上 下
54 / 145
8話『第一皇子を巡る人々』

2 皇子の変化

しおりを挟む
****♡Side・β(カイル)

「ちょっ……なんかそれ、おかしくない?」
 ”いっぱいエッチな声出していいよ”とレンに言われ、カイルは困惑した。
「何もおかしくないでしょ?」
と彼は、カイルにもう一度ちゅっと口づけると、そっと離れる。
「そう言えば、クライスは独立記念日のこと知っているのかな……」
と、彼。

───そうだ、もうすぐ独立記念日。αにとっては地獄の日。

捜査依頼でこの国に滞在しているというのならば、一時帰国については警察のほうで手続きが行われるだろう。カイルはそんな風に考えており、警察のほうには確認をしなかった。このことが後に大事件に繋がるとも思わずに。

「前回が初入国とは言っていたが、この国についての基礎知識くらいはあるんじゃないか?」
と、カイル。
「うーん」
 彼は、カイルの考えには賛同できないようだ。
「僕らはずっとこの国にいるからそう思うかもしれないけど、よその国で暮らしていたら、習慣や法律って意外と知らないことの方が多いと思うし、何を知って置いたらいいかとなると、ガイドブック程度のことにしか気がまわらないんじゃないかな?」

 確かに、彼の言う事は一理ある。独立記念日は忌まわしい行事。何度もこの国に足を運んでいるαであれば、噂に聞いたことがあるだろうが、内容については自分で調べない限り親切に教えてくれる者などいない。
 αは個人主義なため、一々親切に教えたりはしないだろうし、βはαを恨んでいる。教える義理もなければ、暴徒の餌食になろうがお構いなしだ。

「どっちにしろ、一時帰国の予定は聞いておいた方がいいんじゃないかな?」
と、彼。
「そうだね。国境まで送迎の必要があるだろうし」
「最悪、外へ出なければなんとかなるとは思うけれど」
 窓を拭き終えた彼は、掃除道具を纏めるとカイルに向き直って。カイルはその言葉を受け、昨年の独立記念日のことを思い出す。
 どんなにαを憎んでいようとも、元皇族であるカイルは参加することができない。Ωであるレンはもちろんのこと。妹姫がなくなったのは一昨年であり、彼女が亡くなって初めての独立記念日であった。

 あの日のことは忘れない。
 前代未聞の数の国民が暴徒と化す。
 独立記念日のことを知らなかったα、逃げ遅れた者どものが軒並み犠牲となり、街にはあちこちに煙があがった。確かに自分もαに憎しみを感じていたが、人はそこまで残酷になれるのものなのだと感じたものだ。
「クライスは他のαとは違う」
 思わず呟いたカイルに、彼が一瞬驚いた表情をする。
「守ってやらないと」
「カイル」
「うん?」
 呼ばれて彼に視線を移すと、レンは優しい目をしこちらを見ていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...