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1話『統治国家の奇跡の子』

4 初めて見るβ国

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****♡Side・α(クライス)

「ほんとに行くんだな?」
「ああ」
 βの独立国は予想以上にデカかった。とてつもない高い塀が、どれほどαを毛嫌いしているのかを表しているようで胸が痛い。しかしこれは自分たちの犯した、罪の結果なのだ。
「入国するのを見届けたら、三日後に迎えに来る。必要なものはちゃんと持ったか?」
と、そうに問われる。
「抗フェロモン剤は打ったし、ラット抑制剤もちゃんと多めに持ってる」
 この国でラット状態に陥れば、一巻の終わりだ。

────俺はヘマなんかしない。

 この時、クライスは簡単に考えていた。
 何故なら現αの統治国家では、ラット状態になることのほうが珍しい状況にあったからだ。つまり、そう簡単にΩに遭遇する機会がなかったのである。
 そのためクライスは、Ωのフェロモンに充てられたことはない。母はΩ女性体だが、α女性体の父と番になっているので、彼女が父以外に発情することもない。しかも番を持つΩのフェロモンは、他のαには感知できないのだ。以上のことからクライスは、Ωの放つフェロモンがどんなものなのか知り得なかったのである。

 βの独立国への入国審査で重要視されるのは、抗フェロモン剤が投与されているか、ラットが抑制できるかどうか。つまりαの統治国に比べ、Ωに遭遇する確率が格段に高くなることを表す。その審査さえ通れば不正入手した入国許可書でも、入国できる可能性を示している。確かにΩを連れ去ろうとする輩はいるが、金になるわけではない。

 βと違ってαは個人主義。そのうえラット状態になることを、とても嫌う。その理由は、彼らにとって”望まない番を持つこと”はなんの得にもならないから。

 例えばΩ女性体の発情期に繁殖行為(彼らにとっての性交には愛がないため、単なる繁殖行為とみなされる)を行えば100パーセント受精してしまう。しかしαが産まれる確率は限りなく低い上、αにはΩに対して支配欲というモノが備わっているため、相手が噛まれないようにする器具をつけていない限り(うなじを守るチョーカー、または首輪のようなもの)番となってしまう。
 そうなってしまうと番相手にしか発情しなくなってしまうため、代理母としての役目も難しくなってくるのだ。βが独立し国を去ったことにより、Ωが希少となった現在、αの統一国に置いて望まない番はαにとってもマイナスにしかならない。特に、Ω男性体などを番としてしまえば、国家自体が大打撃となる。彼らは貴重なαを生み出すための道具であった。

 「無事に入国できたは良いけれど。想像以上に広いな、この国は」
 βの独立国は、αの統一国とは全く違っていた。
 そこかしこに緑が溢れ、石畳の歩道に、レンガ作りのお洒落な街並み。人々が笑顔で行き交うような、幸せに溢れた街並みであった。
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