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7 真実を探して

43 終着点と足りないパーツ

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「片織さんがあの雑誌社に入社したのは、兄さんが賞を取ってからなんだよね」
「ああ、そう言ってたな」
 信号で足止めをくらい、和宏はぼんやりと窓の外を見る。
 大して売れはしなかったが、カナに繋がることを祈って書いた人生最初で最後の作品。カナには届いたのだろうか?
「しかし本名で書いていたなんてね」
と優人。

 現在のエッセイは”KAZUHIRO.H”。
 小説は本名そのまま。
 目的が妹カナへのメッセージな為、本名の方がいいと判断したからである。
 顔写真などは載せていなかった。
 この辺ではきっと珍しい苗字なのだろう。
 片織はちゃんと父の名前を憶えていたのだから、同じ苗字の人間がどんな奴なのか気になり調べたということもありうる。

「その小説の賞を行った雑誌社を特定し、入社したのだろうと思う」
「そこまでして……」
 信号が青になり、優人がアクセルを踏む。
「四年も俺たちを探していたんだし、そのくらいはするだろうね」
と優人。

 片織が行方不明の双子の片割れと苗字が違うのは、以前結婚をしたことがるからだと聞いた。時代は同性婚可能な世の中。
 てっきり男性と結婚したのかと思ったが、それは違ったようだ。

「奥さんの方の苗字を選んだのは意図的にも思えるけれど」
 優人の言葉に和宏は深いため息をつく。
「忘れたかったのかな。片織さんは色んな事を」
「そうかもな」
 優人にそう返事をした和宏だが、頭の中では別なことを考えていた。

──俺は片織が自認性別女性で、性志向は自認性別に対しての異性愛者だと思っていたが、違ったのだろうか?
 和くんが好きだったという話については、優人は片織本人の話しではないかもしれないと言ったが。

 優人は確かに、片織が好きなのは和宏のほうだったのでは?
 と言ったのだ。
 少なくとも和宏は男性。
 彼女も自分と同じ全性愛者《パンセクシャル》だったのだろうか? とも考えたが、なにかしっくりこなかった。
 何かが欠けている。
 きっと見ているはずなのに。

「なあ、優人」
「んー? 本家ならもうすぐ着くよ」
「いや、それはいいんだが。俺たちはこの事件を追っていく……もしくは片織の思惑通りに行動するとどうなるんだ?」
 優人は雛本本家よりも五十メートルほど手前のコインパーキングに車を停めると、
「お姉ちゃんがどこへ行ったのか分かる」
と返答をした。
「え? 失踪したあの人ではなく?」
「そう。言い換えれば”お姉ちゃんがどこへ向かった”のか」

──どういうことなんだ?
 居場所が分かるわけでもなく、何処へ向かったのかが分かる?

「それは分かると会えるのか?」
と和宏。
 正直意味が分からずに頭が混乱していた。
「最終的にはそうなると思う」
 優人はじっとスマホを見ていたが、ドアを開けると先に車から降りていく。和宏も仕方なくそれに続いた。
 和宏が降りたのを確認すると、鍵をかけ歩き出す。

「兄さん」
「うん?」
 和宏が優人に追いつくと彼は、
「大丈夫だから」
と言った。
 何が大丈夫なのか分からずに、和宏は瞬きをする。
「俺たちは、”お姉ちゃんを探すために”今までいろんなことを調べてきた。新聞社のあの人を調べたのも、片織さんを調べたのも、十年前の事件を調べたのも。全部、そのためだよ」
 一見繋がっているように思えないそれらは、カナの居場所を知るための手がかりだと言うのだろうか?

「本家で何を調べるつもりなんだ?」
「ちょっと能力的なことを知りたいんだ。時越えの条件についてとか」
 時越えは雛本一族と別の家系が混ざった時に発動されると言っていたはずだ。何か他にも条件があるのだろうか?
「それが分かれば、俺たちはお姉ちゃんに辿り着ける気がするんだ」

 優人はきっと自分よりも多くのことに気づいていて、足りないパーツを集めているのだろうと思った。彼を信じてついていけば、その答えに出逢えるのだろうと。
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