上 下
9 / 75

9.プレゼント購入

しおりを挟む
 俺とアミスは装飾品店に向かった。目的は母さんとアミスへのプレゼントを買う為だ。

「ここが装飾品店です。ただ奥様が気に入られるものがあるかは…」

 そうだろうな。母さんは伯爵夫人だ。王都でもない街の装飾品店に気に入るものがあるか分からない。でも母さんはそこまで着飾る人ではない。父さんと一緒にパーティーに出かける時以外は普通の服装をしている。

「大丈夫だよ。プレゼントは価値より気持ちだから」
「そうですね。たまにラソマくんは言う事が大人ですね」
「そ、そうかな?」
「はい」

 前世は25歳だったからな。

「とにかく店の前に立っててもなんだし、中に入ろうよ」
「そうですね」
「いらっしゃいませ」

 俺たちが中に入ると、店員の女性が話しかけてきた。

「本日はどのようなものをお探しですか?」

 ちなみに店員はアミスに対して話しかけている。子供の俺が買うとは思わないからな。

「僕が買いに来たんだよ」
「…きみが?」
「うん。母さんにプレゼントをしようと思ってね」
「そうなの?」
「あれ?は、伯爵様の息子さん?!」

 店内にいた女性が俺を見て声をあげる。

「だ、誰でしょうか?」
「たぶんギルドにいた人じゃないかな。見た感じも冒険者っぽいし」

 女性は魔法使いのような服装、長いローブを着ている。俺のことを知ったのはギルドで見かけた時だろうな。

「あの…失礼ですが、伯爵様のご子息ですか?」
「はい」
「そうでしたか!大変、失礼しました!」
「そういうわけなので、母様にプレゼントを買いたいんです」
「分かりました。ただ、この店に伯爵夫人にお似合いの装飾品があると良いのですが…」
「そんなに気にしなくて良いですよ。あと、予算はこれくらいで」

 と言っても、店員は気を遣うだろうな。何せ客は俺だけど、着ける人は伯爵夫人だ。気にしない人の方が少ないだろう。でも本当に気にしなくて良いんだけどな。
 思った通り、店員は一所懸命に装飾品を選んでいる。

「すいません」
「なんでしょうか?」
「この女性にもプレゼントがしたいので、オススメの物をお願いします。予算はこれくらいで」
「え?!ラソマ様?!」

 アミスが驚きの声をあげる。ここまで来てアミスに買わないという選択肢はないよ。元々、買うつもりだったしね。

「かしこまりました」

 店員はそう言って装飾品を探しに行く。

「あの、ラソマ様?私は要らないですよ?」
「そんなわけにはいかないよ」
「ですが…」
「お金の心配はいらないよ。…実は母様がこういう時用にお金を渡してくれたんだ」
「奥様のぶんはどうされるのですか?」
「そのぶんは自分のお小遣いを持ってきたよ。今まで貯めてきたものだから足りると思う。残念なのが、アミスへのプレゼントは母様から頂いたお金だという事なんだよね。今度、僕が働いたお金でアミスにプレゼントするからね」
「ラソマ様…」

 いつか絶対に自分で稼いだお金でアミスにプレゼントをしよう。
 その後、しばらくして店員が指輪とネックレスを持ってきてくれた。

「こちらの指輪が伯爵夫人への品になります」
「指のサイズを知ってるんですか?」
「いえ、この指輪は魔法が仕掛けられていて、着ける指に合わせてサイズが変化するんです」
「へぇ、便利ですね!」

 そんな便利な物があるのか。やっぱり魔法というのは便利なものだな。俺のスキルだと使えないけど。

「こちらのネックレスがお連れの女性への品になります」

 ネックレスは誰にでもサイズが合うから大丈夫だな。

「では、それらを買います」
「ありがとうございます」

 俺は代金を支払い商品を受け取ると、アミスと共に店を出た。

「それじゃあ、これはアミスお姉ちゃんにプレゼント」
「あ、ありがとうございます♪」
「しゃがんで?」
「え?」
「着けてあげるよ」
「い、いいです、自分で着けれますから」
「僕が着けてあげたいんだ。お願い」
「…分かりました」

 嫌がってはいないから、押していく。アミスは完全に照れているな。
 俺はしゃがんだアミスの後ろにまわり、ネックレスを箱から取り出して、首にかける。その際、アミスの髪の毛を避けて着けてあげる。アミスの髪の毛からシャンプーの香りがするな…って、何を考えてるんだ。

「はい、着け終わったよ」
「ありがとうございます!」

 アミスは立ち上がりお礼を言ってくる。笑顔がとても素敵だよ、という言葉は俺の年齢だとおかしいから言わないでおこう。

「アミスお姉ちゃん、似合ってるよ」
「ありがとうございます!一生、大切にします」

 そこまで喜んでもらえたら満足だな。

「あとはブラブラして帰ろうか」
「はい!」

 その後、俺とアミスは街を見てまわり、屋敷に帰る事にした。

「さっきと同じ方法で帰るのですか?」

 アミスの問いに頷く。方法は結界で俺たちを囲い、宙に浮かして屋敷まで移動するというもの。ただし街から少し離れてから使用する。人に見られて、あれこれ詮索されるのは嫌だからだ。

「ん?あれって、もしかして魔物?」

 結界で移動している最中、前方に動物がいたのでアミスに聞く。大きさは中型犬ほどで、全身を黒く短い体毛で覆われており、両目が赤い。
 兄さんから聞いた話だと、魔物という、動物のような生物がいるらしい。魔物は一部を除いて凶暴で人を襲う。ただ一方で大人しい魔物もいるようで、ペットにしたりもできるらしい。ちなみに魔物の肉も食べれるようだ。

「そうですね、魔物です。でも、あの魔物は危険ではないので安心してください。といってもラソマ様の結界があれば、凶暴な魔物が相手でも問題はないと思いますが」
「そっか、良かった」

 たしかに結界の効果によって魔物は弾き飛ばされるはずだ。…でも弾き飛ばすのは可哀想だな。道の真ん中にいるから、道の端を行こうとしても魔物の動きを読めないから、もしかしたら当たるかもしれない。

「アミス、もう少し高く浮かぶよ」
「え?…ひあっ!」

 アミスの返事を待たずに上昇する。理由は魔物を避けるためだ。そして魔物を上空から通り過ぎた俺たちは元の高さに戻って屋敷を目指した。

「大丈夫?」
「あ…はい…大丈夫です」

 アミスの顔色が悪い。

「高いところが苦手なの?」
「そんな事はないんですけど…地面がなく宙に浮いたままで高い場所に行くのは少し怖かったです」
「そっか。ごめんね?」

 もっとマシな方法を考えたら良かった。ちなみに高さは魔物が跳躍してくる事も考えて、5メートルほど上げた。それに降りる際、エレベーターのような浮遊感があったのかもしれない。この世界にエレベーターのようなものがあるかは知らないけど、体感した事がないなら気にしてしまうかもしれない。

「いえ!ラソマ様は悪くありません!私の心が弱いのが悪いんです!」
「そんな事ないよ。さて、気を取り直して、屋敷を目指そう」
「はい!」

 謝罪の堂々巡りが始まりそうだったので、違う話に変えた。でも俺は、アミスは悪くない、全面的に俺が悪いと思っている。
 その後は魔物に遭遇する事もなく、無事に屋敷に到着した。

「ただいま帰りました」
「お帰りなさい、どうだった?」
「楽しかったです!」

 屋敷に入ると母さんがいた。どうしてバッチリのタイミングで母さんが玄関にいたんだろう。

「不思議そうね。実は窓から街の方を見ていたの。そしたらラソマが見えたのよ」
「そうだったんですか」
「でも、おかしな移動方法ね」

 あ、それも見られてるよな。

「あれは結界を使った移動方法です。馬車みたいに揺れないし、攻撃を受けても完全に防げるんです」
「凄いのね!今度からパーティーに行く時はラソマに連れて行ってもらおうかしら」
「そうですね!」

 とは言ったけど無理だろうな。あんな方法でパーティーが開催される場所に行ったら、悪目立ちしてしまう。

「そうだ、母様にプレゼントを買ってきました」
「私に?アミスには買ってあげたの?」
「はい。それと母様に、これを」

 言いながら指輪の入った箱を取り出す。母さんは箱を開けて指輪を見ると、驚いた。

「ラソマ…ありがとう。大切にするわね」

 喜んでくれて良かった。
 母さんは自分の指に指輪をつける。本当にサイズが変化した。よくできてるな。
 今度はもっと良いものをプレゼントしよう。もちろんアミスにも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

処理中です...