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5話『17年前の事件の真相』
6 板井からの質問
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****♡side・塩田
「はあ……こんなところで寝るなよ。客間があるだろ」
早々に酔いつぶれてしまった電車に布団をかけてやりながら塩田はため息をついた。
横になりたいというので、リビングのソファーまで運んでくれたのは板井だ。
「相変わらず自由だな、電車は」
板井はカウンターのところから半分身体をこちらに向けて、呆れたように口にした。
会社から五分の距離ということもあり、修二と懇意になるまではしょっちゅう塩田のマンションに来ていた電車と板井。遠慮するようになったのは、修二のせいというよりは副社長の皇が入り浸るようになったのが理由だろう。
「まったくだ」
修二との関係を打ち明け、一時期気まずかったこともあるが板井は塩田にとって一番気の合う相手。同じ人を好きになってしまったことは今でも引きづってはいる。
枕を電車の頭の下に差し込んで板井の方を振り返れば、ビールグラスを片手にぼんやりと塩田のことを見ていた。
「電気はつけない方がいいよな」
塩田のマンションの造りはリビングダイニングキッチン。対面式のシステムキッチンがお洒落だ。もっとも、塩田は料理をしないが。
ダイニングテーブルも設置はしてあるものの、もっぱらキッチンカウンターで食事をすることの方が多い。
「どうかしたのか?」
板井の隣に腰かけ、塩田は問う。彼がぼんやりしていることはとても珍しいことだ。
「音楽はかけっぱなしで平気かな」
「大丈夫だろ」
塩田は片腕で頬杖をつくとスピーカーのリモコンに手を伸ばし音量を下げながら返答した。板井は相変わらずリビングのほうを見つめている。
「なあ、塩田」
「ん?」
茄子漬に箸を伸ばしながら”なんだ?”と言うように彼に視線だけ向ける。
「踏み入ったことを聞いても良いか?」
「いいが、ここの価格とかならノーコメントだぞ」
いつまでもリビングの方に視線を向けている板井の様子が気になり、先手を打つが、
「いや、そういう話じゃない」
と彼は苦笑した。
「なあ、課長のことを好きになったきっかけってなんだったんだ?」
「は?」
まさかそんな質問をされると思っていなかった塩田は掴んだ茄子漬を取り落としてしまう。
「なにしてんだよ」
リビングのほうを眺めていた板井がこちらに向き直り、近くのティッシュボックスに手を伸ばす。
「あ、いや……」
チラリと板井に視線を返したものの何と言っていいのかわからない。
──板井はきっと、今でも修二のことが好きなんだろう。
俺が修二の恋人としてふさわしくないことくらい、自分が一番わかっている。
「そんなこと聞いてどうする?」
「それは聞いてから考えるよ。それよりも、他人に興味を示さない塩田が何故課長に恋をしたのか知りたい」
「後悔、するかもよ?」
「聞いたことをか?」
「ああ」
正直、自分から好きになって積極的にアタックしたとか、そんな情熱的な経緯はない。むしろ、全体的にふんわりしていると言っても過言ではない。
「それは、何故?」
「簡単に言えば、つきあっているうちにいつの間にか好きになってたから」
修二の愛情を感じているうちにかけがえの存在になっていったのだ。
だからつき合おうと言われて付き合いはしたものの、その頃はまだ恋ではなかった。
「好きでもないのにつき合ったと?」
”お試しのようなものか?”と板井。
「それはちょっと違う。好きか嫌いか聞かれて、嫌いではないと答えたらつき合おうと言われた」
あの日はここで飲んでいた。二人きりで。
「俺は修二に万年筆をプレゼントしたことがあって……」
「ああ、課長がいつも胸ポケットに挿しているあれな」
「それを凄く大事にしてくれていることは知ってた。俺には、そこまで深い意味はなかったんだ」
まだ入社して間もない頃の話だ。
同期の黒岩がとんとん拍子で昇進したことをぼやく彼を珍しく感じた。
修二は絵にかいたような理想の上司だったと思う。文句一つ言わずに新人三人の面倒を見る彼を心のどこかで尊敬していたとは思うが、それは恋とは違ったはずだ。少なくとも自分には自覚はない。
