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3・異変に気付くとき
30・予想が確信へと変わる
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「ねえ、佐倉」
ボードの後ろに乗っていた美桜は街中に入ると小声になる。
「なんでしょう」
「ここ良く来るけれど、あんな人たち居た?」
それは佐倉も感じていたことだ。
ますます自分の立てた推理であり憶測に信ぴょう性が伴う。
オンラインゲームにはイツ面というものが必ずいる。ゲームの世界は自分たちが思っている以上に狭いものだ。なのでたくさんのサーバーを持つサイトもあるだろう。だがAGにはサーバーは一つのみ。
見たことのない人ばかりというのはちょっと引っかかる。
もちろん、よく見かける人たちは古参であり管理塔に状況を確認に行ったということも考えられるが。
「美桜。これはまだ憶測に過ぎませんが、ここはわたしたちの知っているAGではない可能性があります」
美桜は”え”と短く言葉を発したのち、口を噤んだ。
彼女にはまだ難しかったろうかと思っていると、
「そうかなとは思ってた」
と美桜。
幼いと侮ってはいけないと改めと思った。
美桜は父違いの兄に会いたくてこのゲームを始めたのだ。年齢を偽り一人で兄を探すために。個人差はあるが十歳になるあたりから成長の仕方は大きく変わると思われる。
自分の時を思い出しても小学三年あたりから記憶に残っていることが多いように感じた。
人を大きく成長させるのは『恋』と言う感情だと思う。
脳には男女差がないというが、恋をしやすいのはやはり女性。
男性は本能の方が勝る。その為、恋という感情よりも性に関心が向きやすい。恋は心を育て思考力を発達させるものだ。
恋は思いやりを育て、容姿にも気を配る気持ちも育てる。
美桜にとって大好きな兄に会いたいという気持ちは”恋”と同じような効果があったのだろう。
その証拠に彼女はとても聡明であり、理解も早い。
「アバターが解かれたでしょ?」
先ほど美桜がリアルと同じ姿になってしまったことを指しているのだろう。
「なんかおかしいなって思った。だってスキャンをしたことがないから」
その話は彼女から聞いて知っていた。
「わたしももう一点あり得ない現象を目撃しました」
確かにこの世界には風という概念はある。
だがあんな風に自然かつ滑らかに髪が風に靡《なび》くなどという現象は起こりえないのだ。
そのことを話すと美桜は眉をよせた。
「ねえ、佐倉。もしかしてこれは『リアル』ってやつなの?」
「考えたくはありませんが、わたしはそう思ってます」
ボードが街を抜ける。次の街まで敵への警戒は怠れない。
「それって、怪我したら痛かったり死んじゃうってこと?」
今まではゲームという世界の中にいた。確かにライフポイントがゼロになれば死ぬ。だが蘇生系の技で生き返ったりすることが出来た。
「そう……かもしれませんね」
美桜がぎゅっと佐倉にしがみつく。
「大丈夫ですよ。わたしが美桜のことは命に代えても守りますから」
「佐倉」
後ろで彼女がもぞっと動くのが分かった。
「ダメだよ。一緒に生きて帰ろうよ、元の世界に」
佐倉は美桜の言葉に勇気づけられたのだった。
ボードの後ろに乗っていた美桜は街中に入ると小声になる。
「なんでしょう」
「ここ良く来るけれど、あんな人たち居た?」
それは佐倉も感じていたことだ。
ますます自分の立てた推理であり憶測に信ぴょう性が伴う。
オンラインゲームにはイツ面というものが必ずいる。ゲームの世界は自分たちが思っている以上に狭いものだ。なのでたくさんのサーバーを持つサイトもあるだろう。だがAGにはサーバーは一つのみ。
見たことのない人ばかりというのはちょっと引っかかる。
もちろん、よく見かける人たちは古参であり管理塔に状況を確認に行ったということも考えられるが。
「美桜。これはまだ憶測に過ぎませんが、ここはわたしたちの知っているAGではない可能性があります」
美桜は”え”と短く言葉を発したのち、口を噤んだ。
彼女にはまだ難しかったろうかと思っていると、
「そうかなとは思ってた」
と美桜。
幼いと侮ってはいけないと改めと思った。
美桜は父違いの兄に会いたくてこのゲームを始めたのだ。年齢を偽り一人で兄を探すために。個人差はあるが十歳になるあたりから成長の仕方は大きく変わると思われる。
自分の時を思い出しても小学三年あたりから記憶に残っていることが多いように感じた。
人を大きく成長させるのは『恋』と言う感情だと思う。
脳には男女差がないというが、恋をしやすいのはやはり女性。
男性は本能の方が勝る。その為、恋という感情よりも性に関心が向きやすい。恋は心を育て思考力を発達させるものだ。
恋は思いやりを育て、容姿にも気を配る気持ちも育てる。
美桜にとって大好きな兄に会いたいという気持ちは”恋”と同じような効果があったのだろう。
その証拠に彼女はとても聡明であり、理解も早い。
「アバターが解かれたでしょ?」
先ほど美桜がリアルと同じ姿になってしまったことを指しているのだろう。
「なんかおかしいなって思った。だってスキャンをしたことがないから」
その話は彼女から聞いて知っていた。
「わたしももう一点あり得ない現象を目撃しました」
確かにこの世界には風という概念はある。
だがあんな風に自然かつ滑らかに髪が風に靡《なび》くなどという現象は起こりえないのだ。
そのことを話すと美桜は眉をよせた。
「ねえ、佐倉。もしかしてこれは『リアル』ってやつなの?」
「考えたくはありませんが、わたしはそう思ってます」
ボードが街を抜ける。次の街まで敵への警戒は怠れない。
「それって、怪我したら痛かったり死んじゃうってこと?」
今まではゲームという世界の中にいた。確かにライフポイントがゼロになれば死ぬ。だが蘇生系の技で生き返ったりすることが出来た。
「そう……かもしれませんね」
美桜がぎゅっと佐倉にしがみつく。
「大丈夫ですよ。わたしが美桜のことは命に代えても守りますから」
「佐倉」
後ろで彼女がもぞっと動くのが分かった。
「ダメだよ。一緒に生きて帰ろうよ、元の世界に」
佐倉は美桜の言葉に勇気づけられたのだった。
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