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5 雛本一族本家の秘密
29 父と母の馴れ初め
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「まずは何から話そうかのう」
曽祖父は顎に手をやって考えていたようだが、ふと何かに気づいたのか
茶請けのお饅頭に手を伸ばす。薄皮で茶色の温泉饅頭だ。
食べるのかと思って見ていると、彼はそれを手のひらに乗せて懐かしそうに眺めている。
「和史は良い父親じゃったかの?」
曾祖父の突然の質問に、和宏はすぐに返答が出来なかった。
「あまり帰って来なかったけれど、喧嘩をしたことはないし母とも仲が良かったと思います」
代わりに答える優人に関心しながら、次の言葉を待てば、
「和史はわしの長男の子でな」
と自分と彼の関係について話し始めたのだった。
優人の予想通り、本家の出身なのは父の方。
本家の家長である曾祖父の長男の子であり、次男だったようだ。
雛本一族の長男であり家長の家系には代々守るべきものがあり、直系となる一族が暮らしている。通常直系の世帯と言えば、祖父、父、子のような三世帯だがここは違う。祖父から繋がる全ての世帯がここで暮らしているのだ。
それには深い理由があり、後ほど説明をすると言われた。
「そして優麻じゃが……」
一旦言葉を止めると、曾祖父は二人に交互に視線を送る。
何か重い話をされるのかもしれないと思った。
「あの子が雛本一族の血縁であることは検査の結果判明はしておるのじゃが、素性はわからんのじゃ」
その言葉に和宏と優人は顔を見合わせる。
二人の母である優麻は、ある日近くの公園で倒れているところを、和史に助けられたらしい。
「見たところまだ二十歳にはなっていなかったようなんじゃがの」
どうして屋敷に招き入れたのか問えば、彼女はここの地図を持っていたという。
しかし記憶喪失であり、自分の名前すら分からなかったのである。
一族に関しては、世帯のみが分かっていた。全世帯に問い合わせたが、行方不明になっている家族はいないとのこと。もしかしたら、未来から来たのではないかと憶測された。
「優麻はとても強い力を持っておったんじゃ」
ここで気になることが二つ。
父は曾祖父の直系の血筋に入る。だが本家ではなく、家を出たのだ。
そして父が母と結ばれたのは家長の命《めい》だったのだろうか?
その疑問も、直ぐに解かれた。
「あの二人はな、惹かれ合って結ばれたんじゃ。一族同士の婚姻ならば反対する必要はない。そして和史が優麻を気遣って家を出たんじゃ」
静かに暮らしたいと言ってなと続けて。
俺が事実かどうかについて、今更調べようはないが家を出たことに間違いはなかった。
妹のことについてどう切り出そうか考えていると、廊下からスリッパの音が聞こえる。
続いて、
「おじいちゃん、お昼どっちにするか聴いて来てって、母さんが」
と先ほど中まで案内してくれた女性の声がした。
「あ、ちょっとダメだって」
不規則な足音が聞こえてきたかと思うと障子が開き、
「おじいちゃん、和くん家《ち》の子が来てるって?!」
と別の女性が顔を出す。
曾祖父をおじいちゃんと呼んでいることから、孫なのだろうと想像する。
「相変わらず、元気じゃな。お昼はこっちに三人分と言っておいてくれな」
最初に声をかけてきた女性にそういうと、もう一人の女性に視線を移す。
しかし彼女は和宏たちの前に膝をつき、興味津々と言った表情で二人を見ていた。
彼女に圧倒されつつも、
「長男の和宏と末の優人です」
と和宏が挨拶をする。
優人が続けてニコッと微笑むと、
「おじいちゃん! 私彼と結婚する」
と言い出した。
──おい、優人よ。
こんなところまできて、女性問題を増やしてどうする!
頭を抱え、チラリと優人の方に目を向けると彼はまた何かを思案しているように見えたのであった。
曽祖父は顎に手をやって考えていたようだが、ふと何かに気づいたのか
茶請けのお饅頭に手を伸ばす。薄皮で茶色の温泉饅頭だ。
食べるのかと思って見ていると、彼はそれを手のひらに乗せて懐かしそうに眺めている。
「和史は良い父親じゃったかの?」
曾祖父の突然の質問に、和宏はすぐに返答が出来なかった。
「あまり帰って来なかったけれど、喧嘩をしたことはないし母とも仲が良かったと思います」
代わりに答える優人に関心しながら、次の言葉を待てば、
「和史はわしの長男の子でな」
と自分と彼の関係について話し始めたのだった。
優人の予想通り、本家の出身なのは父の方。
本家の家長である曾祖父の長男の子であり、次男だったようだ。
雛本一族の長男であり家長の家系には代々守るべきものがあり、直系となる一族が暮らしている。通常直系の世帯と言えば、祖父、父、子のような三世帯だがここは違う。祖父から繋がる全ての世帯がここで暮らしているのだ。
それには深い理由があり、後ほど説明をすると言われた。
「そして優麻じゃが……」
一旦言葉を止めると、曾祖父は二人に交互に視線を送る。
何か重い話をされるのかもしれないと思った。
「あの子が雛本一族の血縁であることは検査の結果判明はしておるのじゃが、素性はわからんのじゃ」
その言葉に和宏と優人は顔を見合わせる。
二人の母である優麻は、ある日近くの公園で倒れているところを、和史に助けられたらしい。
「見たところまだ二十歳にはなっていなかったようなんじゃがの」
どうして屋敷に招き入れたのか問えば、彼女はここの地図を持っていたという。
しかし記憶喪失であり、自分の名前すら分からなかったのである。
一族に関しては、世帯のみが分かっていた。全世帯に問い合わせたが、行方不明になっている家族はいないとのこと。もしかしたら、未来から来たのではないかと憶測された。
「優麻はとても強い力を持っておったんじゃ」
ここで気になることが二つ。
父は曾祖父の直系の血筋に入る。だが本家ではなく、家を出たのだ。
そして父が母と結ばれたのは家長の命《めい》だったのだろうか?
その疑問も、直ぐに解かれた。
「あの二人はな、惹かれ合って結ばれたんじゃ。一族同士の婚姻ならば反対する必要はない。そして和史が優麻を気遣って家を出たんじゃ」
静かに暮らしたいと言ってなと続けて。
俺が事実かどうかについて、今更調べようはないが家を出たことに間違いはなかった。
妹のことについてどう切り出そうか考えていると、廊下からスリッパの音が聞こえる。
続いて、
「おじいちゃん、お昼どっちにするか聴いて来てって、母さんが」
と先ほど中まで案内してくれた女性の声がした。
「あ、ちょっとダメだって」
不規則な足音が聞こえてきたかと思うと障子が開き、
「おじいちゃん、和くん家《ち》の子が来てるって?!」
と別の女性が顔を出す。
曾祖父をおじいちゃんと呼んでいることから、孫なのだろうと想像する。
「相変わらず、元気じゃな。お昼はこっちに三人分と言っておいてくれな」
最初に声をかけてきた女性にそういうと、もう一人の女性に視線を移す。
しかし彼女は和宏たちの前に膝をつき、興味津々と言った表情で二人を見ていた。
彼女に圧倒されつつも、
「長男の和宏と末の優人です」
と和宏が挨拶をする。
優人が続けてニコッと微笑むと、
「おじいちゃん! 私彼と結婚する」
と言い出した。
──おい、優人よ。
こんなところまできて、女性問題を増やしてどうする!
頭を抱え、チラリと優人の方に目を向けると彼はまた何かを思案しているように見えたのであった。
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