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6話『運命を揺るがす出逢い』

7 客人のα

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****♡Side・β(カイル)

 それは、夕食時のこと。
 
「明日、お客さんが来るから」
 カイルは、先日の事件の目撃者について警察のほうから話を聞いていた。
 通常は守秘義務があり内容など漏らすことは禁じられているが、カイルは皇族でなくなった後も国民にとっては特別な人である。
 そのカイルの恋人であるΩが事件に巻き込まれたというのは、国にとっても一大事であった。カイルの妹姫の悲劇については、カイルを慕う国民にとって忘れられない事件。
 あの悲劇が再び訪れるのではないかと注目を浴びている。

「お客さん?」
 カイルの言葉にレンが不思議そうな顔をした。無理もない。カイルはこの国の民が訪ねてきても、お客さんとは言わない。
「うん、この間の事件の目撃者らしい」
「もしかして、αなの?」
「ああ。そうだよ」
 カイルが返事をすると、向かい側のウッドデッキに腰かけていた彼が徐に立ち上がり、カイルの隣に腰かけた。

「カイル、大丈夫だよ」
 妹姫のことを思い出し、αへの憎しみが蘇るカイルのことを心配した彼が、カイルの頬をそっと撫でる。カイルは優しい彼の肩を抱き寄せた。
「彼は情報を提供してくれる。大事な証言者だ。なのに、αと聞いただけで、沸き起こる憎しみをどうにもできない」
「カイル、僕が傍に居るよ」
「レン」
 カイルは空いている方の手で、彼の手を握りこむ。
「ねえ、もしそのαのせいでレンが発情してしまったら?」
 カイルの心配の正体に気づいた彼は、カイルの手をぎゅっと握り返した。まだ事件の全貌が分からないでいる。
 もし発情の原因が彼だったなら、それは”魂の番”以外にはあり得ない。
 ただ、その人物が目撃者という以上、どちらかと言うと尋ね人のαのほうが、”魂の番”の可能性が高いのではないか。

「カイルは、どうして尋ね人の方を疑わないの?」
 レンもまた、そう思ったようだ。
「それは……」
 カイルはその事についても、ずっと一人で考えていた。
 確かに自分は仕事でαの統治国家に出向くことはある。だが一日に二人も仕事の関係でαが訪ねてくるだろうか?
 後者の方は入管で審査を受け、α専用ホテルに泊まり、フロントで行き先を告げていることからもαであることは疑いようがない。
しかし先に訪ねて来た者は、自らαだと告げただけで、何処の誰であるかも分かっていないのだ。
 はたして本当にαなのだろうかと疑っても仕方のないことだろう。

「そう言う事なのか」
 カイルの推理を聞いていた彼が、納得の表情を浮かべる。
「確かに、そう考えると前者は発情の原因としては疑わしいね」
 ”ねえ、カイル”と、彼は続けた。
「だとしたら何故、最初に尋ねて来た人はαなんて嘘つく必要があったのかな?」
 その質問にカイルは答えることが出来なかった。
 αでなければ、その人物はβでしかあり得ない。この国ではΩが一人で出歩くことは出来ないからだ。

「目撃者の話を聞かない限り、これ以上の推理は難しそうだ」
「カイル、その人はいつ来る予定?」
「明日の朝だ。朝食を一緒にと約束している」
と、カイルが答えると、
「僕も同席しても?」
と、彼。
 カイルは渋い顔をしたが、
「身体に異変があったらすぐに退席するんだよ」
と、彼に約束を取り付け、同席を許可したのだった。
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