のように虚しさとか寂しさに悩まされたりはしなかったに違いない。
「俺は若いとき、竜宮城に行って、それはもう楽しかったぜ。今となればいい思い出だよ」という感じで、即座に老後の回顧モードに入れたに違いない。
竜宮城の思い出をノスタルジーとして享受出来るというかね。
一方、玉手箱を貰っていない僕は違う。また会いたい、美咲ちゃんとゆかりちゃんと。
もう一度、撮影現場に君臨したい。でもそれは遠い夢。
「あーあ、虚しいなあ」
僕は声に出して言う。
これまでの会社と自宅を行き来するだけの生活。労働の日々への帰還だ。
友達も恋人もいない。その余暇の時間、イメージビデオの新作をチェックしたり。それくらいの楽しみしかないのが僕の元の生活だった。
その生活へと帰ってきたのである。
でももう、どうやっても前の自分に戻ることなんて出来ないさ。僕は抜け殻みたいになって、毎日を過ごしている。
端的に言えば、美咲ちゃんとゆかりちゃんのことを思い出しているわけである。
二人が近くに来たときの温かい体温の気配とか、二人の髪の毛の香りとか、息遣いのかすかな音とか。
話し声、視線、もちろん二人の制服姿に水着姿、もうあらゆることを。
そしてスタッフさんたちに指示を出していた自分の姿にも想いを馳せてしまう。
あのときの研ぎ澄まされた感覚。かつてなく僕の脳は冴え渡っていたなあ。「生きている」という実感をバシバシと感じられた。
僕の魂はまだ、あの撮影現場を彷徨ったままだ。
そう、まるでベトナム帰還兵のようなのである。いや、あれは戦場のトラウマに悩まされるっていう悲惨な話しであるけど。
アメリカの平和な街にいるのに、ベトコンが襲ってきそうな気配に悩まされるとか、そういう嫌な思い出だから、その比喩は違うと言えば違うのだけど。
でも、身体と魂がバラバラって意味においては同じ。
いや、むしろ竜宮城帰りの浦島太郎に近いのかもしれないな。
そう、イメージビデオの撮影現場はまるで竜宮城のようだった!
でもきっとあの現場は、竜宮城なんかよりも素敵な楽園だったに違いない。
竜宮城なんて全てが受け身、魚たちに酒を飲まされたり、差し出された食事を食べたり、踊りを見せられたりとか、ただただ接待されるだけ。
でも撮影現場は、いはば僕が支配する王国だったのである。
恐いベテランのスタッフさん、我儘なアイドル、厄介なマネージャーさん、誰も彼も僕の指示なんて聞いてはくれないのだけど、だからこそこっちも必死でコミュニケーションを試みて、それが伝わってたりもして、手応えを得て。
自分の意志と主導によって、夢が実現する世界だった。
それと玉手箱だ。
竜宮城との違いはそれもある。
元の世界に帰った僕の手元に、玉手箱がないんだ。何の手土産をもらっていない。
まあ、あれを開けると、一気に年老いて、枯れ果てしまうわけであるが。一瞬にして、死の手前までワープ。
でも、それは今の僕が望むことでもあるのかもしれない。もうあの楽しい思いを味わえないのなら、さっさと死んでしまいたいもの。
そうか! なるほど。
あれは慈悲の賜物だったのかもしれない。
もう二度と味わうことの出来ない至上の快楽のあと、それ以降、退屈な何も起きない人生を送るのはつらいに違いないと、玉姫様は浦島太郎をさっさと寿命を全うさせてあげようとして、あの不条理な手土産を渡したに違いない。
もう一度竜宮城へ行きたい。あの官能の世界に戻りたい。しかし目的地は海の奥底である。二度と行くことは出来ない場所。
そのときの浦島さんの絶望はどれほどのものだったろうか。
そんな浦島への優しさ。お節介。
玉手箱を開けて、黙々と白い煙に包まれて、すっかり年老いた浦島さんはきっと、今の僕のように虚しさとか寂しさに悩まされたりはしなかったに違いない。
「俺は若いとき、竜宮城に行って、それはもう楽しかったぜ。今となればいい思い出だよ」という感じで、即座に老後の回顧モードに入れたに違いない。
竜宮城の思い出をノスタルジーとして享受出来るというかね。
一方、玉手箱を貰っていない僕は違う。また会いたい、美咲ちゃんとゆかりちゃんと。
もう一度、撮影現場に君臨したい。でもそれは遠い夢。
「あーあ、虚しいなあ」
僕は声に出して言う。
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