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59.スィスルはお見通し
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スィスルが学校に入学する前日。俺はスィスルと一緒に俺の屋敷のリビングで寛いでいる。俺とスィスルは椅子に座っており、目の前のテーブルにはコーヒーが置かれている。アミスが持って来てくれた物だ。
「ところで兄様。もうアミスとはそういう関係になったのですか?」
「どういう関係?」
「男女の関係です」
スィスルの突然の質問にコーヒーを吹き出しそうになる。
「いやいや、なってないよ!?」
「どうしてですか?アミスなら喜ぶと思いますけど」
「それでもだ。アミスはうちで働いてくれている大切な使用人だ。簡単に手なんて出さないよ」
「そうなんですか」
アミスの事は好きだけど、伯爵という権利を使って無理強いをしたくはない。でもいつか告白はしたいな。
と言うか、スィスルはアミスが俺に抱いている気持ちを知っているのか?ここにはアミスもいないし聞いてみるか。
「スィスルはアミスの気持ちを知っているのか?その…俺に対しての」
自分で言うと、何だか恥ずかしい。自意識過剰に思われないだろうか。
「知っています。アミスはずっと兄様の事を好いています。使用人という立場から告白は出来なさそうですけど…でも同じ女性として応援したくなります」
「そうだったのか」
「私だけじゃなくて、父様や母様、オスエ兄様もアミスの気持ちは知ってると思いますよ?」
「そうなのか!?」
それは本当に驚いてしまう。
「はい。結構、分かりやすいので。皆、アミスの事を応援してるんですよ。せめて告白はできたら良いなと。兄様も伯爵の息子ではなく、伯爵当主になられて、立場的にますます難しくなったかもしれないですけど」
「そうだな」
伯爵と使用人だからな。普通に考えたら無理だろう。でも俺から告白すれば問題ないだろう。対外的には問題かもしれないけど、俺は名誉貴族のようなものだからな。ちゃんとした貴族ではないと思っている。
「それにしても、そうか…全員知っているのか。アミスは気づかれている事は知っているのか?」
「たぶん知らない筈です。私達も声を大にして応援しているわけではないですから」
応援しにくいし、雇い主の家族に応援されたらプレッシャーになるよな。
「兄様もアミスの事が好きですよね?」
「ん?どうしてそう思うんだい?」
「なんとなくですけど…皆も気づいていると思いますよ?」
「アミスも?」
「いえ、アミスは自分が使用人だから恋愛対象になる事はないと思っています」
「そうか」
複雑な関係だなぁ。アミスから俺に告白する事がないのなら、俺から告白すれば良い。でもまだそれは先になるかな。
「まあ気長に見守ってくれ」
「はい」
「スィスルも学校に通い出せば好きな子ができるんじゃないか?」
「え!?私は多分…ないですよ」
「どうしてだ?」
「だって私が好きな人は…ラソマ兄様ですから」
スィスルが顔を赤くして言ってくる。
「ハハハ、それは嬉しいな。でも俺が言ってるのは恋愛感情の好きであって、家族愛じゃないからな?でも家族愛で言えば俺もスィスルが好きだぞ」
「あ、ありがとうございます…」
スィスルが照れながら言ってるな。可愛い反応だ。こういう妹なら前世でも欲しかったな。
それにしてもスィスルも学校か。俺はこの世界では学校に行かなかった。行く必要が無かったからだ。でも勉強だけではなく、友達ができたり、恋愛をしたりと楽しい事が沢山ある。スィスルはそれらを体験できる。それが少し羨ましくもある。まあ、学校に行く事はできたのに、行かなかったのは俺だからな。冒険者になる事を優先したから。
「スィスル、存分に楽しんでくるんだぞ?でも困った事があったらすぐに言うんだよ。絶対に何とかするから」
「はい!ありがとうございます!楽しんできます!」
笑顔で言うスィスルの言葉に俺は満足した。
そして翌朝。
「それでは行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけるんだよ?」
「はい!」
スィスルは学校に登校して行った。ここは貴族街だから、馬車が出ている。その馬車に乗って行った。本当なら瞬間移動で送っても良かったんだけど、瞬間移動で登校なんて目立ち過ぎる。最初から目立って変に注目されるわけにはいかないからな。