夜は長い。塩田は意を決してあの頃のことを板井に話すことにしたのだった。
「はあ……こんなところで寝るなよ。客間があるだろ」
早々に酔いつぶれてしまった電車に布団をかけてやりながら塩田はため息をついた。
横になりたいというので、リビングのソファーまで運んでくれたのは板井だ。
「相変わらず自由だな、電車は」
板井はカウンターのところから半分身体をこちらに向けて、呆れたように口にした。
会社から五分の距離ということもあり、修二と懇意になるまではしょっちゅう塩田のマンションに来ていた電車と板井。遠慮するようになったのは、修二のせいというよりは副社長の皇が入り浸るようになったのが理由だろう。
「まったくだ」
修二との関係を打ち明け、一時期気まずかったこともあるが板井は塩田にとって一番気の合う相手。同じ人を好きになってしまったことは今でも引きづってはいる。
枕を電車の頭の下に差し込んで板井の方を振り返れば、ビールグラスを片手にぼんやりと塩田のことを見ていた。
「電気はつけない方がいいよな」
塩田のマンションの造りはリビングダイニングキッチン。対面式のシステムキッチンがお洒落だ。もっとも、塩田は料理をしないが。
ダイニングテーブルも設置はしてあるものの、もっぱらキッチンカウンターで食事をすることの方が多い。
「どうかしたのか?」
板井の隣に腰かけ、塩田は問う。彼がぼんやりしていることはとても珍しいことだ。
「音楽はかけっぱなしで平気かな」
「大丈夫だろ」
塩田は片腕で頬杖をつくとスピーカーのリモコンに手を伸ばし音量を下げながら返答した。板井は相変わらずリビングのほうを見つめている。
「なあ、塩田」
「ん?」
茄子漬に箸を伸ばしながら”なんだ?”と言うように彼に視線だけ向ける。
「踏み入ったことを聞いても良いか?」
「いいが、ここの価格とかならノーコメントだぞ」
いつまでもリビングの方に視線を向けている板井の様子が気になり、先手を打つが、
「いや、そういう話じゃない」
と彼は苦笑した。
「なあ、課長のことを好きになったきっかけってなんだったんだ?」
「は?」
まさかそんな質問をされると思っていなかった塩田は掴んだ茄子漬を取り落としてしまう。
「なにしてんだよ」
リビングのほうを眺めていた板井がこちらに向き直り、近くのティッシュボックスに手を伸ばす。
「あ、いや……」
チラリと板井に視線を返したものの何と言っていいのかわからない。
──板井はきっと、今でも修二のことが好きなんだろう。
俺が修二の恋人としてふさわしくないことくらい、自分が一番わかっている。
「そんなこと聞いてどうする?」
「それは聞いてから考えるよ。それよりも、他人に興味を示さない塩田が何故課長に恋をしたのか知りたい」
「後悔、するかもよ?」
「聞いたことをか?」
「ああ」
正直、自分から好きになって積極的にアタックしたとか、そんな情熱的な経緯はない。むしろ、全体的にふんわりしていると言っても過言ではない。
「それは、何故?」
「簡単に言えば、つきあっているうちにいつの間にか好きになってたから」
修二の愛情を感じているうちにかけがえの存在になっていったのだ。
だからつき合おうと言われて付き合いはしたものの、その頃はまだ恋ではなかった。
「好きでもないのにつき合ったと?」
”お試しのようなものか?”と板井。
「それはちょっと違う。好きか嫌いか聞かれて、嫌いではないと答えたらつき合おうと言われた」
あの日はここで飲んでいた。二人きりで。
「俺は修二に万年筆をプレゼントしたことがあって……」
「ああ、課長がいつも胸ポケットに挿しているあれな」
「それを凄く大事にしてくれていることは知ってた。俺には、そこまで深い意味はなかったんだ」
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修二は絵にかいたような理想の上司だったと思う。文句一つ言わずに新人三人の面倒を見る彼を心のどこかで尊敬していたとは思うが、それは恋とは違ったはずだ。少なくとも自分には自覚はない。
夜は長い。塩田は意を決してあの頃のことを板井に話すことにしたのだった。
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