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7 真実を探して
41 片織の後任
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「今日は電車じゃないんだな」
「俺の運転は、不安ですか?」
和宏の質問に笑いながら、そう返答する優人。
「そういう意味ではないよ」
「知ってる」
今回車で移動するのは、もう追手がいないからと言うのが一番の理由だと話す優人。何故そう断言するのかはわからないが、優人の言うことを信じようと思う。
「で、思惑通りと言うのは?」
と和宏。
「俺たちがその”先輩”について調べられないのは、片織さんがいたから。ならばいなくなれば調べだすということだと思う」
「何故そんな回りくどいことを?」
「これも憶測に過ぎないけれど、自分一人じゃ限界があったんだと思う」
片織は十年もずっとこの事件、いや新聞社の彼女のことを探している。
だが見つかることはなかった。
恐らく、彼女の前に立ちふさがったのは……謎に包まれた雛本家そのもの。
確かに子がいたはずなのに、近所の人の記憶から消されてしまった。
「会ったことがないからこそ、覚えているのかもしれないし。その辺りのことを本家の人間に確かめるしかない」
「アポなしで大丈夫なのか?」
前回もアポは取らなかったが、本家にとっては想定内だったのだろう。
だが今回は違う。
「そこはほら、俺独自のネットワークがあるから」
と車内のスマホ立てに置いてあるスマホを、優人はツンツンとつついて。
本家に行ったとき、優人が連絡先を渡されていたことを思い出し、
「抜かりないな」
と和宏は感心した。
和宏の寄稿している雑誌社の前に来ると、地下駐車場へ誘導される。
入り口の警備員へ担当と会う約束をしていることを告げると、中へ確認しOKが出された。
このご時世、何処でも警備は厳しく、入退社時のチェックは絶えず行われている。
「連絡しておいてよかったね」
と優人。
先に担当に対し『社会科見学を兼ねて、弟を連れて行っていいか?』と伺いを立て許可を貰っていた。
和宏は優人が降りるのを待って、駐車場から上階へ向かうエレベーターへ向かって歩き出す。
車に向かって鍵を向け車にロックをかけながら和宏を追う、優人。
「どこもアポなしはきついみたいだね」
「先日事件があったばかりだからな」
と和宏は彼の言葉を受け、駐車場入り口に視線を送りながら。
新しい和宏の担当は、片織が入社当時から知っていると言う。
つまりは一緒に取材へ行った先輩のことも知っているに違いない。
しかしながら、弟の優人に会わせるのは初めてであった。
「え? 弟くん?!」
驚く新担当ににっこり微笑む優人。
「え? だって社会科見学っていうから、てっきり小学生かと……うそ! 似てなくない?!」
新しい担当は女性……だと思う。
片織の性別が曖昧だったので、憶測だ。
性別に関しても難しい時代になったなと和宏は思いつつ、
「俺は嘘を言う趣味はない」
と告げると、
「片織ちゃんが言ってたとーりー! めっちゃ塩!」
と何故か喜んでいる。
──片織は一体、どういう紹介の仕方をしたんだ?
