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41)教室での制服シーン
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学校のロケ、僕の企画書はこんな感じになっている。美咲ちゃんとゆかりちゃんは学校を遅刻する。さっきまで公園で遊んでいたのだからまあ、当然だろう。
二人は廊下を走っていく。教室は別々なのだから途中で別れる。階段を上がっていく美咲ちゃんと、それを見送るゆかりちゃん。
ゆかりちゃんは彼女の後ろ姿を名残惜し気に見つめる。そのシーンにポエム調のナレーションでも入れておこうか。
「先輩、ここでお別れなんですか、寂しいです。でもまた逢えますよね」
そこで一先ずストーリー仕立てのシーンは終了。そこからは別々にイメージシーン。
イメージシーンこそがメインだ。なにせイメージビデオなわけであるから。
ほとんどの作品はそれだけで出来ているし、イメージビデオのレビュアーの僕としても、それがどれだけ上手く撮影出来ているかどうかで評価している。
ストーリー部分なんてイメージシーンとイメージシーンの間をつなぐためのもの。そこに凝り過ぎてはいけない。 それはわかっているのだけど、初作品、色々と拘ってしまうもので。
遅刻したバツとして、美咲ちゃんとゆかりちゃんは校庭十周の刑を言いつけられる。校庭を走る二人。
途中でゆかりちゃんが転んで足を挫いて、保健室に連れていって。
いや、自分の企画書を丹念に読み返している余裕はない。撮影は押し迫っている。ゆかりちゃんは既に準備を済ましてスタンバイしているようだ。
僕は急いで教室に向かう。
まずはゆかりちゃんのイメージシーンを撮影だ。
イメージシーンはスト―リーシーンと違って何を撮っても問題ないというか、むしろイメージ豊かに撮影することが重要であろう。
しかし何かテーマがないとアイデアも生まれない。スタッフや彼女たちに的確な指示だって出来ない。
ただ漠然と笑顔の被写体にカメラを向けているだけなんて、そんな緩慢な絵は撮りたくない。
だからまあ、若干のストーリー性は必要なのである。
ストーリーは偉大だ。ストーリーがあれば具体的なイメージを紡ぎ出すことは出来る。
そのストーリー、テーマは既に決まっている。「退屈」だ。
授業が始まって、美咲ちゃんと離れ離れになって、彼女はその時間に退屈しているという設定。
放課後、休み時間でもいい、ゆかりちゃんまた逢えるときを待ち侘びている、そんな様子を何となく撮影するのだ。
そんな設定があればそれで充分で、どのような小道具が必要かだとか、どんな表情をして欲しいとか、それなりに的確な指示も出来るはずだ。
とはいえ、この作品の根本的なテーマはそんなことではなくて、制服姿の女子をどう撮るかってことであって。
魅力的に、扇情的に、かわいく。
それさえクリアー出来るのであれば、ありとあらゆることは些細なことで、しかしそれが簡単にクリアー出来ないから小細工を弄する必要があるわけで。
というわけで僕は精一杯の工夫をする。そういうささやかな努力によってしか作品のクオリティーの向上はない。
さて、教室に足を踏み入れる。何十年振りだろうか、本物の教室なんてものに侵入するのは。
まさか、このような仕事のために、ここに帰ってくることになるとは。
いわばこれは凱旋。
机と椅子、教卓、黒板がある。懐かしいアイテムだ。
それよりも目に付くのは、デカいカメラを持ったカメラマンに、照明器具を神経質な表情で眺めている照明さんとかのスタッフ。
だからここは教室っていうより撮影スタジオって感じなわけであるが。
そしてゆかりちゃんの姿が見える。
ここは彼女のソロシーン。僕たちは全力を尽くして、ゆかりちゃんを可愛く撮影する義務がある。
しかし、ゆかりちゃんの表情はひどくナーバスだった。何かミスして、大人にこっぴどく叱られた子供のように力なく、狼狽え気味。
この作品の撮影が始まった頃、それはもうゆかりちゃんはナーバスだった。初めての撮影を体験するという緊張のせいだ。
次のシーンでその緊張はすっかり解消されたようだったのに、今の彼女はあのときよりも溌溂さを欠いている。
せっかく仲良くなりかけた美咲ちゃんとの間に隙間風が吹いてからだろう。それと共に、この撮影へのモチベーションを失いかけているようだった。
僕は何か声をかける必要があるだろう。
こういうとき、気の利いた言葉を掛けられる大人が素敵な男というものに違いない。
「大丈夫さ、何も心配いらないぜ、君はここまで上手くやってきた。これからもこの調子で突き進めばいいんだよ」
そう言って優しく肩を抱いて、頭をポンポンと撫でてやるんだ。
え? もしかしてそれでイチコロなのではないのか、女子なんて。
そうなのだ、これはゆかりちゃんのハートを掴むチャンスなんだ。
いつだって俺は君の味方だよとウインクすれば、もうそれだけで余裕で、彼女は感激して、僕の虜になるに違いないのだ。
別にこの作品が失敗してもいい。彼女と仲良く出来れば、それはもう凄い成果で。
実際そっちのほうが素晴らしいことではないか。
連絡先を交換して、「おはよう、おやすみ」を言い合う仲になって、やがては水族館デート、ホテルで密会・・・。
いや、そんな勘違いの妄想に逃げるのは止めよう。
この作品を成功させる。それしか僕が幸福になる道はない。
あるわけがない。それを達成してこそ、ゆかりちゃんや美咲ちゃんと仲良くなれるという副産物を得ることもあり得るわけであって。
だからこそ、ゆかりちゃんに声を掛けておくべきなんだ、この作品を成功させるために。