「…心配だな。大丈夫だろうか」
昼過ぎ、俺はリビングで呟く。スィスルは性格的にも周囲に馴染める筈だ。でもやっぱり心配だ。前世では生徒からの虐めであったり、教師も何かしらの悪さをしていた事件があった。この世界での学校の状況を知らないから、無事平穏に学生生活を送れるのかが分からない。
「ラソマ様、何か心配事ですか?」
リビングに入ってきたアミスが聞いてくる。
「ああ、スィスルの事がね。学校で虐めなんか受けていないかと心配で。そういえばアミスはメイドを育てる学校に通っていたんだよね?どうだった?」
「虐めなどの問題はなかったです。差別もないですし。嫉妬はありましたけど」
「嫉妬?」
「はい。私の成績が良かったので、同学年や先輩から嫉妬されていました。隠さず、堂々と妬みの言葉をかけてきましたね」
「そんな言葉をかけられて、アミスは大丈夫だったの?」
「実際、成績が良かったので、嫉妬されても仕方がないと思っていました。楽しく学校生活を送りたかったので、そこは寂しかったですけど」
「そうなんだ。大変だったんだね」
そう言って俺はアミスに近寄り、頭を撫でる。
「ラ、ラソマ様?!」
「それだけ優秀な成績を残せたから、アミスは父様に仕える事になり、今は俺の元で働いてくれている。だから俺は嬉しいよ。その時にアミスが学校を嫌になって辞めないでくれて」
「ラソマ様…」
「でも、その話を聞くと、ますますスィスルが心配だな。嫉妬されるかもしれない」
「そうですね。ですが、そこまで心配は要らないと思います」
「どうして?」
「スィスル様はレミラレス伯爵家の長女であり、魔王を倒した英雄ラソマ伯爵の妹なのですから。そのような方に害を加えようとする人はいないと思います。嫉妬もするでしょうけど、スィスル様に気づかれないようにする筈です」
「そうだね。そうなると良いな」
と言うより、その為に俺は冒険者として確立した地位、Sランクになろうとしていたからな。スィスルが学校に入る時、レミラレス伯爵家の長女という肩書きだけでなく、王都にいる高ランク冒険者の妹だという肩書きもあればなお良いと思ったんだ。特にSランクっていうのは王家も大事にしてくれるからな。まあ今となっては俺は、ただのSランク冒険者ではなく、魔王を倒した英雄なんて肩書きも持ってしまったわけだけど。
「心配し過ぎるのも良くないか。本当に困った事があればスィスルから連絡が来るだろうし」
「はい」
あまり気にし過ぎても駄目か。スィスルの器量なら上手く立ち回れるかもしれない、と言うのは兄馬鹿だろうか。
その日の夕方。スィスルが学校から帰ってきた。普通なら寮に帰るんだけど、引越しの荷物を俺が持っているから、今からそれを持っていく事になっている。
「ただいま帰りました!」
「お帰り、スィスル。学校はどうだった?」
「まだ初日ですけど、友達ができました」
「それは良かった。その調子で友達を増やしていくんだよ?」
「はい!」
その後、俺とスィスルは馬車で学校に行った。俺が荷物を運ぶというのは学校側にも説明しているので、無事に中に入る事ができた。
「え?もしかしてラソマ伯爵!?」
「キャーッ!英雄ラソマ様!」
「どうしよう!私、こんな服装で!?」
女子寮に入った瞬間、俺はそんな声をかけられる。知られてるんだなぁ。
「兄様、大人気です!」
「まあ…うん、そうだね」
少し恥ずかしい。俺は素早くスィスルと共に、スィスルが生活する予定の部屋に入った。この学校は豪華で、1人1部屋となっている。
「さて、荷物を出していくよ」
そう言ってスィスルの荷物を出していく。その都度、一緒に片付けた。
「兄様、その箱は開けないでください!」
「うん、分かってるよ」
焦りを含んだスィスルの言葉に苦笑いする。この箱は確か、スィスルの下着が入っている筈だ。異空間に収納する時にも、開けないでと言われたからな。兄妹なんだから意識しなくても良いのに。
そうして引っ越しは無事に終わり、俺は帰る事にした。
「兄様、もう帰ってしまうんですか?」
「うん。スィスルも夕食の時間だろう?」
「はい。でももっと兄様と一緒にいたかったです…」
「同じ王都に居るんだから、いつでも会えるよ。一緒に王都を観光するのは覚えてる?」
「はい!」
「近い内に行こうか」
「はい!それを楽しみにします!」
