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5 向き合うべきもの【奏斗】
1 影を落とした過去
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「やっぱりショッピングサイトかな……」
奏斗はデパートの案内図を見上げ、ため息をつく。
ダウンロードが主流となって以来、音楽CDを置いているところがめっきり減った。その為、CDが欲しければ大型のショッピングサイトなどをあたる方が早い。
リサイクルショップなどに行けばいいのかもしれないが、奏斗が好むのは洋楽。探すのが手間だ。
事情があって一時期付き合っていた一つ上の元交際相手のことを思い出す。
彼女もまた洋楽ばかり聴く人だった。
その人の名は、『楠花穂』
愛美とも結菜とも違うタイプの女性。
『このシャウト、たまんないわよね』
彼女は身体にフィットした服装が多く、パンツスタイルを好んだ。すらりと長い脚にロングカーディガンの裾を靡かせ颯爽と歩く姿はモデルさながら。
彼女もまたK学園の学生。会おうと思えばきっと会えるだろうが、入学して半年以上経つが構内ですれ違ったことはない。
『ジャンルは何?』
洋楽は好きなものの、ジャンルなどには疎かった奏斗。
『これはメタルロックに分類されているらしいけれど』
何故曖昧なのか、踏み込まなかったのでわからない。
『奏斗はR&Bとかロックが好きなのね』
自分が聴いている音楽のジャンルについて考えたことはなかった。彼女に言われて初めて関心を持ったのだ。
好きという感情から始まった交際ではなかったが、年上とつき合うのは初めてで、たった一つの年齢差でどれほどの知識差があるのか学んだ。
良いことも学んだが、もちろん良くないことも学んだと思う。
それが自分に今、影を落としている。
彼女は映画好き。
よく一緒に映画を観に行った。
たった数か月という時間の中で、どれほどの映画を観ただろう。
映画館はそれなりの上映期間がある。大きなところはなおさら。
その為、初めて知る小さな映画館が多かった。
『映画館で観るにはやはり、限度があるわよね』
彼女も自分も実家暮らし。
特に彼女の家に行くのは都合が悪かった。そのため、レンタルしてきては車で観るということもしていたのだ。
今思い出しても、濃い時間だったなと思う。
”好きだから付き合う”
愛美の言葉を思い出し、あの交際に恋愛感情はあったのだろうか? と反芻する。だがどう考えても、二人の間に恋愛感情があったとは断言できそうになかった。
好きだと言われたことも、言ったこともなかったから。
期間限定でのおつきあい。
音楽を聴いて、映画を観て。そんな関係だけだったなら、きっと趣味友達として今も交流していただろう。
二人が交際関係にあったと決定づける事柄がある以上、奏斗は彼女を『元カノ』と称するしかなかった。
──俺はきっと遊ばれただけなんだ。
彼女は『好みのタイプ』といって近づいてきた割には、奏斗になんの執着もなければ、束縛もしない。
約束通りに時間が来れば、まるで何事もなかったかのように二人の関係は終わりを告げた。
こんな見た目だから女慣れしているのだと思われたかもしれないし、経験豊富だと勘違いされた可能性もある。
婚前の性交渉を望まない奏斗にとって、初めて肉体関係を求められたときは抵抗があった。
愛美との未来を思い描いた自分にとって、誠実さは捨てられないものだったから。
しかしこの交際に関しては『覚悟』を決めて臨んだはず。
当然、そういうことが起きる可能性も考えてはいた。
──愛美との未来を諦めたから、『愛美に対しての』誠実さを捨てる覚悟をしたんだ。こうなるなんて、思わなかったから。
一度一線を越えれば、会うたびに求められることは想像に難くない。
初めは抵抗を感じていた奏斗も、いつしか感覚がマヒした。
恋愛感情がなくても、人は快楽を感じるのだと知る。
たとえ、心に痛みしか感じなかったとしても。
──後悔しても、もう遅い。
時は戻らないし、なかったことにもならない。
仮に愛美がそれを赦してくれても、何も変わりはしない。
自分を赦せないのは自分なのだから。
誰が悪いわけでもない。
