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82)お風呂上がりの和室で

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 さて、怒涛のシャワーシーン撮影は終わった。
 大成功だったって思う。僕の想定を超えた素晴らしい映像を撮ることが出来た。

 これまでの撮影はどこかで心残りがあったり、もっと良いアドバイスが出来たんじゃないかって悔いがあったのだけど、このシーンにはもうそういうものもない。
 どっしりとした手応えだけ。素晴らしい充実感。
 だってもう撮影は終盤だ。最後のコーナーを曲がった辺り。

 さて、次のシーン。和室で寛ぐ二人を撮ることになろう。
 そこは和室というか客間というか、襖があり、畳が敷かれている、そういう部屋である。
 ここに布団を敷いて、訪問客である美咲ちゃんに寝てもらうわけだ。
 もちろん、ゆかりちゃんだって自分の部屋で寝たりせず、この部屋で眠る。ちょっとした修学旅行の夜といった趣き。

 風呂上がりのその和室のシーン、そこに色んなアイデアを織り込められるだろう。
 そもそもイメージビデオに有り触れたシーンではないだろうか、良き先例があるのだ。
 だから、どのアイデアを選び、どれを断念するか大変だった。
 断念したアイデア群はこんな感じ。

 風呂上り、バスタオル姿で扇風機の前で涼む。その姿でジュースを飲んだり、ドライヤーで髪を乾かしたり。

 お風呂上りバスタオル姿女子は最高に魅力的だろうけど、ここでもまたバスタオルかってことで却下。

 美咲ちゃんとゆかりちゃんが風呂上がりのお互いの身体に、ボディクリームを塗り合うなんてアイデアも考えた。
 それもなし。ここでもまた水着になるのは違う気がする。
 もうこの作品は終わりに向かっている。いはゆるチルタイムに入っているはず。
 とはいえ、僕はまだ監督に復帰したばっかりで、まだまだ重くて濃厚なシーンを撮りたい欲はあるんですけれど。

 白いワンピースの水着に、ペンで落書きし合うシーンを撮るのはどうかと頭の片隅を過ぎったりもした。
 それはイメージビデオで頻出する企画。日本に住んでいるどこかのとんでもない天才か変態が発明したアイデアである。

 でもそれも違う。何だか美咲ちゃんとゆかりちゃんがやることではない。
 何となく幼稚な行為で、ここまで積み上げてきたイメージに則さない気がする。そもそも風呂上りにやることでもないよな。
 まあ、もちろん何が何でもやれと命じられたら喜んで撮るけれどね。

 で、採用したアイデアが、トランプかボードゲームをしてもらって、楽しそうな姿を撮るという企画。
 二人は本当に仲良くなった。とてもピースフルで愉快な映像が撮れることであろう。
 いや、もちろんですよ。それだけでは物足りない。
 やはりイメージビデオらしいシーンも撮りたいし、撮らないわけにもいかない。それが僕の仕事であり、使命なのだから。

 というわけで、こんな感じの企画を考えた。風呂上り、二人はパジャマに着替えるわけだけど、半袖でスカートタイプ、襟元はボタンのパジャマ。その格好で、布団を敷いたりとか、トランプゲームをしてもらおうかな・・・。

 で、テーマは、隙間だろうか。

 女の子の身体に生じる隙間だ。

 もっと正確に言うと、衣服と身体の間に出来る隙間である。

 隙間なんて抽象的な物言いだけど。
 例えば半袖で腕を上げたとき、その袖に出来るあれだ。
 その隙間に目を凝らして見えるのは、脇だってことは知っているのだけど、そこに暗い隙間が出来ると、どうしようもなく視線はそこに引き寄せられてしまうではないか。
 スカートが三角形の隙間を作ることがある。女の子が手をそっと置いて隠すあの箇所。あの魅力のことを説明するまでもないだろう。
 胸の谷間だって隙間だろう。胸とブラの間に隙間が生じることだってある。

 数え上げればきりがない。女子の身体には無数に隙間が出来るのだ。それを覗き込むように撮影すること、それがこのシーンのテーマ。

 それはまあ、ずっとこの作品でその隙間を狙ってきたのだと思う。だとすればそれの総決算だ。

 隙間、どうしようもなく引き付けられる謎に満ちたあの暗い闇。

 男だけが、隙間に引き寄せられる! 

 ってわけではないのだろうけど、どうして僕たちはあんなにも隙間に引き寄せられるのだろうか。
 え? お前だけだよ、ってリア充タイプに言われると、だったら僕は女の子を知らないタイプだから隙間に引き寄せられるということになるのだけど、さあ、実際のところはどうだろうか。

 そういうのを窃視症というのだ、君は特殊な病人だよ、と精神科医に言われたら、ああ、そうだったのかって感じで悲しくなるな。
 多分、その盗み見感こそ、我が作品の特徴ではないだろうか? というか、それはこの世に存在するイメージビデオ作品全てに共通する本質。

 撮影はもうすぐ終わりである。最後の最後に、存分に撮りたい映像を撮ろう。それが隙間だったなんて。
 でもきっと隙間で終わりはしない。その隙間に、何か真実が一瞬見えたりするのかもしれない。
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