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『猟奇的、美形兄は』

20:弟、上品につき

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 愛都は、おパンティ型に切られたスイカにかぶりついていた。


「どうだ、まな。素敵なお兄ちゃんが制作したブツは」
 自称素敵なお兄ちゃんは、なんだか物騒な言い方をしているが、要は前回レプリカの斧で”おパンティいいいいい”と奇声をあげながら割ったスイカである。
 簡単にいえば、ただのスイカだ。多少変な形はしているが。
「うん、美味しいよ」
 ニコニコしていた愛都だったが、兄が般若のような表情をしたのでぎょっとした。
 なにか不味いことをいってしまったのだろうか? 
 それともこのパンツ型に触れたほうが良かったのだろうか?
 そんなことを思っていると、
「まな! なんてお上品な食べ方をしているんだ。それでも原始人か!」
と怒られる。
 そもそも原始人ではない。
「いいか? まな」
 恒例のわけのわからない演説が始まろうとしていた。

「まず、左手でスイカを持つ。そして右手はこうだ」
 兄はピタッと全ての指をくっつけてみせる。手刀というやつだ。
「そして指先のほうからスイカに向かって差し込むんだ!」
 爪にスイカが入りそうである。兄は一所懸命ジェスチャーで説明しているが、そもそもそんな食べ方の解説は不要だ。
「さあ、素敵なお兄ちゃんが実演してやるからな」
 どや顔の兄は手とうを振り上げ構えた。
「おおおおおおおおおパンティいいいいいいいいい」
 奇声をあげながら振り下ろす。
 ズササササと指先がスイカに刺さり、手の上に赤い部分が綺麗に乗る。
「どうだ」
 キラリンと白い歯を輝かせ、決め顔の兄。
 そこへ背後から、
「やーかーまーしいいいいいいいいい!」
と母がハリセンで兄の頭をひっぱたく。
「痛っ!」
 頭を押さえる兄に、愛都は思わず口元を抑えた。

「痛いではないか、母よ」
「愛都に馬鹿なことばかり教えてないで、パンツを履きなさい」
「馬鹿とは何だ! 天才と言え。可愛いまなに原始人の流儀を教えていたんじゃないか」
と、兄。
 母はあきれ顔だ。
「そんな流儀聞いたことないわよ。そもそも、その時代にスイカなんてあったの?」
「!」
 兄はそれについては考えていなかったらしい。
「なければ、作れば良かろう!」
 しかし兄は兄だった。
「はいはい」
 母はまったく相手にしていない。さすが、母。
「ぬあっ!」
「そんなことより、天気が良いんだから愛都をどこかに連れて行ってあげなさいよ。あなた、お兄ちゃんなんだから」
 どうやら母は、この騒がしい兄を何処かへやりたいらしい。
 しかし、良い意味に受け取った兄は目を輝かせた。

「まな! 原始人ならステーキだ!」
 どうやら、”ステーキ、厚切り原始人”に行くことになりそうだ。
「あら、いいわね」
 母はニコニコしていたが”これで静かになるわね”と、思っているにちがいない。
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