「弟くん、彼女いるの? すっごいタイプなんだけど。年上は好き?」
食い気味の担当に対し和宏はヤレヤレと肩を竦めるも、
「俺は好き嫌いはありませんよ?」
と愛想を振りまく優人に、胸やけがした。
──平田君が言っていたな。
優人が行く先々でフラグを立てると。
「ところで聞きたいことがあるんですが」
と優人。
”それは俺のセリフだったのに”と和宏は心の中で小さく抗議する。
「え? 優人くんの質問ならなんでも答えちゃうよ!」
担当はノリノリだ。
「言質取りました」
と優人。
「なに、刑事さんなのー?」
と担当はキャッキャッしている。
──大丈夫なのか? この人。
不安になり始めた和宏をよそに担当は、
「お茶入れるから、奥の部屋いこー」
とジェスチャーで行くぞのポーズを取った。
先が思いやられるなと思いながらも、二人は彼女に続いたのだった。
「俺の運転は、不安ですか?」
和宏の質問に笑いながら、そう返答する優人。
「そういう意味ではないよ」
「知ってる」
今回車で移動するのは、もう追手がいないからと言うのが一番の理由だと話す優人。何故そう断言するのかはわからないが、優人の言うことを信じようと思う。
「で、思惑通りと言うのは?」
と和宏。
「俺たちがその”先輩”について調べられないのは、片織さんがいたから。ならばいなくなれば調べだすということだと思う」
「何故そんな回りくどいことを?」
「これも憶測に過ぎないけれど、自分一人じゃ限界があったんだと思う」
片織は十年もずっとこの事件、いや新聞社の彼女のことを探している。
だが見つかることはなかった。
恐らく、彼女の前に立ちふさがったのは……謎に包まれた雛本家そのもの。
確かに子がいたはずなのに、近所の人の記憶から消されてしまった。
「会ったことがないからこそ、覚えているのかもしれないし。その辺りのことを本家の人間に確かめるしかない」
「アポなしで大丈夫なのか?」
前回もアポは取らなかったが、本家にとっては想定内だったのだろう。
だが今回は違う。
「そこはほら、俺独自のネットワークがあるから」
と車内のスマホ立てに置いてあるスマホを、優人はツンツンとつついて。
本家に行ったとき、優人が連絡先を渡されていたことを思い出し、
「抜かりないな」
と和宏は感心した。
和宏の寄稿している雑誌社の前に来ると、地下駐車場へ誘導される。
入り口の警備員へ担当と会う約束をしていることを告げると、中へ確認しOKが出された。
このご時世、何処でも警備は厳しく、入退社時のチェックは絶えず行われている。
「連絡しておいてよかったね」
と優人。
先に担当に対し『社会科見学を兼ねて、弟を連れて行っていいか?』と伺いを立て許可を貰っていた。
和宏は優人が降りるのを待って、駐車場から上階へ向かうエレベーターへ向かって歩き出す。
車に向かって鍵を向け車にロックをかけながら和宏を追う、優人。
「どこもアポなしはきついみたいだね」
「先日事件があったばかりだからな」
と和宏は彼の言葉を受け、駐車場入り口に視線を送りながら。
新しい和宏の担当は、片織が入社当時から知っていると言う。
つまりは一緒に取材へ行った先輩のことも知っているに違いない。
しかしながら、弟の優人に会わせるのは初めてであった。
「え? 弟くん?!」
驚く新担当ににっこり微笑む優人。
「え? だって社会科見学っていうから、てっきり小学生かと……うそ! 似てなくない?!」
新しい担当は女性……だと思う。
片織の性別が曖昧だったので、憶測だ。
性別に関しても難しい時代になったなと和宏は思いつつ、
「俺は嘘を言う趣味はない」
と告げると、
「片織ちゃんが言ってたとーりー! めっちゃ塩!」
と何故か喜んでいる。
──片織は一体、どういう紹介の仕方をしたんだ?
「弟くん、彼女いるの? すっごいタイプなんだけど。年上は好き?」
食い気味の担当に対し和宏はヤレヤレと肩を竦めるも、
「俺は好き嫌いはありませんよ?」
と愛想を振りまく優人に、胸やけがした。
──平田君が言っていたな。
優人が行く先々でフラグを立てると。
「ところで聞きたいことがあるんですが」
と優人。
”それは俺のセリフだったのに”と和宏は心の中で小さく抗議する。
「え? 優人くんの質問ならなんでも答えちゃうよ!」
担当はノリノリだ。
「言質取りました」
と優人。
「なに、刑事さんなのー?」
と担当はキャッキャッしている。
──大丈夫なのか? この人。
不安になり始めた和宏をよそに担当は、
「お茶入れるから、奥の部屋いこー」
とジェスチャーで行くぞのポーズを取った。
先が思いやられるなと思いながらも、二人は彼女に続いたのだった。
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