上 下
102 / 145
15話『Ωが真実に気づく時』

1 それぞれの想いが交差する夜

しおりを挟む
****♡Side・β(カイル)

 恥ずかしがるクライスを組み敷き、まるで彼を支配しているような気持ちになる。いけないことだ、そんな風に思うのは。
 何度も何度も自分の欲望と戦いながら、抗いながら情事を終えた時、夜は完全に更けていた。ぐったりとした彼をベッドに残し、簡易キッチンへ向かう。
 熱い体には、裸足で触れる床が心地いい。冷蔵庫のドアを開ければ、たくさんの飲み物が常備されていた。この屋敷の部屋は何処もそうだ。給仕係の女性が、いつもきちんと補充してくれている。
「これが良いかな」
 レモンウォーターの瓶を二つ取り出し、引き出しから栓抜きを取り出す。
 月明かりの綺麗な夜だ。きっとレンはまだ起きているだろう。両方栓を抜くと、一つにはストローを。瓶を持つ前に浴室に向かう。どうやら、すぐに入れるようだ。

「クライス、喉が渇いたろう?」
「ありがとう」
 何とか身体を起こした彼に、ストローの刺した瓶を渡す。自分の分をサイドテーブルに置くと、ベッドサイドに腰かけた彼の元に膝まづく。
「カイル?」
「大丈夫だよ」
 カイルは、自分のものである証となるアンクレットを彼の足につけた。プラチナで出来たとても繊細な細工のものだ。職人に特別に頼んで作って貰ったもの。この世に一つだけの、オリジナルの装飾品。
「うん、ぴったりだ。大丈夫そうだな」
 引っ張ったり、下げたりして強度を確かめる。外で無くしてしまっては、意味がない。

「屋敷に居るときは、つけている必要はない。もし、外に出ることがあれば必ずつけるんだ」
「うん」
 それはまるで、Ωのつけるチョーカーのようなモノかも知れない。だが、意味は違う。
 チョーカーは番になるのを防ぐためのモノであって、襲われることは防げない。しかし、このアンクレットは”所有者がいる証”。何人たりとも、彼に手だし出来なくなるというわけだ。
 この国には、Ωとαに関する法律が無数に存在する。Ωを守るためであり、αを虐げるためのものだ。こんなことがまかり通るのは、αが自分以外に関心がないからだ。
 βは恐ろしい生き物だと思う。家族のためになら、鬼にだってなれる。悪魔にだってなれるのだから。

───クライスを守りたい。

 あんなに憎んでいたはずのα。しかし、彼だけは特別なのだ。失いたくない。
「お風呂に、入っておいで」
「うん」
 水分を取って少し元気になった彼が、ベッドから降りる。
「カイル」
「ん?」
「これは、水に濡れても平気?」
 足を後ろにあげ、アンクレットを見つめる彼。
「大丈夫な素材だよ」
「そっか」
 彼は微笑むと、浴室へ向かって行く。
「クライス」
 そんな彼の背中に声をかける、カイル。
「うん?」
「部屋に戻っているから、着替えたらおいで」
「分かった」
 彼の笑顔が消えないように。カイルは、レンへ知恵を借りに行こうと思っていた。そこで衝撃の事実を聞かされるとも知らずに。

 それぞれの想いが交差する夜。
 彼らは、確実に絆を強固していったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...