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2 動き出した時間
4・【助言】
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****♡Side・海斗
「そういえば、この間の話」
と【大崎圭一】は急にトーンを変え耳打ちするように、海斗に近づく。
「ん?」
海斗も思わず、つられた。
「調べたが、一応決着はついているんだな」
それは利久の事件のことである。海斗はやはり調べたのか、と一瞬嫌な顔をした。出来れば、知られたくない事件だ。利久は乗り越えようとしている。むしろ、トラウマになっているのは自分の方ではないかと思えた。
「海斗。単刀直入に言う」
海斗は圭一の言葉を最後の審判を受けるような気持ちで受け止める。
「まず海斗が自分自身を許せない限り、お前たちに救いの道はない」
──許す。あんな酷いことをして置いてか?
「それとも、ちゃんとした制裁を下すか? それも可能だが」
利久に酷いことをすると脅した相手に社会的な制裁を下せると彼は言う。確かに彼女は許せない。自分の手で利久を守れないと判断したから彼女に屈した。しかしその時点で圭一に相談は出来たはずだ。全て自分の判断ミス。悪いのは自分。この世で一番大切な利久を傷つける方を選んだのは、他でもない自分。
──圭一の言うとおりだ。
俺は自分のことが、この世で一番許せない。
「なあ、海斗」
「……」
圭一には事件のことを、知られたくなかった。
それは罪が明るみに出るからではない。回避できたはずなのに判断を誤った自分の馬鹿さ加減を思い知ることになるからなのかもしれない。
「ちゃんと、姫川と話し合え。過去をほじくり返すのは、互いに辛いかも知れない」
圭一はいつだって正しい。それは偏った考え方をして居ないから。いつだって物事を考える時は冷静だから。そんな彼に敵わないことが分かっているから、比べられるのがイヤなのだ。自分はそんな風にいつだって冷静とは行かない。利久が絡めば判断を見誤る。
「でも話し合ってちゃんと過去と向き合わなければ、ダメだ」
──分かってたよ。自分が逃げていることくらい。
いつも無口な彼が真剣に向き合い言葉をくれることが有り難い。だが素直になるのは難しいのだ。
「出来ないと言うか?」
そんなこと言えるはずがない。自分は利久の為に前に進まなくてはならないのだ。彼がこの世で一番大切だから。
「やってみるよ」
海斗の言葉に圭一はそれ以上何も言わなかった。ただ一瞥しただけで去って行く。それが彼なりの優しさなのだ。
「カイ」
少し離れたところで二人を見守っていた利久が近づいてくる。心配そうに。
「大丈夫だ」
と、海斗は彼の背中に手を回すとそっとハグをしたのだった。
「そういえば、この間の話」
と【大崎圭一】は急にトーンを変え耳打ちするように、海斗に近づく。
「ん?」
海斗も思わず、つられた。
「調べたが、一応決着はついているんだな」
それは利久の事件のことである。海斗はやはり調べたのか、と一瞬嫌な顔をした。出来れば、知られたくない事件だ。利久は乗り越えようとしている。むしろ、トラウマになっているのは自分の方ではないかと思えた。
「海斗。単刀直入に言う」
海斗は圭一の言葉を最後の審判を受けるような気持ちで受け止める。
「まず海斗が自分自身を許せない限り、お前たちに救いの道はない」
──許す。あんな酷いことをして置いてか?
「それとも、ちゃんとした制裁を下すか? それも可能だが」
利久に酷いことをすると脅した相手に社会的な制裁を下せると彼は言う。確かに彼女は許せない。自分の手で利久を守れないと判断したから彼女に屈した。しかしその時点で圭一に相談は出来たはずだ。全て自分の判断ミス。悪いのは自分。この世で一番大切な利久を傷つける方を選んだのは、他でもない自分。
──圭一の言うとおりだ。
俺は自分のことが、この世で一番許せない。
「なあ、海斗」
「……」
圭一には事件のことを、知られたくなかった。
それは罪が明るみに出るからではない。回避できたはずなのに判断を誤った自分の馬鹿さ加減を思い知ることになるからなのかもしれない。
「ちゃんと、姫川と話し合え。過去をほじくり返すのは、互いに辛いかも知れない」
圭一はいつだって正しい。それは偏った考え方をして居ないから。いつだって物事を考える時は冷静だから。そんな彼に敵わないことが分かっているから、比べられるのがイヤなのだ。自分はそんな風にいつだって冷静とは行かない。利久が絡めば判断を見誤る。
「でも話し合ってちゃんと過去と向き合わなければ、ダメだ」
──分かってたよ。自分が逃げていることくらい。
いつも無口な彼が真剣に向き合い言葉をくれることが有り難い。だが素直になるのは難しいのだ。
「出来ないと言うか?」
そんなこと言えるはずがない。自分は利久の為に前に進まなくてはならないのだ。彼がこの世で一番大切だから。
「やってみるよ」
海斗の言葉に圭一はそれ以上何も言わなかった。ただ一瞥しただけで去って行く。それが彼なりの優しさなのだ。
「カイ」
少し離れたところで二人を見守っていた利久が近づいてくる。心配そうに。
「大丈夫だ」
と、海斗は彼の背中に手を回すとそっとハグをしたのだった。
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