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最終章 君を探して
5・来訪者
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「片織さん?!」
インターフォンがあることを忘れ、直接玄関に出た優人と母。
「なに、そんなに驚いて」
と片織。
「え? 片織さんってお兄さんじゃないの?」
と混乱する母。
「やだ、新しい彼女? 美人さんねえ。紹介してよ」
「新しい……彼女?」
優人はそこで回れ右をした。
非常に不味い状況だ。
母こと姉にはまだ恋愛事情は話していない。
次から次へと彼女を作っていたことがバレたら大問題。
うるさく干渉しない人だったからこそ、兄とは違う面倒くささがある。
「ちょっと、優人。逃げる気? 初めまして片織さん、母です」
「え?!」
「優人、待ちなさい」
リビングへ向かう優人を追う母。お邪魔しますと言って、それをさらに追う片織。
母が爆弾発言をしたためである。
リビングへ向かう途中で、
「何かあったのか?」
と脱衣場から顔を出す兄。
「兄さん、良いところに。後は頼んだ」
と言って優人は兄を脱衣場から引っ張り出すと、代わりにそこへ身を滑り込ませたのだった。
「優人! 待ちなさいったら」
「何してんの、母さん」
脱衣場の扉を開けようとした母を、なんとか兄が食い止めたようである。
「ちょっと待って。母ってどういうこと?」
とそこへ片織の声がした。
「え? 片織?!」
今度は兄が驚く番だった。
シャワーから出て、そろそろ落ち着いた頃かなと髪をタオルで拭きながらリビングへ向かうと、
「服を着ろ!」
「服を着なさい」
と母と兄からシャツが飛んでくる。
それを見た片織はぎょっとしていたが、
「似た者同士ねえ」
と笑う。
「なんだよ、もう。二人して。俺の肉体美を見せつけてるのに」
と冗談を言えば母がやれやれと肩を竦め、兄はため息をついた。
片織だけが、
「優人くん、良い身体しているわよね」
と言いながら、シャツの袖に腕を通す優人の腹筋をツツいている。
シャツを着ると優人は三人の座る場所を確認し、お誕生席とやらに腰かける。兄と母は入り口に近いソファーに。片織はその向かい側に腰かけていた。
母は兄から優人の交際歴について既に聞いたらしく、ふてくされたようにソファーに身を沈めている。
きっと後ほど何やら抗議をされるに違いない。
いつも世間と少しズレたことを言う人なので、何を言われるのか想像はつかないが。
「さて、役者がそろったところで真相を知りたいのだけれど」
と片織。
これまでの経験を踏まえても、片織とその妹は『時の干渉』を受けない者だということが分かっている。だが一族の秘密について話すには、本家の許可が必要だと思われた。
「それについては、本家の決定が必要だと思う」
と優人。
兄は特に何も言わずに、そうだなと頷いた。
「そうねえ。片織さんは、わたしたちの敵? 味方?」
と母。
「わたしが雑誌社に勤めたのは『雛本和宏』くんとコンタクトを取るためだった。今は退職しているわ。知りたいのは、妹のことなの」
そして、
「『雛本優麻』さんがここにいるということは、十年前あの家から出てきたのはあなたの遺体ではないということ」
と続け、一旦言葉をおいた。
そうなると、あの遺体が誰なのか結論は見えている。
「わたし、葬儀にも行ったのよ。そこには雛本和史の家族はいなかった。それは……子供や妻という意味だけれど」
彼女に全てを話すには『時渡』のことを話す必要があると思った。
その秘密を口外せずにいてくれるのか?
