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2──解かれていく真実
♡8『瀬戸の事情』
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****♡Side・咲夜
「サクヤ。ちょっといいか?」
それは久隆が席を立った時であった。瀬戸から声をかけられた咲夜はびくりと肩を震わす。もしかしたらライバル宣言かもしれないと思いつつも、彼の方へ表を向ける。
「折り入って頼みたいことがあるんだ」
瀬戸の真剣な眼差し。
咲夜たちに会いに来た理由を『ただ逢いたかっただけ』などと言っていた彼。てっきり久隆に会いたいからだと思ったが、どうやら用があるのは自分の方らしい。
瀬戸が四年前に失踪した兄を捜しているという話は咲夜も知っている。そして妹がAGというゲーム内で使用しているアバターが彼の兄の子供の頃にそっくりであることも。
そうなると妹関連の話であろうか。
「俺が兄を捜すためにAGをプレイしているという話はサクヤも知ってるよな?」
「ええ、聴いています」
妹の父親が誰なのかは謎。そしてその謎だった父親として彼の兄の可能性が出てきたことは瀬戸本人から聞かされたことだ。もちろんそれはまだ憶測に過ぎない。
「妹さんに聞いて欲しいことがあるんだ」
「美桜に」
「そう」
瀬戸は頷いた。
「直接聞けたらいいのだが、俺は彼女のことを探るなとjokerに釘を刺されている」
それは彼女が規約違反をしているからだ。AGは年齢制限が設けられており、年齢以下のものが年を偽って登録することは規約違反になる。
だからと言って彼女はそこまでしてゲームをしたいわけではない。生き別れた兄に会いたい一心でゲームをしているのだ。
それを知っているからこそ、美桜の保護者のように常に一緒に行動している『joker』は彼女のアカウントを守ろうとしている。
咲夜とて、現実世界で逢えるようになったとはいってもゲーム内で気軽に会えなくなるのは嫌だった。
「彼が懸念しているのは評議会ですよね」
「ああ。あの連中に知れたら垢バンは避けられない。俺も彼女が垢バンになることは望んでいない」
恋のライバルとはいえ、彼が悪い人ではないことくらい咲夜にもわかっている。彼の目的はあくまでも兄を見つけることであって、他人を貶めることではない。
「jokerに聞けたらいいのだろうけれど、正体がわからないし」
やり取りの内容は記録として残る。瀬戸がAG内で特殊な存在だとしても、データの改ざんは出来ないだろう。それこそ規約違反になってしまう。そうなってしまっては本末転倒。
そうは言っても、リアルスキャンという形式を使ったアバタースタイルの場合は身バレすることもあるが、jokerに限ってはその辺のセキュリティもしっかりしていた。
もちろんその形式を選択できるのは18歳以上。成人していることが条件となる。つまり何があっても自己責任ということだ。
瀬戸たちがリアルでも会う関係になったのは咲夜と利久が親戚関係であり、海斗と久隆も親戚関係だったからだ。つまりアバターから身バレしたケース。
そしてゲーム内ではqueenと呼ばれている【音羽薫】はjackこと【神楽優羽】とリアルでの知り合い。その上、kingと呼ばれている【南和仁】とリア友だという。
南は久隆の家のコック長を務めており、そこから連鎖して身バレしたということだ。この三人は咲夜と同じ調停者のメンバー。
だがjokerだけは素性が分からないまま。
「そうですね。リアルでコンタクトを取れたらいいですけど」
「まあ、簡単には行かないだろうな」
隣でため息をつく瀬戸。
K学園はそんなに煩い校風ではないが、指定のワイシャツを着ることなくジャケットの中にフード付きのトレーナーを着ているものはそうそういない。
瀬戸の場合は顔を隠すためにフード付きを着ているらしいが、瀬戸の日常を理解している教師からはむしろ顔を隠しておけと同情されていると言う。
愁いを纏う彼は一段と美しさに磨きがかかっているように感じる。