そう元気に言うスィスルの頭を撫でる。
「俺もその時が楽しみだよ。それじゃあね」
「はい。ありがとうございました、兄様!」
そうして俺は屋敷に、面倒だけど馬車で帰った。瞬間移動で一気に帰りたい。
それから数日後の朝、学校が休日だという事で、スィスルが俺の屋敷に来た。俺はスィスルをリビングに入れ、アミスがコーヒーを出してくれる。
「お久し振りです、兄様」
「うん、元気そうだね、スィスル。学校はどうだい?」
「はい!楽しいです!」
「そうか。不安とか、不満はあるかい?」
「特に無いです。皆、親切にしてくれます」
「それは良かった。心配は杞憂だったか」
「心配してくれていたんですか?」
「当然だろう?スィスルは俺の大切な妹だ。何かあったら嫌だからね」
「ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですよ。…あ、でも…」
「何かあるのかい?」
「同級生の女の子が、私の親衛隊を作ってしまって…5人くらいなんですけど」
そう言いながらスィスルは苦笑いする。
「スィスルを守ってくれるのか。良いじゃないか」
結界を張っているから大丈夫だけど、同級生が守ってくれようと考えてくれるのは有り難い。
「でも同級生ですし…少し私を神聖視し過ぎると言うか…」
スィスル曰く、親衛隊の子はスィスルの事を、レミラレス伯爵の長女にして、魔王を2人も倒した偉大なる英雄ラソマ伯爵の妹君だと言って、持ち上げてくるらしい。
「私は何もしていないので持ち上げられても困るんです」
「そこで調子に乗らないのがスィスルの良い所だね」
虎の威を借る狐にならなくて良かった。
「まあ、持ち上げてくるのは打算もあるんじゃないかな?その子の親の爵位は?」
「確か男爵だった筈です」
「それなら伯爵の娘を持ち上げて、少しでも実家の男爵家を印象付けたい狙いもあるんじゃないかな。だから、あまり気にしなくても良いと思うよ。本当に嫌なら俺や父様に頼めば何とかしてくれると思うし」
「はい。父様にも兄様にも迷惑をかけたくないので、気にしないようにします」
「うん、それが良いね」
スィスルは俺の言葉に納得したのか、その後は学校での生活を話してくれた。その内容は楽しそうなものばかりで、やっぱり学校に行けば良かったなと思うものばかりだった。
まあ、スィスルが楽しそうで何よりだ。
「ところで兄様。もうアミスとはそういう関係になったのですか?」
「どういう関係?」
「男女の関係です」
スィスルの突然の質問にコーヒーを吹き出しそうになる。
「いやいや、なってないよ!?」
「どうしてですか?アミスなら喜ぶと思いますけど」
「それでもだ。アミスはうちで働いてくれている大切な使用人だ。簡単に手なんて出さないよ」
「そうなんですか」
アミスの事は好きだけど、伯爵という権利を使って無理強いをしたくはない。でもいつか告白はしたいな。
と言うか、スィスルはアミスが俺に抱いている気持ちを知っているのか?ここにはアミスもいないし聞いてみるか。
「スィスルはアミスの気持ちを知っているのか?その…俺に対しての」
自分で言うと、何だか恥ずかしい。自意識過剰に思われないだろうか。
「知っています。アミスはずっと兄様の事を好いています。使用人という立場から告白は出来なさそうですけど…でも同じ女性として応援したくなります」
「そうだったのか」
「私だけじゃなくて、父様や母様、オスエ兄様もアミスの気持ちは知ってると思いますよ?」
「そうなのか!?」
それは本当に驚いてしまう。
「はい。結構、分かりやすいので。皆、アミスの事を応援してるんですよ。せめて告白はできたら良いなと。兄様も伯爵の息子ではなく、伯爵当主になられて、立場的にますます難しくなったかもしれないですけど」
「そうだな」
伯爵と使用人だからな。普通に考えたら無理だろう。でも俺から告白すれば問題ないだろう。対外的には問題かもしれないけど、俺は名誉貴族のようなものだからな。ちゃんとした貴族ではないと思っている。
「それにしても、そうか…全員知っているのか。アミスは気づかれている事は知っているのか?」
「たぶん知らない筈です。私達も声を大にして応援しているわけではないですから」
応援しにくいし、雇い主の家族に応援されたらプレッシャーになるよな。
「兄様もアミスの事が好きですよね?」
「ん?どうしてそう思うんだい?」
