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4『交わる愛と想い』

5 まだ終わってはいない

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****side■黒岩(総括)

『修二はあんたに渡さない。諦めてください』
 はっきりと板井はそう言った。

「修二……ね」
 黒岩はスマホに目を落としたまま、ため息をついた。
 後悔しなかったことなんてない。自分は板井のように一途に待つことが出来なかったに過ぎない。
 今日は妻も子供も妻の実家に泊まることになっていた。
 黒岩は胸ポケットにスマホをしまうと、自宅へ向けて歩き出す。

 庭付き一戸建ての自宅へ着くと、ポケットから鍵を取り出しガレージへ向かう。こんな日は一人、家の中にいても落ち着かないだろう。
 シャッターをあげ、広いガレージのライトをつけると脇の階段を上り自宅へ。準備をしてすぐに出かけるつもりであった。

──唯野と出かけたのは、いつだったろうか?

 もちろん車で出かけたことなどない。今でこそ避けられてもいるが、苦情係が出来るまでは呑みに行ったりもしたものだ。
 鞄を部屋に置き、シャワーをしようと脱衣所へ向かう。
 ネクタイに指をかけながら、唯野のことを思った。彼の電話に板井が出たのだから、今は一緒にいるはず。
 いつからだろう。唯野が板井を特別な目で見るようになったのは。
 初めは塩田を気に入っているのだと思っていた。

──塩田とどうこうなるとは、思っていなかった。
 皇が塩田を気に入っていたし、唯野はあまり苦情係に居なかったようだから。

 浴室へ足を踏み入れ、シャワーのコックを捻る。
 熱めの湯を浴び、雑念を払おうとするが頭の中は唯野のことでいっぱいだった。
 唯野は妻を裏切るような奴じゃない。そう、思っていたのだ。あの婚姻が不審であっても。唯野とはそういう人物だったから。
 真面目で自分を簡単に犠牲にするような、お人よし。

──理想を押し付けていただけなのか?

 壁に背を預け目を閉じる。
 瞼の奥に浮かび上がるのは、板井に抱かれる唯野の姿だった。
 それは自分が欲しかったもの。手に入れるはずだったもの。

──板井のヤツ。
 唯野の身体を好きにしているなんて。

 分かってはいるのだ。唯野には板井のような奴がお似合いなことくらい。
 自分から何かを望んだりしないから、察してくれるような気の利く人間でないと合わないこと。それが自分とは正反対だということも。
 それでも、自分は唯野が欲しかったのだ。
 黒岩は深いため息をつくと、コックを捻り湯を止めた。鏡に映る自分を見てゲンナリしながら。

「たかが少し、妄想したくらいでこんなになるんて」
 己の下半身に目を向け、肩を竦めるとシャワー室を出た。
 自身で慰める趣味はない。しかし、唯野の代わりを妻に求める自分が最低なことも分かっていた。
「浮気しているんだろうな、あいつ」
 タオルで全身を拭いながら、ふと呟く。
 営業時代も総括である今も、忙しくて定時に家に帰ったことなどなかった。
 もっとも、早く帰れたとしても唯野を誘い呑みに行っていたような自分だ。愛想を尽かされていたとしても不思議はない。

 たまに妻にかかってくる電話相手の中に、彼女の地元の同級生がいることも知っていた。その相手は男性。実家に帰るついでに会っているのだろう。
 その旨を妻の母、自分にとっての義母から聞いたことがある。
 子供がいる以上、離婚は望ましくはない。気づいていないフリを続けることで、表向きは巧く行っているのだ。
 それ以前に、妻の不貞に関心がないほど自分は唯野に夢中だったのである。
「まあ、人のことは言えないしな」
 黒岩は着衣を整えると、髪を乾かしリビングへ向かったのだった。
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