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12話『皇子の逆鱗に触れるとき』
7 皇子と頂点であるΩ
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****♡Side・β(カイル)
「レン、見張りだ」
暫く走行していると、ある路地の入口に見張りの者が立っているのが見えた。少し手前でバイクを停めると、ヘルメットを外し座席に置く。
「きっとここだね」
カイルはレンにここで待つように言おうとしたが、彼はじっと路地を見つめている。
置き去りにして何かあっては困ると考え直し、その手を掴むと歩き始めた。
「えっ⁈ カイル様?」
見張りの男を押しのけ先に進む。
カイルは皇子であることを剥奪されても、国民にとっては皇子に変わりなかった。触れることの出来ない高貴な身分の者を力づくで止めることなどできない。
ましてやレンはΩだ。地位はβよりも上である。
言葉を失い立ち尽くす男を無視し、カイルはレンに合図を送る。走るぞと言う合図だ。レンは頷くと、カイルに続いた。
予想通り、奥からクライスの声が聞こえ、二人は身構える。
「いやだ! 触るなっ」
αの力はβよりも格段に上。
それでも多勢に無勢と思われたが、クライスを押さえつける男たちを目にし、カイルは一瞬怯む。
「大人しくしろ!」
「っ」
どうやら一人二人では抑えつけることが無理だったようだ。
四人がかりでクライスを押さえつけていたが、彼は足で近づく男を押しやろうとしていた。
最悪の事態は免れたようで、後ろに立つレンがほっと溜息をつくのが分かる。
カイルはレンの手を放すと、クライスに覆いかぶさろうとしている男の背後に回り、おもむろにその辺にあった木の棒で殴り倒す。
「ぐはっ」
ドサッと音を立てて倒れ込む男。
クライスを押さえつけていた四人の男たちが、カイルを見上げ青ざめる。
カイルはわざとらしくため息をつくと、
「誰の許可を得て、俺のものに手を出しているんだ? その汚い手を放せ」
クライスを押さえつける一人を足で押しやると、他の者が震えながらクライスから手を放し、尻で後退った。
「これは、俺のαだ」
ボロボロになったシャツ、露出した肌。
目に涙を溜めカイルを見上げるクライスの腕を掴む。
「カイル……」
「家に帰ろう、クライス」
眉を寄せ切なげに見つめれば、彼はカイルにしがみついた。
「カイル……カイルッ」
カイルは彼の頭を抱え込み、その背中を撫でる。
「怖かったな。もう、大丈夫だから。守ってやれなくて、ごめんな」
髪を優しく撫で、抱きしめた。
「とっとと、散ってくれる?」
いつまでもこの場に留まっている男たちに、冷たい言葉を向けたのはレンである。
この国でΩに逆らえるものなんていない。
しかもレンはこの世で最も希少とされる、Ω男性体。
Ωを守ることが国民の義務とされるこの国での頂点は、Ω男性体だ。
男たちは、カイルに殴られ伸びた男を担ぎあげると、急ぎ足で路地から立ち去って行った。
「控えなくて平気だった?」
と、レン。
彼らの名前と素性のことである。
「ああ。誰だかなんてことはすぐにわかるさ」
───この国に無数にある監視カメラでな。
「それよりも」
と、カイルは振り返る。
数人の足音が聞こえてきたためだ。
「お迎えが来たみたいだ。クライス、立てるか?」
クライスは力なく頷くと、カイルに腕を引かれ立ち上がったのだった。
「レン、見張りだ」
暫く走行していると、ある路地の入口に見張りの者が立っているのが見えた。少し手前でバイクを停めると、ヘルメットを外し座席に置く。
「きっとここだね」
カイルはレンにここで待つように言おうとしたが、彼はじっと路地を見つめている。
置き去りにして何かあっては困ると考え直し、その手を掴むと歩き始めた。
「えっ⁈ カイル様?」
見張りの男を押しのけ先に進む。
カイルは皇子であることを剥奪されても、国民にとっては皇子に変わりなかった。触れることの出来ない高貴な身分の者を力づくで止めることなどできない。
ましてやレンはΩだ。地位はβよりも上である。
言葉を失い立ち尽くす男を無視し、カイルはレンに合図を送る。走るぞと言う合図だ。レンは頷くと、カイルに続いた。
予想通り、奥からクライスの声が聞こえ、二人は身構える。
「いやだ! 触るなっ」
αの力はβよりも格段に上。
それでも多勢に無勢と思われたが、クライスを押さえつける男たちを目にし、カイルは一瞬怯む。
「大人しくしろ!」
「っ」
どうやら一人二人では抑えつけることが無理だったようだ。
四人がかりでクライスを押さえつけていたが、彼は足で近づく男を押しやろうとしていた。
最悪の事態は免れたようで、後ろに立つレンがほっと溜息をつくのが分かる。
カイルはレンの手を放すと、クライスに覆いかぶさろうとしている男の背後に回り、おもむろにその辺にあった木の棒で殴り倒す。
「ぐはっ」
ドサッと音を立てて倒れ込む男。
クライスを押さえつけていた四人の男たちが、カイルを見上げ青ざめる。
カイルはわざとらしくため息をつくと、
「誰の許可を得て、俺のものに手を出しているんだ? その汚い手を放せ」
クライスを押さえつける一人を足で押しやると、他の者が震えながらクライスから手を放し、尻で後退った。
「これは、俺のαだ」
ボロボロになったシャツ、露出した肌。
目に涙を溜めカイルを見上げるクライスの腕を掴む。
「カイル……」
「家に帰ろう、クライス」
眉を寄せ切なげに見つめれば、彼はカイルにしがみついた。
「カイル……カイルッ」
カイルは彼の頭を抱え込み、その背中を撫でる。
「怖かったな。もう、大丈夫だから。守ってやれなくて、ごめんな」
髪を優しく撫で、抱きしめた。
「とっとと、散ってくれる?」
いつまでもこの場に留まっている男たちに、冷たい言葉を向けたのはレンである。
この国でΩに逆らえるものなんていない。
しかもレンはこの世で最も希少とされる、Ω男性体。
Ωを守ることが国民の義務とされるこの国での頂点は、Ω男性体だ。
男たちは、カイルに殴られ伸びた男を担ぎあげると、急ぎ足で路地から立ち去って行った。
「控えなくて平気だった?」
と、レン。
彼らの名前と素性のことである。
「ああ。誰だかなんてことはすぐにわかるさ」
───この国に無数にある監視カメラでな。
「それよりも」
と、カイルは振り返る。
数人の足音が聞こえてきたためだ。
「お迎えが来たみたいだ。クライス、立てるか?」
クライスは力なく頷くと、カイルに腕を引かれ立ち上がったのだった。
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