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3『進展しない二人に』
3 嫌な予感
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****side■板井
「ん?」
唯野にメッセージを送った板井は、しばらくしても返信がないことを不審に思っていた。
スマホの時計に視線を移せば、まだ時刻は二十一時前。
彼は真っ直ぐ家に帰ったはずである。仮にどこかで夕食を取ったとしても、風呂は済ませているはずだ。
それなのに三十分以上待っても返信が来ないのは珍しい。唯野はどんな些細なことにも返信をくれる上司である。
恋人ならなおさら、無視するとは考えにくい。
「あら、お帰り?」
板井が椅子から立ち上がり身支度を整えるのを見て、店のママが板井の方に近づいて来た。
「お会計を」
とスマホを軽く掲げる板井。
「珍しいわねえ。いつもはもっとゆっくりしていくのに」
レジを操作しながら彼女は言う。
「ちょっと気になることがあるので」
板井は会計を済ますと、足早に店を出た。
ここに来る前はまだ明るかったが、当然のことながらすっかり日が落ちている。こんなに唯野のことが気になるのなら、初めから食事にでも誘えば良かったと今更ながら後悔した。
彼の降りた駅は一つ隣。車でならすぐであるが、呑んでしまっていたため運転はできない。
はやる気持ちをどうにか静め、駅へ向かう。唯野の自宅マンションは駅から近い。まだ行ったことはなかったが、場所は聞いていた。
定期を改札口で当て、ホームへ向かう。
見上げた電光掲示板は、五分後に列車が到着することを告げていた。
──たった五分が、こんなに長く感じるなんて。
スマホの待ち受け画面を確認するが、唯野からの連絡はまだない。五分の間に何かできることはないだろうかと考えを巡らせる。焦っている時は、どうしてこうも頭が正常に働かないのだろうか?
電話をしてみることを思いついたのは、ホームに列車が入ってくるのと同時だった。
──何故、こんなにも胸騒ぎがするのだろうか?
金曜日の夜と言えば、よく唯野と帰りに呑みに行ったものだ。今日、そうしなかったのは恋人になったばかりなのに、自制が利きそうになかったからだ。
うっかり先走って、嫌われるのが怖かったし、フラれるも嫌だった。
告白して二週間。返事を貰えなくてずっとヤキモキしていた。このまま返事が貰えずうやむやになるのではないかと不安でもあった。
だからこそ、焦らず彼のペースに合わせようと思ったのだ。
それは間違いだったのだろうか?
たった一駅がいつもの何倍の時間にも感じていた。滑るように列車が駅に到着する。降りる時間ももどかしく、板井はスマホを操作しながら駅のホームに降り立つ。この時間は幾分か乗客が少ない。
「え? 通話中?」
電話に唯野が出られない可能性は考えてはいたが、通話中であることは想像していなかったのだ。
板井は彼の自宅マンションに向かいながらふと、まさかずっと電話中だったのだろうか? と思った。だとしたら、相手は誰だろうか。
──社長が課長に対してパワハラを日常的に繰り返していることは知っている。しかし、一度だってこんな時間にかけてきたのを見たことはない。
だとするなら……。
唯野の通話の相手は、主に会社の人間であり同じ部署の者の可能性が高い。だが同僚の電車も塩田も長電話をするタイプではない。
そうなると同じ部署ではない人間。副社長か総括黒岩のどちらかであろう。
彼の自宅マンションが近づいてきた頃、聞きなれた声が聞こえてきた。その声は何か揉めているようにも感じられた。
さらに声に近づくと、
「俺だって……会いたいよ」
愛しい人の声で信じられない言葉が。
──は?
「ん?」
唯野にメッセージを送った板井は、しばらくしても返信がないことを不審に思っていた。
スマホの時計に視線を移せば、まだ時刻は二十一時前。
彼は真っ直ぐ家に帰ったはずである。仮にどこかで夕食を取ったとしても、風呂は済ませているはずだ。
それなのに三十分以上待っても返信が来ないのは珍しい。唯野はどんな些細なことにも返信をくれる上司である。
恋人ならなおさら、無視するとは考えにくい。
「あら、お帰り?」
板井が椅子から立ち上がり身支度を整えるのを見て、店のママが板井の方に近づいて来た。
「お会計を」
とスマホを軽く掲げる板井。
「珍しいわねえ。いつもはもっとゆっくりしていくのに」
レジを操作しながら彼女は言う。
「ちょっと気になることがあるので」
板井は会計を済ますと、足早に店を出た。
ここに来る前はまだ明るかったが、当然のことながらすっかり日が落ちている。こんなに唯野のことが気になるのなら、初めから食事にでも誘えば良かったと今更ながら後悔した。
彼の降りた駅は一つ隣。車でならすぐであるが、呑んでしまっていたため運転はできない。
はやる気持ちをどうにか静め、駅へ向かう。唯野の自宅マンションは駅から近い。まだ行ったことはなかったが、場所は聞いていた。
定期を改札口で当て、ホームへ向かう。
見上げた電光掲示板は、五分後に列車が到着することを告げていた。
──たった五分が、こんなに長く感じるなんて。
スマホの待ち受け画面を確認するが、唯野からの連絡はまだない。五分の間に何かできることはないだろうかと考えを巡らせる。焦っている時は、どうしてこうも頭が正常に働かないのだろうか?
電話をしてみることを思いついたのは、ホームに列車が入ってくるのと同時だった。
──何故、こんなにも胸騒ぎがするのだろうか?
金曜日の夜と言えば、よく唯野と帰りに呑みに行ったものだ。今日、そうしなかったのは恋人になったばかりなのに、自制が利きそうになかったからだ。
うっかり先走って、嫌われるのが怖かったし、フラれるも嫌だった。
告白して二週間。返事を貰えなくてずっとヤキモキしていた。このまま返事が貰えずうやむやになるのではないかと不安でもあった。
だからこそ、焦らず彼のペースに合わせようと思ったのだ。
それは間違いだったのだろうか?
たった一駅がいつもの何倍の時間にも感じていた。滑るように列車が駅に到着する。降りる時間ももどかしく、板井はスマホを操作しながら駅のホームに降り立つ。この時間は幾分か乗客が少ない。
「え? 通話中?」
電話に唯野が出られない可能性は考えてはいたが、通話中であることは想像していなかったのだ。
板井は彼の自宅マンションに向かいながらふと、まさかずっと電話中だったのだろうか? と思った。だとしたら、相手は誰だろうか。
──社長が課長に対してパワハラを日常的に繰り返していることは知っている。しかし、一度だってこんな時間にかけてきたのを見たことはない。
だとするなら……。
唯野の通話の相手は、主に会社の人間であり同じ部署の者の可能性が高い。だが同僚の電車も塩田も長電話をするタイプではない。
そうなると同じ部署ではない人間。副社長か総括黒岩のどちらかであろう。
彼の自宅マンションが近づいてきた頃、聞きなれた声が聞こえてきた。その声は何か揉めているようにも感じられた。
さらに声に近づくと、
「俺だって……会いたいよ」
愛しい人の声で信じられない言葉が。
──は?
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