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『猟奇的、美形兄は』

23:兄、土産につき

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 車を出すというので、シートベルトを締める愛都。そこで後部座席に透明なビニールに入った何かを見つける。ビニール袋には今しがた兄がタピオカドリンクを購入した店の名前が印刷されていた。まさか、他にもドリンクを買ったのか、と兄に視線を移せば、
「どうかしたか?まな」
と、どうやら視線には気づいたらしい。
「ねえ、後ろの袋って」
と、愛都は恐る恐る尋ねる。
 すると兄は、
「ああ、あの店ドーナツも売ってるんだ。あとでまなと食べようかなと思って」
と。

──ドーナツだと?

 愛都はとてつもなく嫌な予感がした。
「お×××ん型ドーナツだよ、まな。キュートじゃない?」
「ぶッ」

 あれだけ、お×××んを食べて、まだお×××んが食べ足りないというのか?
(言ってることはクレイジーだが、タピオカとドーナツである)
「お兄ちゃんは、ほんとにお×××んが大好きなんだね」
「一番好きなのは、まなのお×××んだよ」
(かなりトチ狂っている)
 愛都はどんなものなのだろうかと、後部座席の袋に手を伸ばす。
 ビニール袋の中に紙袋に入った物体が。そろっと開けると、中には予想を遥かに上回るブツが入っていた。
「お×××んがいっぱい」
とぎょっとする愛都。
 ドーナツはカラフルで、一口サイズ。なんだかたくさん入っている。
「グラム売りだからね」

──グラム売りの一口サイズのカラフルな、お×××ん……。

 もう、想像しただけでクレイジーこの上ない。
 愛都は見なかったことにした。
「母にも少しやるか」
 愛都には”母も少しヤルか”に聞こえ、兄を二度見してしまう。
 とうとう人(愛都の)の親にまで手を出そうとしているのかと、頭の心配をしたが、愛都の聞き違いだったようだ。
「母もお×××ん大好きって言っていたしな」
(そんなことは一言も言っていない)
「いや、それは止めた方がいいと思うの」
と、愛都。
 こんなモノを渡した日には大目玉を食らうに違いない。
「何故だ。幸せとは分け合うものだろう? まなよ」
 言っていることは美しいが、分け合うのは百歩譲っても、お×××んである。
 そんなもの分けられても嬉しくないだろう。
「まな。まなの素敵なお兄ちゃんはな」
 自称素敵なお兄ちゃんの演説が始まった。
「美味しいものは分け合うべきだと思うんだ」
(形が問題である)


「母よ!土産だ」
 兄は案の定、愛都が止めるのも聞かず、母に紙袋を渡す。
 中を見た母は、
「ぎゃあああああ! なんなのこの気持ち悪い物体は!」
と、予想通り悲鳴を上げる。
「お×××んだ」
「は?」
「間違った。お×××ん型ドーナツだ」
(何故間違った?)
「いらないわよ!」
「何故だ、母よ」
 いつも通り兄と母は玄関で揉めている。
「もう、ほんとバカなんだから」
「馬鹿とはなんだ。天才といえ。長男だぞ」
「長男だろうが次男だろうが、馬鹿だから馬鹿って言ってるんでしょ! もーどこで育て方間違ったのかしら」
(母に責任はない)
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