上 下
143 / 145
20話『運命を背負いし者と魂の番』

7 涙の再会

しおりを挟む
****♡Side・Ω(レン)

「レン、大丈夫か?」
「うん」
 屋敷に着くころには、すっかり発情の兆しはなくなり、落ち着きを取り戻していた。その事がレンに確信させる、先ほどの発情が特別なものであったことを。あれは意図的なものではなく、魂の番によるものなのだと。
「とりあえず、部屋に行こう」
 カイルに促され、二階に上がるがクライスのことを思い不安になる。もしかしたら、彼は自分のせいで隔離されてしまうのではないか。
「カイル、クライスは? ねえ、クライスは大丈夫なの?」
 珍しく取り乱すレンに、驚くカイル。

───お荷物になりたくない。カイルから大切なもの奪いたくない。

「大丈夫だよ、今こちらに向かってる」
 カイルが安心させようと、ぎゅっと抱きしめてくれる。
 レンは彼の背中に腕を回した。
「カイル、お願い。僕を捨てないで」
「何言ってるんだ。そんなことするわけないだろ」
 彼はレンにちゅっと口づけ、更に強く抱きしめる。
「レンがいない世界なんて、考えられないよ。悲しいこと言わないで」
 レンはそっと目を閉じた。
 自分の居場所は、ちゃんとここにあるのだろうか。

───もう嫌だ。どうして、僕はΩなのだろう。
 Ωになんて、生まれてきたくなった。
 魂の番なんて知らない。僕はカイルの傍にいたいだけ。

「カイル」
「大丈夫、傍に居るよ。レンの傍に居る」
 優しく背中を撫でる手。安心なんてできない。クライスがここに来るまでは、安心なんてできやしない。何ともないことを確かめるまでは。
 その時、不意に玄関が騒がしくなる。
「!」
「クライスだ」
と、カイルはじっとレンを見つめた。
 階段をのぼる音にドキドキする。なにごともなければいい。
 足音が止まると、部屋のドアが躊躇いがちにノックされた。
「レン、何ともない?」
 心配そうにこちらを覗き込むカイルに、レンは頷く。

「レン、カイル……入っても大丈夫?」
 クライスの声に、レンは何かに弾かれたように動いた。
「レン?」
 慌てるカイル。レンは思いっきりドアを引くとその胸に飛び込む。
「クライスッ」
「レン……ただいま」
「僕のせいで、ごめんね」
「俺は……大丈夫だよ」
 震える声。きっと、凄く寂しかったのだろうと思った。カイルがゆっくりと近づくと、クライスをレンごと抱きしめる。
「おかえり、クライス」
「カイル」
 何がそんなに悲しいのか分からない。しかし、涙が止まらなかった。
 きっとクライスも同じだったのだろう。ハラハラと涙を溢しながら、カイルの肩に顔を埋める。
「二人とも、泣くなよ」
 カイルが困った顔をして二人の頭を撫でたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...