「で、頼みとは?」
「ああ、そうだった」
瀬戸はハッとしたように咲夜に向き合ったのだった。
「サクヤ。ちょっといいか?」
それは久隆が席を立った時であった。瀬戸から声をかけられた咲夜はびくりと肩を震わす。もしかしたらライバル宣言かもしれないと思いつつも、彼の方へ表を向ける。
「折り入って頼みたいことがあるんだ」
瀬戸の真剣な眼差し。
咲夜たちに会いに来た理由を『ただ逢いたかっただけ』などと言っていた彼。てっきり久隆に会いたいからだと思ったが、どうやら用があるのは自分の方らしい。
瀬戸が四年前に失踪した兄を捜しているという話は咲夜も知っている。そして妹がAGというゲーム内で使用しているアバターが彼の兄の子供の頃にそっくりであることも。
そうなると妹関連の話であろうか。
「俺が兄を捜すためにAGをプレイしているという話はサクヤも知ってるよな?」
「ええ、聴いています」
妹の父親が誰なのかは謎。そしてその謎だった父親として彼の兄の可能性が出てきたことは瀬戸本人から聞かされたことだ。もちろんそれはまだ憶測に過ぎない。
「妹さんに聞いて欲しいことがあるんだ」
「美桜に」
「そう」
瀬戸は頷いた。
「直接聞けたらいいのだが、俺は彼女のことを探るなとjokerに釘を刺されている」
それは彼女が規約違反をしているからだ。AGは年齢制限が設けられており、年齢以下のものが年を偽って登録することは規約違反になる。
だからと言って彼女はそこまでしてゲームをしたいわけではない。生き別れた兄に会いたい一心でゲームをしているのだ。
それを知っているからこそ、美桜の保護者のように常に一緒に行動している『joker』は彼女のアカウントを守ろうとしている。
咲夜とて、現実世界で逢えるようになったとはいってもゲーム内で気軽に会えなくなるのは嫌だった。
「彼が懸念しているのは評議会ですよね」
「ああ。あの連中に知れたら垢バンは避けられない。俺も彼女が垢バンになることは望んでいない」
恋のライバルとはいえ、彼が悪い人ではないことくらい咲夜にもわかっている。彼の目的はあくまでも兄を見つけることであって、他人を貶めることではない。
「jokerに聞けたらいいのだろうけれど、正体がわからないし」
やり取りの内容は記録として残る。瀬戸がAG内で特殊な存在だとしても、データの改ざんは出来ないだろう。それこそ規約違反になってしまう。そうなってしまっては本末転倒。
そうは言っても、リアルスキャンという形式を使ったアバタースタイルの場合は身バレすることもあるが、jokerに限ってはその辺のセキュリティもしっかりしていた。
もちろんその形式を選択できるのは18歳以上。成人していることが条件となる。つまり何があっても自己責任ということだ。
瀬戸たちがリアルでも会う関係になったのは咲夜と利久が親戚関係であり、海斗と久隆も親戚関係だったからだ。つまりアバターから身バレしたケース。
そしてゲーム内ではqueenと呼ばれている【音羽薫】はjackこと【神楽優羽】とリアルでの知り合い。その上、kingと呼ばれている【南和仁】とリア友だという。
南は久隆の家のコック長を務めており、そこから連鎖して身バレしたということだ。この三人は咲夜と同じ調停者のメンバー。
だがjokerだけは素性が分からないまま。
「そうですね。リアルでコンタクトを取れたらいいですけど」
「まあ、簡単には行かないだろうな」
隣でため息をつく瀬戸。
K学園はそんなに煩い校風ではないが、指定のワイシャツを着ることなくジャケットの中にフード付きのトレーナーを着ているものはそうそういない。
瀬戸の場合は顔を隠すためにフード付きを着ているらしいが、瀬戸の日常を理解している教師からはむしろ顔を隠しておけと同情されていると言う。
愁いを纏う彼は一段と美しさに磨きがかかっているように感じる。
「で、頼みとは?」
「ああ、そうだった」
瀬戸はハッとしたように咲夜に向き合ったのだった。
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