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55.レイラの事情

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 ある日の朝、レイラが俺の屋敷を訪れた。

「どうしたんだ?ここに来るなんて初めてだな」
「そうね。実は話を聞いて欲しくて」
「分かった。ここじゃなんだから、中に入ってくれ」
「ありがとう」

 俺はレイラを連れて応接室に向かう。アミスが紅茶を入れてくれて、すぐに部屋を出て行った。

「それで話っていうのは?」
「例の件なんだけど…この前の魔王との闘いの時の…」

 あぁ、レイラが勇者かもしれない話か。

「失礼かもしれないけど、どこか話が漏れない場所はないかしら?ラソマの家の使用人を信用していないわけじゃないんだけど…」
「そうだな。あまり誰かに聞かれたくはないよな。少し待ってくれ」

 俺はアミスを呼ぶ。

「どうしたんですか?」
「これから俺とレイラで異空間に行く。物騒な事じゃないから安心して待っていてほしい」
「っ!…分かりました。ラソマ様も男性ですし、レイラさんもお綺麗ですもんね。ラソマ様、優しくしてあげてくださいね?レイラさんが初めてであれば特に気を遣ってあげてください」
「いや、何の話?」
「ラソマ様の事情に首を突っ込むわけではありませんがアドバイスとして…まだ子供をつくるのは早いと思うので、避妊はしっかりしておくべきだと考えます。ラソマ様は伯爵当主なんですから」
「いやいや、勘違いだよ?!そういう話じゃないから!」
「分かっています。私は知らない、聞いていない。安心してください。それでは失礼します」

 そう言ってアミスは部屋を出て行った。最後、悲しそうな顔をしていたな。俺を好いてくれているから、その俺が他の異性と一緒に行動する事がショックだったんだろうか。
 というか、避妊って!レイラとは何もしないよ!帰ってから誤解を解かないとな。

「さて、レイラ、行こうか」
「どこに?!っていうかラソマ、私に何をしようとしてるの?!」
「いや、何もしないよ?」
「でも今の人の言い方…まるで私がラソマに抱かれるみたいな………」

 そう言ったレイラの顔が赤くなっていく。いや、そんな意識されても困るんだけど。

「レイラ、とにかく落ち着いて」
「落ち着けないわよ!私、初めてなのよ!?」
「いやいや、聞いてないから!初めてとか関係ないから!」
「関係ないって…女の子には大切な事なのよ!?初めてが、それをどうとも思っていない男とだなんて絶対に嫌よ!」
「どうとも思っていないわけじゃないよ。特別なんだよね。でも今、その話は置いておこう。まずはレイラ、きみがここに何をしに来たのか思い出してくれ」
「私?私はラソマに話したい事があって………告白じゃないわよ?」
「うん、そうだろうね」

 あれ?レイラってこんな人だったっけ?いや、レイラがどういう人か知るほどに付き合った事はなかったか。

「とにかく落ち着いて」
「そうね…ふぅ…話したい事っていうのは、魔王との闘いの時なんだけど」
「ああ、やっと本題に戻ってこれたね。それじゃあ場所を変えようか。そうしないと安心して話せないだろ?」
「ええ。でも異空間、ってどこ?」
「俺のスキルだ。実際に行った方が早い。異空間に瞬間移動するぞ」

 瞬間移動する際、同行者がいる時は先に伝えておく。
 瞬間移動した場所は俺がスキルで作り出した異空間。空は晴れており、草原が広がっている。近くには湖もあり、遠くには山も見える。この空間に生物はいないから、空気が綺麗だ。落ち着きたい時はここに来るようにしている。

「ここは…どこ?」

 周りを見ながらレイラが聞いてくる。

「さっきも言った通り、異空間だ。ここには今、俺とレイラ以外、誰もいないから内緒話をするにはもってこいだろ」
「ラソマ、どういうスキルなの?」
「大魔法みたいなものだと思ってくれたら良い。詳しく知りたいわけじゃないだろ?」
「そうね。他人のスキルを詳しく知りたい趣味は無いわ。確かに誰の気配もないし、遠くまでは分からないけど、近くだけで言えば私達以外に人はいないわね」

