21 / 47
4『交わる愛と想い』
5 まだ終わってはいない
しおりを挟む
****side■黒岩(総括)
『修二はあんたに渡さない。諦めてください』
はっきりと板井はそう言った。
「修二……ね」
黒岩はスマホに目を落としたまま、ため息をついた。
後悔しなかったことなんてない。自分は板井のように一途に待つことが出来なかったに過ぎない。
今日は妻も子供も妻の実家に泊まることになっていた。
黒岩は胸ポケットにスマホをしまうと、自宅へ向けて歩き出す。
庭付き一戸建ての自宅へ着くと、ポケットから鍵を取り出しガレージへ向かう。こんな日は一人、家の中にいても落ち着かないだろう。
シャッターをあげ、広いガレージのライトをつけると脇の階段を上り自宅へ。準備をしてすぐに出かけるつもりであった。
──唯野と出かけたのは、いつだったろうか?
もちろん車で出かけたことなどない。今でこそ避けられてもいるが、苦情係が出来るまでは呑みに行ったりもしたものだ。
鞄を部屋に置き、シャワーをしようと脱衣所へ向かう。
ネクタイに指をかけながら、唯野のことを思った。彼の電話に板井が出たのだから、今は一緒にいるはず。
いつからだろう。唯野が板井を特別な目で見るようになったのは。
初めは塩田を気に入っているのだと思っていた。
──塩田とどうこうなるとは、思っていなかった。
皇が塩田を気に入っていたし、唯野はあまり苦情係に居なかったようだから。
浴室へ足を踏み入れ、シャワーのコックを捻る。
熱めの湯を浴び、雑念を払おうとするが頭の中は唯野のことでいっぱいだった。
唯野は妻を裏切るような奴じゃない。そう、思っていたのだ。あの婚姻が不審であっても。唯野とはそういう人物だったから。
真面目で自分を簡単に犠牲にするような、お人よし。
──理想を押し付けていただけなのか?
壁に背を預け目を閉じる。
瞼の奥に浮かび上がるのは、板井に抱かれる唯野の姿だった。
それは自分が欲しかったもの。手に入れるはずだったもの。
──板井のヤツ。
唯野の身体を好きにしているなんて。
分かってはいるのだ。唯野には板井のような奴がお似合いなことくらい。
自分から何かを望んだりしないから、察してくれるような気の利く人間でないと合わないこと。それが自分とは正反対だということも。
それでも、自分は唯野が欲しかったのだ。
黒岩は深いため息をつくと、コックを捻り湯を止めた。鏡に映る自分を見てゲンナリしながら。
「たかが少し、妄想したくらいでこんなになるんて」
己の下半身に目を向け、肩を竦めるとシャワー室を出た。
自身で慰める趣味はない。しかし、唯野の代わりを妻に求める自分が最低なことも分かっていた。
「浮気しているんだろうな、あいつ」
タオルで全身を拭いながら、ふと呟く。
営業時代も総括である今も、忙しくて定時に家に帰ったことなどなかった。
もっとも、早く帰れたとしても唯野を誘い呑みに行っていたような自分だ。愛想を尽かされていたとしても不思議はない。
たまに妻にかかってくる電話相手の中に、彼女の地元の同級生がいることも知っていた。その相手は男性。実家に帰るついでに会っているのだろう。
その旨を妻の母、自分にとっての義母から聞いたことがある。
子供がいる以上、離婚は望ましくはない。気づいていないフリを続けることで、表向きは巧く行っているのだ。
それ以前に、妻の不貞に関心がないほど自分は唯野に夢中だったのである。
「まあ、人のことは言えないしな」
黒岩は着衣を整えると、髪を乾かしリビングへ向かったのだった。
『修二はあんたに渡さない。諦めてください』
はっきりと板井はそう言った。
「修二……ね」
黒岩はスマホに目を落としたまま、ため息をついた。
後悔しなかったことなんてない。自分は板井のように一途に待つことが出来なかったに過ぎない。
今日は妻も子供も妻の実家に泊まることになっていた。
黒岩は胸ポケットにスマホをしまうと、自宅へ向けて歩き出す。
庭付き一戸建ての自宅へ着くと、ポケットから鍵を取り出しガレージへ向かう。こんな日は一人、家の中にいても落ち着かないだろう。
シャッターをあげ、広いガレージのライトをつけると脇の階段を上り自宅へ。準備をしてすぐに出かけるつもりであった。
──唯野と出かけたのは、いつだったろうか?
もちろん車で出かけたことなどない。今でこそ避けられてもいるが、苦情係が出来るまでは呑みに行ったりもしたものだ。
鞄を部屋に置き、シャワーをしようと脱衣所へ向かう。
ネクタイに指をかけながら、唯野のことを思った。彼の電話に板井が出たのだから、今は一緒にいるはず。
いつからだろう。唯野が板井を特別な目で見るようになったのは。
初めは塩田を気に入っているのだと思っていた。
──塩田とどうこうなるとは、思っていなかった。
皇が塩田を気に入っていたし、唯野はあまり苦情係に居なかったようだから。
浴室へ足を踏み入れ、シャワーのコックを捻る。
熱めの湯を浴び、雑念を払おうとするが頭の中は唯野のことでいっぱいだった。
唯野は妻を裏切るような奴じゃない。そう、思っていたのだ。あの婚姻が不審であっても。唯野とはそういう人物だったから。
真面目で自分を簡単に犠牲にするような、お人よし。
──理想を押し付けていただけなのか?
壁に背を預け目を閉じる。
瞼の奥に浮かび上がるのは、板井に抱かれる唯野の姿だった。
それは自分が欲しかったもの。手に入れるはずだったもの。
──板井のヤツ。
唯野の身体を好きにしているなんて。
分かってはいるのだ。唯野には板井のような奴がお似合いなことくらい。
自分から何かを望んだりしないから、察してくれるような気の利く人間でないと合わないこと。それが自分とは正反対だということも。
それでも、自分は唯野が欲しかったのだ。
黒岩は深いため息をつくと、コックを捻り湯を止めた。鏡に映る自分を見てゲンナリしながら。
「たかが少し、妄想したくらいでこんなになるんて」
己の下半身に目を向け、肩を竦めるとシャワー室を出た。
自身で慰める趣味はない。しかし、唯野の代わりを妻に求める自分が最低なことも分かっていた。
「浮気しているんだろうな、あいつ」
タオルで全身を拭いながら、ふと呟く。
営業時代も総括である今も、忙しくて定時に家に帰ったことなどなかった。
もっとも、早く帰れたとしても唯野を誘い呑みに行っていたような自分だ。愛想を尽かされていたとしても不思議はない。
たまに妻にかかってくる電話相手の中に、彼女の地元の同級生がいることも知っていた。その相手は男性。実家に帰るついでに会っているのだろう。
その旨を妻の母、自分にとっての義母から聞いたことがある。
子供がいる以上、離婚は望ましくはない。気づいていないフリを続けることで、表向きは巧く行っているのだ。
それ以前に、妻の不貞に関心がないほど自分は唯野に夢中だったのである。
「まあ、人のことは言えないしな」
黒岩は着衣を整えると、髪を乾かしリビングへ向かったのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる