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6.街にお出かけ

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「ラソマ、少し良い?」

 街に出かけようとした時、母さんに呼び止められる。母さんは手招きしているので、俺だけ近寄る。

「何ですか?」
「これを持って行きなさい」

 そう言って母さんは小袋を渡してくる。

「それはお金よ」
「でも貴重な物はアミスが持ってくれています」
「それとは別に持っておくの。そしてアミスに何か買ってあげなさい。きっと喜ぶわよ」
「はい!ありがとうございます!」

 さすが母さん。女性だからアミスの気持ちが分かるんだろうか。アミスが俺を好いてくれているなら、喜んでくれるはず。

 父さんの屋敷から街までは少し歩かないといけない。でも家を出た時点で街は見えており、そこに着くまでの一本道の両側には木が生い茂っている。自然豊かだ。道は舗装されておらず、土の道だ。

「少し歩かないといけないので馬車を使いましょう」
「ううん、僕のスキルで移動しようよ。馬車で行ったら目立っちゃうし」

 貴族という事を隠して街を楽しみたいんだ。だから俺もアミスも平民に見える服装をしている。家にある馬車にはレミラレス家の紋章が入っているしな。すぐにバレる。

「どういうふうにスキルを使うんですか?」
「僕たちを結界で覆って、結界ごと移動するんだ。実際にやってみるよ」

 そう言って、俺とアミスが入るように結界を張り、その結界を少しだけ浮かす。そして街に向かってゆっくりと前進した。

「…失礼ですが、この方が目立ちませんか?」
「大丈夫。街から人の目で見えそうになった距離から歩いて行くから」
「そうですか、分かりました。ラソマ様に移動を任せるというのが心苦しいですけど」
「そんなこと気にしなくて良いよ」

 そうして俺たちは街に向かい、言っていた通りに、街から人の目で見えそうになった場所から歩いて行く。この街には門がないので普通に入れる。王都みたいな都会だと、街に入る時、門番にお金を払わないといけないらしい。

「あ、それから様づけはしないでね?貴族だってバレちゃうから」
「え!?では、何とお呼びすれば良いですか?」
「呼び捨てとか…」
「それはできません!」

 無理だとは思ってたよ。

「だよね。くん付けが妥当じゃないかな。言ってみて?」
「……ら、ラソマ、くん?」
「なぁに、アミスお姉ちゃん」
「お、おね!?」

 すごく動揺してるな。

「あ、あの、お姉ちゃんというのは?」
「アミスって呼び捨てにはできないよ。だからアミスお姉ちゃん。駄目かな?」
「い、いえ!全然、大丈夫です!」
「そっか。それなら、この呼び方でいこう!」
「はい!」

「よし入れた」
「そうですね」

 街の人に見られても何も疑われずに街に入る事ができた。
 ここが街か。以前、街には洗礼の件で来た事がある。でも馬車で来たし、スキルの事で緊張していたから街の様子は見ていなかった。
 地面は石で舗装されていて、建物は中世ヨーロッパ風だ。行き交う人たちは人族だけではなく、エルフやドワーフもいる。剣や杖を持っている人もいる。彼ら(彼女ら)は冒険者と呼ばれる職業の人だ。
 こういう知識も一所懸命に勉強している兄さんが教えてくれた。

「さあ!色んなところを見てまわろう!」
「フフ、そうですね」

 街には色々な店があった。喫茶店もあれば、宿屋もある。武器屋や防具屋もある。これは冒険者用だろうな。冒険者の役割を簡単に言うと、人々から依頼を受けて、依頼を達成して報酬を得る。たまに魔物討伐の依頼もあるらしいから、武器や防具がいるんだろう。
 街には住宅地もあるけど、そこには行かない。住宅地を観光しても楽しくないからな。

「ここが武器屋?」
「はい。ラソマくんもやっぱり男の子ですね。武器に興味があるんですか?」
「少しね」

「いらっしゃい!…なんだ、冷やかしなら帰ってくれよ」

 武器屋に入ると、ドワーフの男性が俺たちを見ながら言う。子供と女性の組み合わせは武器屋には似合わないかもしれないな。

「確かに買うつもりはないけど、武器屋を初めて見たから、どんな武器があるのか見てみたかったんです」
「なんだ、ボウズ。お前のスキルは武器を使うものなのか?」
「いえ、違います。でも、スキルを応用すれば武器を使う事もできます」

 例えば念動力で動かすとかな。

「武器を使わないのに武器屋に入るなんて珍しいな!」

 そう言って男性は笑う。

「まあ、好きなだけ見ていけよ。気に入ったものがあったら、いつか買ってくれ」
「はい!」

 武器屋には長剣や短剣、大剣、斧や鎌もある。俺が使えるとすれば、短剣…いや、ナイフかな。ナイフを隠して武器を持っていないと勘違いさせて、そこを念動力で動かしたナイフで攻撃する。
 とはいえ結界があるから、無理に相手を倒して安全を確保する必要がないけどな。

 今度は魔法使いの来る店に来た。

「いらっしゃい。…おや、魔力のない人たちだね。この店に何か用かい?」

 店に入ると、いかにも魔女という感じのお婆さんが出迎えてくれた。

「魔力の有無が分かるんですか?」
「そりゃあ、魔法が使えるからね。魔法使いは全員、相手の魔力を感じ取る事ができるんだ」
「そうなんですか!」

 それは知らなかったな。

「それで、魔力を持っていない子が、この店に何の用だい?」
「魔法使いが来る店に来たかったんです。僕、街は初めてなので」

 正確には3回目か。

「ふむ…どこかの貴族様の子かい?」
「え!?ど、どうしてですか?」
「口調と仕草だ。平民の男の子とは違うよ」

 お婆さんは笑いながら指摘する。確かにその通りだ。前世の記憶もあるから、歳上に対して敬語を使う事と同時に、生まれてから教えられている貴族の仕草をだしてしまった。

「アミス、ごめん。僕がうっかりしたせいでバレちゃったよ」
「いえ、ラソマ様の気品なら、いずれ気づかれたと思います」
「そ、そうかな?」
「はい」

 断言されてしまった。

「そういうわけなんですけど、店内を見ても良いですか?」
「ああ、良いよ」

 お婆さんは、それ以上詮索してこなかった。説明すると面倒だから助かった。

 店内には沢山の書物が置かれている。
 魔法使いは、魔法というスキルが発現しても、それだけで魔法が使えるようになるわけではない。本にはそれぞれ魔法の名前が書かれており、その本を読む事で、その名前の魔法が使えるようになる。ちなみに本は1度読んだら消失する。そして消失した魔法の本は、いつか、どこかに現れるらしい。面白い仕組みだ。
 スィスルは初歩的な火の魔法の本を買ってもらい、それで使えるようになった。
 そう考えると、スキルを実感できるようになるまで、かなり時間がかかるな。何せ、魔法の本を買わないといけないんだから。でも魔法は強力だから、時間をかけても損はない。

 やがて店内を見終わった俺たちは、お婆さんにお礼を言って店を出た。

「うーん、バレないように口調を変えないといけないのか…アミスお姉ちゃん、どう思う?」
「そうですね。敬語を止めてはいかがでしょう?」
「でも丁寧な言葉遣いの子供もいるよね?」
「王都にはいるかもしれませんが…この街では珍しいかもしれないですね」
「そうなんだ?」
「はい。厳格な学校に行ったり、働き出せば言葉遣いも改まっていきますけど、それ以外の子供の口調は普通ですよ」
「そうなのか…これからは気をつけないと!」

 歩きながら、さっき、お婆さんにバレた事について反省していた。気づかれた原因は俺だからな。

「あら、アミスちゃん!どうしたの?」

 歩いていると、近くの店から出てきた中年の女性に声をかけられる。

「おばさん、お久し振りです」
「元気そうで何よりだわ。せっかくだし、寄っていかないかい?」
「そうですね…どうする?」
「うん!寄っていこうよ!」
「では寄らせていただきます」
「その子は?」
「この子は私の…」
「もしかして息子!?」

 おばさんの言葉に俺とアミスは驚いた。
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