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66)美咲ちゃんの決意
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何ということが起きているのだろうか。これはとんでもない出来事だ。
思えば、まさか自分がこの作品の監督を降板させられるなんて思ってもいなかったのだけど、今、それ以上に信じがたいことが起きている。
新監督のパワハラの標的になってはいないけど、ゆかりちゃんは自分が犠牲者であるかのように半泣きになっている。
マネージャーさんたちも「ちょっとそれは」って表情になっているのだけど、決定的な反論の言葉を思いつかないの、ただマゴマゴとしているだけ。
今、この男の暴力の前に、美咲ちゃんだけが立ち向かっている。
美咲ちゃんは毅然とした態度で、その新監督を見返している。
「なぜ俺が水着になれって言っているか。ちゃんとした理由があんだよ。さっきの質問の答えだよ。今から男がどういう生き物なのか、お前たちに教えてやる! こいつをよく見ておけ」
新監督は呼びつけたADを指差す。
「お前が水着になった途端、こいつがどうなるのか」
何だって?
僕は頭を抱えそうになる。最初に感じた嫌な予感が当たった気がする。
「やい、AD君、この女たちに見せつけてやれよ、お前が欲情したとき、いつも部屋でやっていることを。お前、彼女とかいるのか?」
「いないっす」
「じゃあ、あれだね、かなりあれだよな?」
「そうすっね、けっこうあれっすね」
「でも出すなよ、それはいけないぞ。わいせつ物陳列罪になる。全部そのズボンの中で済ませろ。しかしそれがお前のリアルだよな、いや、お前だけじゃない。全ての男の習性だ。見せてやれ」
「いいすか、マジで?」
「いいに決まってるだろ、監督の俺が言ってるから」
もう我慢ならない。僕は拳を握り締めた。
殴ってやる。
この代理監督の顔面を殴りつけてやるんだ。
僕は前に一歩出る。
あと五歩か六歩進めば、あの男の顎に届くだろう。
絶対に許せない。
だけどこんな男でも殴ったら、もう二度とこの業界に関われることはなくなるに違いない。きっと代理監督は黙ってないだろうから。
それどころか裁判沙汰になるのかもしれない。
この撮影も中止。この作品も制作中止だろうか。
いや、それがどうしたっていうのだ?
もう見てられない。逮捕でも何でもしてくれ。
「わかりました。まあ、いいですよ」
しかし美咲ちゃんはさっきまでの怒りに満ちた声と打って変わって、軽い感じでそんなことを言い出した。
「脱ぐのは上だけですか? 下もですか? まあ、どっちもですよね?」
「お、おう。どっちもだ」
「わかりました」
「ようやく素直になったな。でも監督が指示を出したら、モデルはすぐにそれに応えろよ、それがプロなんだ!」
「はい、申し訳ありませんでした」
美咲ちゃんは爽やかな声を上げる。
それは何だか僕の行動を制するために思えた。
僕がこの男を殴ってやると決意したその瞬間、美咲ちゃんと目が合った気がしたのだ。
美咲ちゃんは僕を制止するため、新監督の理不尽な要求を呑んで、自分の意思を曲げてくれたんじゃないのか。
いや、それは勘違いかもしれない。
しかし真実なんてどうでもいい。
僕は身動き出来なかった。
美咲ちゃんの姿が直視出来なくて目を伏せた。
本当に申し訳なくて、自分たちが情けなくて。
美咲ちゃんはさっさとその私腹を脱ぎ捨てて、サラリと水着姿になる。
脱ぎ捨てた服は衣装ではなくて私服だ。
美咲ちゃんの個性や趣味の宿った洋服。
その大切な私服を、プールサイドにパッと投げ捨てていく。
痛々しい姿だった。本当に哀しい感じがする。
その行動を前にして、当の新監督すら、たじろいでいた。
思えば、まさか自分がこの作品の監督を降板させられるなんて思ってもいなかったのだけど、今、それ以上に信じがたいことが起きている。
新監督のパワハラの標的になってはいないけど、ゆかりちゃんは自分が犠牲者であるかのように半泣きになっている。
マネージャーさんたちも「ちょっとそれは」って表情になっているのだけど、決定的な反論の言葉を思いつかないの、ただマゴマゴとしているだけ。
今、この男の暴力の前に、美咲ちゃんだけが立ち向かっている。
美咲ちゃんは毅然とした態度で、その新監督を見返している。
「なぜ俺が水着になれって言っているか。ちゃんとした理由があんだよ。さっきの質問の答えだよ。今から男がどういう生き物なのか、お前たちに教えてやる! こいつをよく見ておけ」
新監督は呼びつけたADを指差す。
「お前が水着になった途端、こいつがどうなるのか」
何だって?
僕は頭を抱えそうになる。最初に感じた嫌な予感が当たった気がする。
「やい、AD君、この女たちに見せつけてやれよ、お前が欲情したとき、いつも部屋でやっていることを。お前、彼女とかいるのか?」
「いないっす」
「じゃあ、あれだね、かなりあれだよな?」
「そうすっね、けっこうあれっすね」
「でも出すなよ、それはいけないぞ。わいせつ物陳列罪になる。全部そのズボンの中で済ませろ。しかしそれがお前のリアルだよな、いや、お前だけじゃない。全ての男の習性だ。見せてやれ」
「いいすか、マジで?」
「いいに決まってるだろ、監督の俺が言ってるから」
もう我慢ならない。僕は拳を握り締めた。
殴ってやる。
この代理監督の顔面を殴りつけてやるんだ。
僕は前に一歩出る。
あと五歩か六歩進めば、あの男の顎に届くだろう。
絶対に許せない。
だけどこんな男でも殴ったら、もう二度とこの業界に関われることはなくなるに違いない。きっと代理監督は黙ってないだろうから。
それどころか裁判沙汰になるのかもしれない。
この撮影も中止。この作品も制作中止だろうか。
いや、それがどうしたっていうのだ?
もう見てられない。逮捕でも何でもしてくれ。
「わかりました。まあ、いいですよ」
しかし美咲ちゃんはさっきまでの怒りに満ちた声と打って変わって、軽い感じでそんなことを言い出した。
「脱ぐのは上だけですか? 下もですか? まあ、どっちもですよね?」
「お、おう。どっちもだ」
「わかりました」
「ようやく素直になったな。でも監督が指示を出したら、モデルはすぐにそれに応えろよ、それがプロなんだ!」
「はい、申し訳ありませんでした」
美咲ちゃんは爽やかな声を上げる。
それは何だか僕の行動を制するために思えた。
僕がこの男を殴ってやると決意したその瞬間、美咲ちゃんと目が合った気がしたのだ。
美咲ちゃんは僕を制止するため、新監督の理不尽な要求を呑んで、自分の意思を曲げてくれたんじゃないのか。
いや、それは勘違いかもしれない。
しかし真実なんてどうでもいい。
僕は身動き出来なかった。
美咲ちゃんの姿が直視出来なくて目を伏せた。
本当に申し訳なくて、自分たちが情けなくて。
美咲ちゃんはさっさとその私腹を脱ぎ捨てて、サラリと水着姿になる。
脱ぎ捨てた服は衣装ではなくて私服だ。
美咲ちゃんの個性や趣味の宿った洋服。
その大切な私服を、プールサイドにパッと投げ捨てていく。
痛々しい姿だった。本当に哀しい感じがする。
その行動を前にして、当の新監督すら、たじろいでいた。
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