「なんとなくですけど…皆も気づいていると思いますよ?」
「アミスも?」
「いえ、アミスは自分が使用人だから恋愛対象になる事はないと思っています」
「そうか」
複雑な関係だなぁ。アミスから俺に告白する事がないのなら、俺から告白すれば良い。でもまだそれは先になるかな。
「まあ気長に見守ってくれ」
「はい」
「スィスルも学校に通い出せば好きな子ができるんじゃないか?」
「え!?私は多分…ないですよ」
「どうしてだ?」
「だって私が好きな人は…ラソマ兄様ですから」
スィスルが顔を赤くして言ってくる。
「ハハハ、それは嬉しいな。でも俺が言ってるのは恋愛感情の好きであって、家族愛じゃないからな?でも家族愛で言えば俺もスィスルが好きだぞ」
「あ、ありがとうございます…」
スィスルが照れながら言ってるな。可愛い反応だ。こういう妹なら前世でも欲しかったな。
それにしてもスィスルも学校か。俺はこの世界では学校に行かなかった。行く必要が無かったからだ。でも勉強だけではなく、友達ができたり、恋愛をしたりと楽しい事が沢山ある。スィスルはそれらを体験できる。それが少し羨ましくもある。まあ、学校に行く事はできたのに、行かなかったのは俺だからな。冒険者になる事を優先したから。
「スィスル、存分に楽しんでくるんだぞ?でも困った事があったらすぐに言うんだよ。絶対に何とかするから」
「はい!ありがとうございます!楽しんできます!」
笑顔で言うスィスルの言葉に俺は満足した。
そして翌朝。
「それでは行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけるんだよ?」
「はい!」
スィスルは学校に登校して行った。ここは貴族街だから、馬車が出ている。その馬車に乗って行った。本当なら瞬間移動で送っても良かったんだけど、瞬間移動で登校なんて目立ち過ぎる。最初から目立って変に注目されるわけにはいかないからな。
「…心配だな。大丈夫だろうか」
昼過ぎ、俺はリビングで呟く。スィスルは性格的にも周囲に馴染める筈だ。でもやっぱり心配だ。前世では生徒からの虐めであったり、教師も何かしらの悪さをしていた事件があった。この世界での学校の状況を知らないから、無事平穏に学生生活を送れるのかが分からない。
「ラソマ様、何か心配事ですか?」
リビングに入ってきたアミスが聞いてくる。
「ああ、スィスルの事がね。学校で虐めなんか受けていないかと心配で。そういえばアミスはメイドを育てる学校に通っていたんだよね?どうだった?」
「虐めなどの問題はなかったです。差別もないですし。嫉妬はありましたけど」
「嫉妬?」
「はい。私の成績が良かったので、同学年や先輩から嫉妬されていました。隠さず、堂々と妬みの言葉をかけてきましたね」
「そんな言葉をかけられて、アミスは大丈夫だったの?」
「実際、成績が良かったので、嫉妬されても仕方がないと思っていました。楽しく学校生活を送りたかったので、そこは寂しかったですけど」
「そうなんだ。大変だったんだね」
そう言って俺はアミスに近寄り、頭を撫でる。
「ラ、ラソマ様?!」
「それだけ優秀な成績を残せたから、アミスは父様に仕える事になり、今は俺の元で働いてくれている。だから俺は嬉しいよ。その時にアミスが学校を嫌になって辞めないでくれて」
「ラソマ様…」
「でも、その話を聞くと、ますますスィスルが心配だな。嫉妬されるかもしれない」
「そうですね。ですが、そこまで心配は要らないと思います」
「どうして?」
「スィスル様はレミラレス伯爵家の長女であり、魔王を倒した英雄ラソマ伯爵の妹なのですから。そのような方に害を加えようとする人はいないと思います。嫉妬もするでしょうけど、スィスル様に気づかれないようにする筈です」
「そうだね。そうなると良いな」
と言うより、その為に俺は冒険者として確立した地位、Sランクになろうとしていたからな。スィスルが学校に入る時、レミラレス伯爵家の長女という肩書きだけでなく、王都にいる高ランク冒険者の妹だという肩書きもあればなお良いと思ったんだ。特にSランクっていうのは王家も大事にしてくれるからな。まあ今となっては俺は、ただのSランク冒険者ではなく、魔王を倒した英雄なんて肩書きも持ってしまったわけだけど。
「心配し過ぎるのも良くないか。本当に困った事があればスィスルから連絡が来るだろうし」