そこが問題だと思われる。
「片織さんが想像している通り、あの場にいたのは妹さんなの」
どんな理由があったとしても、事件を伝えないことはできない。事故として処理され、深入りされなかっただけなのだ。
「やっぱりそうなのね……」
「不慮の事故だったと思うの。凄い音がしたから」
「妹は”殺された”わけじゃない。でも、妹は和史さんを殺したんでしょう?」
片織は妹が亡くなったことよりも、妹が人を手にかけてしまったことの方がショックが大きいように見えたのだった。
インターフォンがあることを忘れ、直接玄関に出た優人と母。
「なに、そんなに驚いて」
と片織。
「え? 片織さんってお兄さんじゃないの?」
と混乱する母。
「やだ、新しい彼女? 美人さんねえ。紹介してよ」
「新しい……彼女?」
優人はそこで回れ右をした。
非常に不味い状況だ。
母こと姉にはまだ恋愛事情は話していない。
次から次へと彼女を作っていたことがバレたら大問題。
うるさく干渉しない人だったからこそ、兄とは違う面倒くささがある。
「ちょっと、優人。逃げる気? 初めまして片織さん、母です」
「え?!」
「優人、待ちなさい」
リビングへ向かう優人を追う母。お邪魔しますと言って、それをさらに追う片織。
母が爆弾発言をしたためである。
リビングへ向かう途中で、
「何かあったのか?」
と脱衣場から顔を出す兄。
「兄さん、良いところに。後は頼んだ」
と言って優人は兄を脱衣場から引っ張り出すと、代わりにそこへ身を滑り込ませたのだった。
「優人! 待ちなさいったら」
「何してんの、母さん」
脱衣場の扉を開けようとした母を、なんとか兄が食い止めたようである。
「ちょっと待って。母ってどういうこと?」
とそこへ片織の声がした。
「え? 片織?!」
今度は兄が驚く番だった。
シャワーから出て、そろそろ落ち着いた頃かなと髪をタオルで拭きながらリビングへ向かうと、
「服を着ろ!」
「服を着なさい」
と母と兄からシャツが飛んでくる。
それを見た片織はぎょっとしていたが、
「似た者同士ねえ」
と笑う。
「なんだよ、もう。二人して。俺の肉体美を見せつけてるのに」
と冗談を言えば母がやれやれと肩を竦め、兄はため息をついた。
片織だけが、
「優人くん、良い身体しているわよね」
と言いながら、シャツの袖に腕を通す優人の腹筋をツツいている。
シャツを着ると優人は三人の座る場所を確認し、お誕生席とやらに腰かける。兄と母は入り口に近いソファーに。片織はその向かい側に腰かけていた。
母は兄から優人の交際歴について既に聞いたらしく、ふてくされたようにソファーに身を沈めている。
きっと後ほど何やら抗議をされるに違いない。
いつも世間と少しズレたことを言う人なので、何を言われるのか想像はつかないが。
「さて、役者がそろったところで真相を知りたいのだけれど」
と片織。
これまでの経験を踏まえても、片織とその妹は『時の干渉』を受けない者だということが分かっている。だが一族の秘密について話すには、本家の許可が必要だと思われた。
「それについては、本家の決定が必要だと思う」
と優人。
兄は特に何も言わずに、そうだなと頷いた。
「そうねえ。片織さんは、わたしたちの敵? 味方?」
と母。
「わたしが雑誌社に勤めたのは『雛本和宏』くんとコンタクトを取るためだった。今は退職しているわ。知りたいのは、妹のことなの」
そして、
「『雛本優麻』さんがここにいるということは、十年前あの家から出てきたのはあなたの遺体ではないということ」
と続け、一旦言葉をおいた。
そうなると、あの遺体が誰なのか結論は見えている。
「わたし、葬儀にも行ったのよ。そこには雛本和史の家族はいなかった。それは……子供や妻という意味だけれど」
彼女に全てを話すには『時渡』のことを話す必要があると思った。
その秘密を口外せずにいてくれるのか?
そこが問題だと思われる。
「片織さんが想像している通り、あの場にいたのは妹さんなの」
どんな理由があったとしても、事件を伝えないことはできない。事故として処理され、深入りされなかっただけなのだ。
「やっぱりそうなのね……」
「不慮の事故だったと思うの。凄い音がしたから」
「妹は”殺された”わけじゃない。でも、妹は和史さんを殺したんでしょう?」
片織は妹が亡くなったことよりも、妹が人を手にかけてしまったことの方がショックが大きいように見えたのだった。
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