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70)最初の頃の僕は

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 「僕は青春とか恋とか、生きる喜びとか、そういうものも表現したいんです!」と大宣言したのだけど、確かに僕の作品はそんな方向に進み始めていた気がする。
 いや、もうこの現場で撮っている作品は僕のものではなくなったから、どんな言葉も虚しいのだけど。

 しかし撮影する前、撮影が始まった頃、その時期と比べて僕はすっかり考え方が変わっている。
 最初の頃の僕はもっと端的にエロかったですね。
 性的なことしか考えてなかった気がしますね。

 作品を作れることが幸せだというのもあったのだけど、それよりもこれまでずっと大好きだった椎名美咲ちゃんに会えることが嬉しいとか、あはよくば彼女と仲良くなったりしたいとか、それが無理でも美咲ちゃんの水着姿を間近で見られたらラッキーだとか。

 いや、それよりももっと卑猥なこと。口に出来ないレベルの妄想でウキウキしていたんだ。
 得しよう。おいしい思いをしたい、そんなことばかり考えていたことを認めよう。
 レベルが低かった。人間として醜かった。

 しかし今は作品のことを第一に考えているのである。
 この作品を完成させたい。僕は志が高くなっていった。

 その意欲が高みまで登りつめ、そのピークで監督解雇である。
 それはまあ、がっかりだ。もう僕の望み通りの作品にはならない。
 しかし何とかこの作品だけは完成させたい! 

 「協力します。僕に何でも言いつけて下さい。全力で手伝いますから」

 僕は新監督に頭を下げて言った。

 「何だよ、突然。いきなり俺に頭なんか下げやがって。お前、俺のこと大嫌いなんだろ?」

 「少しでも役に立ちたいんです。作品作りの途中で脱落した男で終わりたくない。少しでも関わっていたい」

 「つまりそれはどういうことなんだよ? 自分のアイデア取り入れろってことか? え?」

 「いえ、そういうわけではなくて」

 実のところ、それもあったりするけれど。それは大それた望みだろう。都合が良過ぎる。

 「何でも運びます。さっきのADの代わりに僕が働きます!」

 ただ、投げ出して欲しくないんだ。
 今、この現場の支配者はこの人だ。彼はやる気を失っている。このままでは作品が駄目になってしまう。
 彼は決して無能な人ではないだろう。
 何ならば悪い人ですらないのかもしれない。
 話せばわかってくれる人だ。それは理解出来た。この新監督に力を発揮して欲しい。
 僕の望みはそれだけ。

 僕が張り切って動いて、この現場で働いて、この人にもこの作品の情熱を抱いてもらいたい。
 「伝われー」ってやつだよ。
 僕はこの作品を愛している。凄い作品を作りたい。それを態度で見せてやるんだ。

 「そうだなあ、どうしようかなあ」

 しかし新監督はこんなことを言ってくる。

 「迷うよなあ・・・」

 「え、ちょっとでもお手伝い出来ればいいだけですよ」

 何で迷うんだよ? 手伝いくらいいいじゃないか。やっぱり嫌な奴なのか、この人は。

 「どうしようかなあ、まあ、わかったよ、考えておく」

 「はあ、そうですか」


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