「はい」
あまり気にし過ぎても駄目か。スィスルの器量なら上手く立ち回れるかもしれない、と言うのは兄馬鹿だろうか。
その日の夕方。スィスルが学校から帰ってきた。普通なら寮に帰るんだけど、引越しの荷物を俺が持っているから、今からそれを持っていく事になっている。
「ただいま帰りました!」
「お帰り、スィスル。学校はどうだった?」
「まだ初日ですけど、友達ができました」
「それは良かった。その調子で友達を増やしていくんだよ?」
「はい!」
その後、俺とスィスルは馬車で学校に行った。俺が荷物を運ぶというのは学校側にも説明しているので、無事に中に入る事ができた。
「え?もしかしてラソマ伯爵!?」
「キャーッ!英雄ラソマ様!」
「どうしよう!私、こんな服装で!?」
女子寮に入った瞬間、俺はそんな声をかけられる。知られてるんだなぁ。
「兄様、大人気です!」
「まあ…うん、そうだね」
少し恥ずかしい。俺は素早くスィスルと共に、スィスルが生活する予定の部屋に入った。この学校は豪華で、1人1部屋となっている。
「さて、荷物を出していくよ」
そう言ってスィスルの荷物を出していく。その都度、一緒に片付けた。
「兄様、その箱は開けないでください!」
「うん、分かってるよ」
焦りを含んだスィスルの言葉に苦笑いする。この箱は確か、スィスルの下着が入っている筈だ。異空間に収納する時にも、開けないでと言われたからな。兄妹なんだから意識しなくても良いのに。
そうして引っ越しは無事に終わり、俺は帰る事にした。
「兄様、もう帰ってしまうんですか?」
「うん。スィスルも夕食の時間だろう?」
「はい。でももっと兄様と一緒にいたかったです…」
「同じ王都に居るんだから、いつでも会えるよ。一緒に王都を観光するのは覚えてる?」
「はい!」
「近い内に行こうか」
「はい!それを楽しみにします!」
そう元気に言うスィスルの頭を撫でる。
「俺もその時が楽しみだよ。それじゃあね」
「はい。ありがとうございました、兄様!」
そうして俺は屋敷に、面倒だけど馬車で帰った。瞬間移動で一気に帰りたい。
それから数日後の朝、学校が休日だという事で、スィスルが俺の屋敷に来た。俺はスィスルをリビングに入れ、アミスがコーヒーを出してくれる。
「お久し振りです、兄様」
「うん、元気そうだね、スィスル。学校はどうだい?」
「はい!楽しいです!」
「そうか。不安とか、不満はあるかい?」
「特に無いです。皆、親切にしてくれます」
「それは良かった。心配は杞憂だったか」
「心配してくれていたんですか?」
「当然だろう?スィスルは俺の大切な妹だ。何かあったら嫌だからね」
「ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですよ。…あ、でも…」
「何かあるのかい?」
「同級生の女の子が、私の親衛隊を作ってしまって…5人くらいなんですけど」
そう言いながらスィスルは苦笑いする。
「スィスルを守ってくれるのか。良いじゃないか」
結界を張っているから大丈夫だけど、同級生が守ってくれようと考えてくれるのは有り難い。
「でも同級生ですし…少し私を神聖視し過ぎると言うか…」
スィスル曰く、親衛隊の子はスィスルの事を、レミラレス伯爵の長女にして、魔王を2人も倒した偉大なる英雄ラソマ伯爵の妹君だと言って、持ち上げてくるらしい。
「私は何もしていないので持ち上げられても困るんです」
「そこで調子に乗らないのがスィスルの良い所だね」
虎の威を借る狐にならなくて良かった。
「まあ、持ち上げてくるのは打算もあるんじゃないかな?その子の親の爵位は?」
「確か男爵だった筈です」
「それなら伯爵の娘を持ち上げて、少しでも実家の男爵家を印象付けたい狙いもあるんじゃないかな。だから、あまり気にしなくても良いと思うよ。本当に嫌なら俺や父様に頼めば何とかしてくれると思うし」
「はい。父様にも兄様にも迷惑をかけたくないので、気にしないようにします」
「うん、それが良いね」
スィスルは俺の言葉に納得したのか、その後は学校での生活を話してくれた。その内容は楽しそうなものばかりで、やっぱり学校に行けば良かったなと思うものばかりだった。
まあ、スィスルが楽しそうで何よりだ。
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