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8 優しい、その手【奏斗】
4 わからない本心
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「奏斗くん、美月さんと何かあったの?」
結菜が買い物をするというので、デッキにで手すりに寄りかりぼんやりと店の方を見ていると、買い物を終えた彼女が奏斗の元までやってきた。
「旅行から帰ってきてから、避けてるよね美月さんのこと」
「相変わらず聡明だな、探偵さんは」
”伊達にミステリーばかり読んでないから”と言いながら彼女が奏斗の横に並ぶ。
同じように店の方を眺めながら、
「わたしじゃ力になれませんか?」
と問う。
「ずっと力になってくれてたよ」
「そうかな」
結菜がいたからこそ、逃げ続けることが出来た。
もしフリーのままだったら、追い詰められてヨリを戻すという選択肢を選ぶしかなかっただろう。
愛美の要望に応え終わりにするという選択がいかに自分勝手なのか理解した。きちんと誠意をもって断るべきだったのだと。
「奏斗くんに一つだけ、お願いがあるの」
「うん?」
「もし、別れることになっても友達でいてくれる?」
結菜は初めから別れを覚悟しているのだ。
何だか切なくなって、その肩を抱き寄せる。
「約束するよ」
結菜といるのは正直、とても楽しい。ただ心のどこかで、互いに友達の延長でしかないことを感じていた。
恋人と呼ぶには拙すぎる。不器用で純粋な愛。
「なんとなくだけど、奏斗くんには好きな人がいるんじゃないかって思ってる」
自分でもよくわからないのに。
「年上の元カノさんのことが好きなんじゃないかなって」
「そうなの?」
他人ごとのように聞き返すと、彼女に変な顔をされた。
「まあ人は時として、自分のことでもわからないということはありますからね!」
大変呆れているようだ。
「奏斗くんはもう少し自己主張しないと、ロクな人生歩みませんよ」
「あー、はい」
十分自己主張しているつもりなのにと思いつつ、ポケットからスマホを取り出す。画面を見ると思ったよりも時間が経っていた。
「そろそろ帰ろう」
「うん」
駐車場に向かいながら、
「例の中古ショップどの辺?」
と彼女に問う。
「車に戻ったら地図に入力しとく」
「さんきゅ」
その後、結菜を送り届け帰宅すると妹の部屋の前を通るとき、チラリと花穂の貢ぎ物に目をやる。
結菜から聞くまであのぬいぐるみがそんなに高いものだとは思っていなかった。何故そんなものを妹にくれたのか謎だ。
──まさか本命は風花ってことはないよな?
自室に戻るとベッドに突っ伏し、ポケットを探る。
風花が本命で自分は出汁にされたのだとしたら……なんだかやるせない。
ベッドヘッドに手を伸ばしBluetoothイヤフォンを掴む。
「連絡、来ないな」
先日の花穂とのキス。まだその感触を思い出せるほどに彼女のことばかり考えている。それなのに自分から連絡する勇気はないのだ。
イヤフォンを耳に差し入れ、音楽アプリを開く。PCから取り込んだリスト。それはあの時購入したCDの曲だ。
今度こそ聞くことはできるだろうか?
