R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
12 / 96
2『板井と唯野』

3 鈍感な二人

しおりを挟む
****side■板井

「苦情係に居なかったじゃないかよ」
 唯野は呟くように言うと、再びスマホに視線を落とす。誰からの連絡を待っているんだと、板井は苛つく。
「いつも、自分が居なくても休憩取れよというあなたが、それを言うんですか?」
 勘違いしそうになる。待たれることが嬉しいのではないかと。彼は板井の言葉には何も言わない。自分勝手なことを言っているとわかっているのだ。

「寂しかった?」
 そう問いかけると、驚いたように彼は顔をあげる。
「俺が居なくて、寂しかった?」
「板井……」
 板井は彼の後ろのフェンスに腕を伸ばし、指をかけた。これはいわゆる壁ドンと言うやつなのか? と思いながら。
「お前も俺を見捨てるのか?」
 じっとこちらを見つめる瞳が揺れている。
「見捨てる? 俺があなたを?」

 みんなに慕われている唯野。誰が彼を見捨てたというのだろう。妻だろうか? だとしたら嫉妬してしまいそうだ。

「なんで、なかったことになんて……」
 
 謝られたくなんてなかった。
 間違いだなんて言われたくなかった。
 ましてや責任を取るなどと言われた日には、絶望しかない。そんな繋がり方、望んでいない。いつか愛される日が来たとしても、彼は責任のためにそんなことを言うのだと、その心を信じられなくなってしまうから。

「俺が望んで受け入れたことです。責任なんて感じて欲しくない」
 好きな人に抱かれたのだ。妻さえ抱いたことのない彼に。それだけでいい。綺麗な思い出にしておきたい。たとえこの想いが叶わなくても。

「夢だと思って、忘れてください」
 彼がハラハラと涙を零す。綺麗だなと思った。自分だけは彼の負担にはなりたくない。
「板井、俺……」
一人でたくさん抱えて、ずっと耐えてきた。これ以上荷物を持たせたくない。

──あなたが好きです。とても。

「俺は課長のこと尊敬してます。見捨てたりなんてしない」
 ポケットからハンカチを取り出し、彼の目元に充てれば、その手を掴まれる。
「俺はあなたが好きです。でも、妻子がある人だし、それにあなたは塩田が好きなんでしょう?」
 板井の言葉に何かを言おうとして彼は、ただギュッと手に力を込めた。
「もう、忘れますから。期待させないでください」
「板井、待て。それは……」
「少し、一人にしておいてもらえませんか?」
 唯野の言葉を遮り、板井はすっと彼から離れる。力なく座り込む彼。

 これできっと、唯野はこれ以上昨夜のことには触れないはずだと思った。好きだと自覚したばかりで、自ら可能性を断つ自分は馬鹿だろうか。

──少し距離を置けばきっと、この想いも落ち着くはず。

 離婚すると言っていた唯野のことは心配だが、別に会社をやめるわけじゃない。少しの間、距離を置くだけなのだ。自分自身に言い聞かせるように心の中で呟く。

─そういえば、誰からの連絡を待っていたのだろう。

 屋上から出ようとして唯野のことが気になり、振り返ろうとしてやめる。決心が鈍ってしまいそうだったから。
 
──あは、馬鹿だな。
 俺は自分が思っていた以上に、あの人のことが好きだったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...