 生物の気配が分かるのか。

「まあ、座るか」

 そう言って別の異空間から椅子を2脚取り出し、座る。レイラは驚いたけど、俺の横(3人分くらい離れている)に座った。

「それじゃあ話すわね。実は私…勇者なの」
「やっぱりそうか。魔王の言った通りだったんだな」
「ええ」
「異国の勇者か?」
「そうなるわね」
「どうしてこの国に来て、住んでいるんだ?勇者なら好待遇だろ?」
「それが苦痛だったの。確かに好待遇だったわ。城に住めたし、使えるお金も制限が無かった。勇者になってからは生活が一変したわ。全く苦労しなくなったもの」
「それは良い事じゃないか」
「そうね。でも問題が1つあったの。私のいた国は、勇者は遺伝だと考えてるのよ。国の偉い人が言うには、私の先祖には勇者がいたみたい。公式な記録だと言われたけど、その資料を見せてもらえなかったから、真偽は分からないけどね。それで何が起きたかと言うと、私の遺伝子を求めて王家や大臣、貴族達が自分や親族、とにかく男を私に紹介してきたの」
「それは…少し嫌だな」
「少しなんてものじゃないわ!毎日毎日、男を紹介されるのよ。それも結婚はしなくても良いから、子供を作れって命令してくるし。さすがにそんな命令に答える必要を感じなかったから、応じなかったけど」

 それは嫌だな。好きな人ならともかく、勇者の遺伝子欲しさに子供を作れなんて…どんな国だよ。さすがに俺の住むこの国はそんな事してないよな?まあ、あの勇者なら喜びそうだけど。

「それが嫌になって国から逃げ出したの。国民には悪いと思うけど…」
「そうだな。勇者としての責任から逃げたんだから申し訳なく思うのは当然としても、レイラが逃げたくなる気持ちはとても分かる。俺も同じ状況なら逃げたくなる。でも、その国には今、勇者がいないのか」
「そうなるわね」
「魔王に知られたら大変だな」
「だから知られないように努力はしてる筈よ。現にラソマも知らなかったでしょ?」
「俺は他国の状況に興味がないからな」

 でも魔王がレイラの居た国に対して行動していないと言う事は、勇者がいない事が知られていないんだろう。上手く隠しているんだな。

「それにしても、今のパワーバランスは凄いな。片や魔王への対抗手段が無い国。片や魔王を倒せる者が3人もいる国」

 この国にはレイラ、俺、勇者の3人が居る。

「それは私も気にしてるの。もし魔王に知られてしまって攻撃されたらと思うと心配で…」
「やっぱり家族がいるからか?」
「え?ううん、家族はいないわ。私、孤児院で育ったから」
「そうなのか?すまない」
「気にしないで。でも孤児院の皆の事は心配ね。まあ魔王が攻めてきたっていう情報が入ったら、すぐに国に戻るつもりだけど」
「それが良いだろうな。その時は瞬間移動で送るよ」
「ありがとう」

 複雑な状況だな。

「私からの話はこれだけよ。あまり驚かなかったわね?」
「前に魔王が勇者ではないかと疑いの言葉を放っていたからな。魔王が勇者の気配を読み違えるとは思わないし」
「この話を知ってどうする?国に話す?」
「秘密にしておいた方が良いんだろう?それなら話さない。ただ…」
「ただ?」
「いや、レイラはこの国の勇者についてどう思う?」
「そうね…魔王が現れたのに出陣しない、無責任な勇者…ね。それを言ってしまえば自分の我が儘で国から逃げた私も無責任なんだけど」

 そう言ってレイラは苦笑いする。確かに状況だけ見れば、そうだよな。

「提案なんだけど、この国の勇者にならないか?」
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