聞きたいことを彼女に。
再生を押し、目を閉じれば音楽が心を包む。
たった数か月の関係。愛から始まったわけでない期間限定の関係に、確かに自分は安らぎを感じていた。
素っ気なくても、会えば彼女は自分だけを見てくれていたように思う。
あの時は身体の関係に罪悪感しか持っていなかったが、冷静な今ならわかる。花穂に求められることは苦痛ではなかった。
自分が感じているのは苦痛ではなく、空虚感や虚無感なのだ。
自分は確かに何かを感じていたはずなのに、彼女にとっては”特別”ではないこと。それが今の自分に影を落としている。
あの関係に意味が欲しいのだ。
嘘でもいいから”好きだった”と言ってくれたなら、どんなにか救われることだろう。
──遊ばれたなんて思いたくない。
”友達”と言う言葉に望みをかける。少なくとも友人になりたいと思うくらいには、自分といた時間を楽しいと思えたんだと。
結菜が買い物をするというので、デッキにで手すりに寄りかりぼんやりと店の方を見ていると、買い物を終えた彼女が奏斗の元までやってきた。
「旅行から帰ってきてから、避けてるよね美月さんのこと」
「相変わらず聡明だな、探偵さんは」
”伊達にミステリーばかり読んでないから”と言いながら彼女が奏斗の横に並ぶ。
同じように店の方を眺めながら、
「わたしじゃ力になれませんか?」
と問う。
「ずっと力になってくれてたよ」
「そうかな」
結菜がいたからこそ、逃げ続けることが出来た。
もしフリーのままだったら、追い詰められてヨリを戻すという選択肢を選ぶしかなかっただろう。
愛美の要望に応え終わりにするという選択がいかに自分勝手なのか理解した。きちんと誠意をもって断るべきだったのだと。
「奏斗くんに一つだけ、お願いがあるの」
「うん?」
「もし、別れることになっても友達でいてくれる?」
結菜は初めから別れを覚悟しているのだ。
何だか切なくなって、その肩を抱き寄せる。
「約束するよ」
結菜といるのは正直、とても楽しい。ただ心のどこかで、互いに友達の延長でしかないことを感じていた。
恋人と呼ぶには拙すぎる。不器用で純粋な愛。
「なんとなくだけど、奏斗くんには好きな人がいるんじゃないかって思ってる」
自分でもよくわからないのに。
「年上の元カノさんのことが好きなんじゃないかなって」
「そうなの?」
他人ごとのように聞き返すと、彼女に変な顔をされた。
「まあ人は時として、自分のことでもわからないということはありますからね!」
大変呆れているようだ。
「奏斗くんはもう少し自己主張しないと、ロクな人生歩みませんよ」
「あー、はい」
十分自己主張しているつもりなのにと思いつつ、ポケットからスマホを取り出す。画面を見ると思ったよりも時間が経っていた。
「そろそろ帰ろう」
「うん」
駐車場に向かいながら、
「例の中古ショップどの辺?」
と彼女に問う。
「車に戻ったら地図に入力しとく」
「さんきゅ」
その後、結菜を送り届け帰宅すると妹の部屋の前を通るとき、チラリと花穂の貢ぎ物に目をやる。
結菜から聞くまであのぬいぐるみがそんなに高いものだとは思っていなかった。何故そんなものを妹にくれたのか謎だ。
──まさか本命は風花ってことはないよな?
自室に戻るとベッドに突っ伏し、ポケットを探る。
風花が本命で自分は出汁にされたのだとしたら……なんだかやるせない。
ベッドヘッドに手を伸ばしBluetoothイヤフォンを掴む。
「連絡、来ないな」
先日の花穂とのキス。まだその感触を思い出せるほどに彼女のことばかり考えている。それなのに自分から連絡する勇気はないのだ。
イヤフォンを耳に差し入れ、音楽アプリを開く。PCから取り込んだリスト。それはあの時購入したCDの曲だ。
今度こそ聞くことはできるだろうか?
聞きたいことを彼女に。
再生を押し、目を閉じれば音楽が心を包む。
たった数か月の関係。愛から始まったわけでない期間限定の関係に、確かに自分は安らぎを感じていた。
素っ気なくても、会えば彼女は自分だけを見てくれていたように思う。
あの時は身体の関係に罪悪感しか持っていなかったが、冷静な今ならわかる。花穂に求められることは苦痛ではなかった。
自分が感じているのは苦痛ではなく、空虚感や虚無感なのだ。
自分は確かに何かを感じていたはずなのに、彼女にとっては”特別”ではないこと。それが今の自分に影を落としている。
あの関係に意味が欲しいのだ。
嘘でもいいから”好きだった”と言ってくれたなら、どんなにか救われることだろう。
──遊ばれたなんて思いたくない。
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