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7章 魔導学園 1年生編

74話 ひらく

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「それ以上は死んでしまうここまでだよ」



 突然現れたそいつは俺の腕を掴み取りそのまま手のひらが上を向くように持ってかれ、そのせいで俺が放ったスキルは上空へ消えてしまう。



「公爵様が代わりに相手してくれるのか?」



「君と戦うにはここじゃ狭すぎる、また今度やろう」



 この惨状を見てこの笑顔の対応……



 それに、さっきまであの観戦スペースにいた筈なのにいつのまに俺に気づかれず近づいたのかとか、色々探りたいことはあるがここは一旦引くか。

 どうせまたやれる機会はいくらでもあるし、楽しみは成る可く取っておきたい。

 今回でこのクラスに俺と対等にやり合えるのはこいつだけだと分かったし、まだ他のクラスも味見していない……



「そうだな、今回はここらで止めておく」



 俺は両手を上げこれ以上何もしないことを意思表示し、そのままこの場所から立ち去ろうとした時。



「君、名前は?」



「クロムだ」



 俺は即座に答える。俺が答えないとこいつは返してくれないだろうからな。



「僕は、ハヤト・ゾルディ。いい友達になれそうだね」



 何も言わずにそのまま闘技場から出て行く。



 友達ねぇ面白い……俺は闘技場を出てから笑いが止まらない。変なツボに入ったみたいだ。

 あんなことをクラスメイトに……した奴に友達だなんて……馬鹿げてやがる。



 やっとの事で笑いが収まり、俺はそのまま医療棟へ向かう。さっき掴まれた時に腕の骨を何本かいかれちまったからだ。

 不意を突かれた挙句、腕を掴まれたのはいつぶりだろうか……



 俺は懐かしい記憶を辿りながら医療棟までの道のりを割と上機嫌に歩く。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「速いな……」



 あまり人を褒めないリゼちゃんが珍しく感嘆を漏らしている。

確かに速い、あの距離を一瞬で詰めやがった。

ま、もうあいつに任せておけば問題ないだろうな。



 そこからそいつは他の教師を応援に呼び、医療棟の方へも連絡をし、そこから1人々に応急処置を施していく。



 どんだけいい子ちゃんだよ!



 俺は思わず心の声が漏れそうになる。



 普通、まだ会って間もない奴らにあそこまでするかね……



 するとリゼちゃんが立ち上がる。



「行くぞアギト、ヴェルダ」



「はい」



「ああ……てかリゼちゃん面白いもんてこんだけかよ!」



「別に俺は面白いものなんて言っていない」



「お強い方が2人も……これは過去最高ではないですの?」



「そうだな予想以上だった」



 過去といってもまだ事例が去年だけだからそれを指標に使うのはどうかとも思うが……



 お強い方か……レベルが俺たち並みとほぼイコールのことを指すのだが、去年は1人だけいたが蓋を開けたら能力はあるが実戦に弱いタイプで使い物にならなかった。今年はその辺りも強いといいが……



「戻るぞ」



 そのまま俺たちは闘技場を後にする。



 途中第一闘技場から人がわらわらと出てきていたので何かあったのかと思い闘技場の使用予定の記憶を探ってみたが今日は特に使用する予定なかった筈……俺の見間違いか。

 ま、ともかくこれからめんどくせぇが忙しくなる。



「他の1年見なくてもいいのか?」



「おいおいやっていくつもりだ心配するな」

ーーーーーーーーーーーーーーー





 さてと、そろそろ行きますかな。



 バルトの試合が終わり、会場が慌ただしくきたので俺はそそくさと退散すべく第一闘技場を後にしていた。

 バルトの見舞いは明日でもいいだろう。今日はどうせ意識は戻らなさそうだし。



 途中ユイやエーフ、トルス、シロネ達に声をかけたが瓦礫撤去の手伝いをするらしくまだ 残ると言われたので俺は1人寂しく、図書館へ向かっていた。



「うわっ!」



 第一闘技場を出て目の前にある道に出るとちょうど出くわした人にぶつかりそうになる。



 完全にぶつかるかと思っていたがその相手はまるで分かっていたかのように高く跳躍しながら身を翻し避ける。そいつは青黒色の髪色でベリーショート、鋭い目つき背丈は俺とほぼ変わらない、細身だが鞭のようなしなりを効かせた筋肉を持ち合わせていて、制服のボタンを全開にしどこか暗い雰囲気だが奥底から感じるこの違和感は何だろうか。



「っ!あっぶねーな」



 そいつは華麗に着地し、その時なぜか腕を庇っておりその一連の動作に若干の迷いが入り混じっていた。



「気をつけろよ」



 そう吐き捨て医療棟の方へ向かって走り去って行った。



 何だったんだろうか……結局相手の名前も分からずじまいで謝るに謝れないなぁー



 ま、次に会った時にでも言っておくとするかな……恐らくこれ以降思い出すことはないだろう誓いを胸に再び図書館へ向け足を進める。



 あの鬱蒼と茂る草木を掻き分け相変わらずな外観の図書館へ到着する。変わっていると言えば重力に耐えられなくなった根っこが若干下に下がっているくらいだ。



 学生証を翳し中へ入る。



 前回来た時と全く変わりはない内観を余所目に俺は借りていた本を返す。今回図書館に来た目的は何冊か読み終えた本を返すことともう1つ、今日は時間があるのでじっくり図書館を物色したいと思っている。



 若干薄暗い内観は不気味さを際立たせて何か出るんじゃないかと思わせるほどに……お化け屋敷に本当にマッチしている。

 俺は薄気味悪さを押し殺しながら本を隅から順に探し始める。



 この不気味さから本に埃でも被ってると思っていたがそこは綺麗に掃除されていて中にあるトイレもかなり綺麗になっている。



 その辺りが不気味さをさらに際立たせているから逆にたちが悪い。



 そして、俺は目の目の前にある本棚に入っている『誰でもらくらく魔法習得するのさね』というよく分からないが面白そうな本を手に取ろうと本のブックカバーに手を掛けようとした瞬間。



「うわっ!!」



 ガコンッ



 と機械音のような重低音が響き、急に本棚が前に移動し中央から綺麗に左右にスライドし扉のように開く。

 そして、本棚の向こう側から出て来た少女に俺は開いた口が塞がらなくなる。

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