しかし、僕がまごまごしている間に、撮影はスタートしていた。
ゆかりちゃんはナーバスな表情のまま、カメラの前に立ってしまっている。
二人は廊下を走っていく。教室は別々なのだから途中で別れる。階段を上がっていく美咲ちゃんと、それを見送るゆかりちゃん。
ゆかりちゃんは彼女の後ろ姿を名残惜し気に見つめる。そのシーンにポエム調のナレーションでも入れておこうか。
「先輩、ここでお別れなんですか、寂しいです。でもまた逢えますよね」
そこで一先ずストーリー仕立てのシーンは終了。そこからは別々にイメージシーン。
イメージシーンこそがメインだ。なにせイメージビデオなわけであるから。
ほとんどの作品はそれだけで出来ているし、イメージビデオのレビュアーの僕としても、それがどれだけ上手く撮影出来ているかどうかで評価している。
ストーリー部分なんてイメージシーンとイメージシーンの間をつなぐためのもの。そこに凝り過ぎてはいけない。 それはわかっているのだけど、初作品、色々と拘ってしまうもので。
遅刻したバツとして、美咲ちゃんとゆかりちゃんは校庭十周の刑を言いつけられる。校庭を走る二人。
途中でゆかりちゃんが転んで足を挫いて、保健室に連れていって。
いや、自分の企画書を丹念に読み返している余裕はない。撮影は押し迫っている。ゆかりちゃんは既に準備を済ましてスタンバイしているようだ。
僕は急いで教室に向かう。
まずはゆかりちゃんのイメージシーンを撮影だ。
イメージシーンはスト―リーシーンと違って何を撮っても問題ないというか、むしろイメージ豊かに撮影することが重要であろう。
しかし何かテーマがないとアイデアも生まれない。スタッフや彼女たちに的確な指示だって出来ない。
ただ漠然と笑顔の被写体にカメラを向けているだけなんて、そんな緩慢な絵は撮りたくない。
だからまあ、若干のストーリー性は必要なのである。
ストーリーは偉大だ。ストーリーがあれば具体的なイメージを紡ぎ出すことは出来る。
そのストーリー、テーマは既に決まっている。「退屈」だ。
授業が始まって、美咲ちゃんと離れ離れになって、彼女はその時間に退屈しているという設定。
放課後、休み時間でもいい、ゆかりちゃんまた逢えるときを待ち侘びている、そんな様子を何となく撮影するのだ。
そんな設定があればそれで充分で、どのような小道具が必要かだとか、どんな表情をして欲しいとか、それなりに的確な指示も出来るはずだ。
とはいえ、この作品の根本的なテーマはそんなことではなくて、制服姿の女子をどう撮るかってことであって。
魅力的に、扇情的に、かわいく。
それさえクリアー出来るのであれば、ありとあらゆることは些細なことで、しかしそれが簡単にクリアー出来ないから小細工を弄する必要があるわけで。
というわけで僕は精一杯の工夫をする。そういうささやかな努力によってしか作品のクオリティーの向上はない。
さて、教室に足を踏み入れる。何十年振りだろうか、本物の教室なんてものに侵入するのは。
まさか、このような仕事のために、ここに帰ってくることになるとは。
いわばこれは凱旋。
机と椅子、教卓、黒板がある。懐かしいアイテムだ。
それよりも目に付くのは、デカいカメラを持ったカメラマンに、照明器具を神経質な表情で眺めている照明さんとかのスタッフ。
だからここは教室っていうより撮影スタジオって感じなわけであるが。
そしてゆかりちゃんの姿が見える。
ここは彼女のソロシーン。僕たちは全力を尽くして、ゆかりちゃんを可愛く撮影する義務がある。
しかし、ゆかりちゃんの表情はひどくナーバスだった。何かミスして、大人にこっぴどく叱られた子供のように力なく、狼狽え気味。
この作品の撮影が始まった頃、それはもうゆかりちゃんはナーバスだった。初めての撮影を体験するという緊張のせいだ。
次のシーンでその緊張はすっかり解消されたようだったのに、今の彼女はあのときよりも溌溂さを欠いている。
せっかく仲良くなりかけた美咲ちゃんとの間に隙間風が吹いてからだろう。それと共に、この撮影へのモチベーションを失いかけているようだった。
僕は何か声をかける必要があるだろう。
こういうとき、気の利いた言葉を掛けられる大人が素敵な男というものに違いない。
「大丈夫さ、何も心配いらないぜ、君はここまで上手くやってきた。これからもこの調子で突き進めばいいんだよ」
そう言って優しく肩を抱いて、頭をポンポンと撫でてやるんだ。
え? もしかしてそれでイチコロなのではないのか、女子なんて。
そうなのだ、これはゆかりちゃんのハートを掴むチャンスなんだ。
いつだって俺は君の味方だよとウインクすれば、もうそれだけで余裕で、彼女は感激して、僕の虜になるに違いないのだ。
別にこの作品が失敗してもいい。彼女と仲良く出来れば、それはもう凄い成果で。
実際そっちのほうが素晴らしいことではないか。
連絡先を交換して、「おはよう、おやすみ」を言い合う仲になって、やがては水族館デート、ホテルで密会・・・。
いや、そんな勘違いの妄想に逃げるのは止めよう。
この作品を成功させる。それしか僕が幸福になる道はない。
あるわけがない。それを達成してこそ、ゆかりちゃんや美咲ちゃんと仲良くなれるという副産物を得ることもあり得るわけであって。
だからこそ、ゆかりちゃんに声を掛けておくべきなんだ、この作品を成功させるために。
しかし、僕がまごまごしている間に、撮影はスタートしていた。
ゆかりちゃんはナーバスな表情のまま、カメラの前に立ってしまっている。
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