愛がなくても、人はそういうことができるのだと知っただけ。
そんな自分に落胆しただけなのだ。
奏斗はデパートの案内図を見上げ、ため息をつく。
ダウンロードが主流となって以来、音楽CDを置いているところがめっきり減った。その為、CDが欲しければ大型のショッピングサイトなどをあたる方が早い。
リサイクルショップなどに行けばいいのかもしれないが、奏斗が好むのは洋楽。探すのが手間だ。
事情があって一時期付き合っていた一つ上の元交際相手のことを思い出す。
彼女もまた洋楽ばかり聴く人だった。
その人の名は、『楠花穂』
愛美とも結菜とも違うタイプの女性。
『このシャウト、たまんないわよね』
彼女は身体にフィットした服装が多く、パンツスタイルを好んだ。すらりと長い脚にロングカーディガンの裾を靡かせ颯爽と歩く姿はモデルさながら。
彼女もまたK学園の学生。会おうと思えばきっと会えるだろうが、入学して半年以上経つが構内ですれ違ったことはない。
『ジャンルは何?』
洋楽は好きなものの、ジャンルなどには疎かった奏斗。
『これはメタルロックに分類されているらしいけれど』
何故曖昧なのか、踏み込まなかったのでわからない。
『奏斗はR&Bとかロックが好きなのね』
自分が聴いている音楽のジャンルについて考えたことはなかった。彼女に言われて初めて関心を持ったのだ。
好きという感情から始まった交際ではなかったが、年上とつき合うのは初めてで、たった一つの年齢差でどれほどの知識差があるのか学んだ。
良いことも学んだが、もちろん良くないことも学んだと思う。
それが自分に今、影を落としている。
彼女は映画好き。
よく一緒に映画を観に行った。
たった数か月という時間の中で、どれほどの映画を観ただろう。
映画館はそれなりの上映期間がある。大きなところはなおさら。
その為、初めて知る小さな映画館が多かった。
『映画館で観るにはやはり、限度があるわよね』
彼女も自分も実家暮らし。
特に彼女の家に行くのは都合が悪かった。そのため、レンタルしてきては車で観るということもしていたのだ。
今思い出しても、濃い時間だったなと思う。
”好きだから付き合う”
愛美の言葉を思い出し、あの交際に恋愛感情はあったのだろうか? と反芻する。だがどう考えても、二人の間に恋愛感情があったとは断言できそうになかった。
好きだと言われたことも、言ったこともなかったから。
期間限定でのおつきあい。
音楽を聴いて、映画を観て。そんな関係だけだったなら、きっと趣味友達として今も交流していただろう。
二人が交際関係にあったと決定づける事柄がある以上、奏斗は彼女を『元カノ』と称するしかなかった。
──俺はきっと遊ばれただけなんだ。
彼女は『好みのタイプ』といって近づいてきた割には、奏斗になんの執着もなければ、束縛もしない。
約束通りに時間が来れば、まるで何事もなかったかのように二人の関係は終わりを告げた。
こんな見た目だから女慣れしているのだと思われたかもしれないし、経験豊富だと勘違いされた可能性もある。
婚前の性交渉を望まない奏斗にとって、初めて肉体関係を求められたときは抵抗があった。
愛美との未来を思い描いた自分にとって、誠実さは捨てられないものだったから。
しかしこの交際に関しては『覚悟』を決めて臨んだはず。
当然、そういうことが起きる可能性も考えてはいた。
──愛美との未来を諦めたから、『愛美に対しての』誠実さを捨てる覚悟をしたんだ。こうなるなんて、思わなかったから。
一度一線を越えれば、会うたびに求められることは想像に難くない。
初めは抵抗を感じていた奏斗も、いつしか感覚がマヒした。
恋愛感情がなくても、人は快楽を感じるのだと知る。
たとえ、心に痛みしか感じなかったとしても。
──後悔しても、もう遅い。
時は戻らないし、なかったことにもならない。
仮に愛美がそれを赦してくれても、何も変わりはしない。
自分を赦せないのは自分なのだから。
誰が悪いわけでもない。
愛がなくても、人はそういうことができるのだと知っただけ。
そんな自分に落胆しただけなのだ。
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