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1──勘違いとすれ違い

♡2『奪われた想い』

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 ****♡Side・大崎 久隆

 ──君が好きだった。
  君は知らないでしょ、ずっとみてたこと。
  憧れを抱いて、いつか君の瞳に映りたいただそれだけだったのに。
  どうしてこうなってしまったのだろう?

  感情がまるで急流にでも流されたかのように突然何かに奪われた。
  それだけなら良かった、誰も苦しまなくて済んだ。

  なのに、君を傷つけて。
  君の初めてを奪って。
  心がボロボロになって。
  自分すら信じられなくなった。

 『霧島 咲夜』

 ──君は自分の価値を知らない。
  皆に羨望の眼差しを向けられていることも。
  どんなに目立たないように地味なふりをしても、君の綺麗な立ち姿。その容姿、志は隠せない。
  大人っぽくて、みんなとは違う空気をもっている。
  君の微笑みはまるで柔らかく暖かい春風のようだ。

  あの日中庭で泣いていた俺に声をかけてくれたのは君だったね。

  お礼さえ言えないまま二年に上がった。
  何故君に対してだけ意気地無しになってしまうのだろう?
  どうして俺にだけ話しかけてはくれないのだろう?

  君の視界に俺は入らないのかな。
  気分がどんどん落ち込んでいった。

  嫌われてるかも知れない。
  お礼も言えない人間だもの。
  当然だろうか?

  確かに彼女のことで塞いだ。
  でも、それ以上に彼に話しかけることができない自分に苛立ちがあった。
  その彼がAGというオンラインゲームをしていることを知る。

   ****

 それは、ただただ彼に会いたい一心。
 ”リアルじゃなければ気さくに話しかけることができるかもしれない”と信じて、久隆はバーチャルリアリティオンラインゲーム、AGを始めた。
 はじめた当初は右も左もわからなくて彼を探すどころではなかったが一ヶ月くらいしてなれた頃、迷い混んだ上級者向けの砂漠フィールドで彼を見かけた。

  その日も遠くから彼が戦う様を見ながら思い出すのは、クラスの誰かが”彼はすごいプレイヤーなのだ”と言っていたことだ。
「話しかけられるわけないじゃん……」
 ”咲夜は凄いプレイヤーだ”と教えてくれた子が『一緒に遊べば?』などと軽く言うものだから、余計に悲しくなる。
「俺、霧島に何かしたのかな……」
 久隆は岩の上で膝をおって座り、頬杖をつき咲夜を見つめていた。
「ほんとカッコいい……」
 ため息が漏れる。
「話しかけたいのにな」
 咲夜はいつもクラスメイトに囲まれていて人気者。教室で彼を見ているとたまに目が合う。そんな時はとても優しい笑顔を向けてはくれるが、話しかけては来ない。

 【霧島咲夜】は現在生徒会副会長をしていて成績も優秀な学外からの特待生。さらさらのストレートヘアーにメガネをかけており、眉目秀麗の美男子で真面目そうに見えるが意外と冗談なども言うらしい。
 久隆は、彼の長めの前髪が俯く度にハラリと落ちる様や綺麗な立ち姿がとても好き。彼の笑顔はとても優しげで、クラスメイトみんなと仲がいい。

 ”ただ一人、自分を除いては”

 学校でも相変わらず咲夜に話しかけることができない。以前受け取った咲夜からのハンカチ。たまに頬に充てては想いを馳せる。返せないまま。チャンスもない。彼の目に入らない自分。
 祈るような気持ちで彼を見つめていれば、
「っ!」
 目が合った。何故か極上の笑みを浮かべてこちらを見ている。

 ──うう……。
  社交辞令みたいなものなのかな……
  友達になりたいのに。
  ううん、あの笑顔を独り占めしたいよ。

 淡い淡い恋心。
 だが、チャンスは突然やってくるのだ。
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