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3・異変に気付くとき
29・ある一つの推論
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「佐倉、何か来る」
佐倉が今まで集めた情報をもとに現状について推理していると、美桜が何かに気づいて戦闘の準備に移る。
「避けましょうか」
「え」
考えを中断されるのが嫌だった佐倉は、天に手を掲げつつ右手首を左手で撫でた。
「あれ? おかしいですね」
「あ、それ。オレもさっきやったけれど無理みたい」
佐倉がしようとしていたことが何かを察した美桜は、両手を前に出すと空間を開く。
「手動ですか」
それを見ていた佐倉は嫌な顔をすると、手を下ろし同じように空間を開いた。
アバターの手首には特殊なチップが埋め込まれている。通常は振るか触れることで調停者への制服にチェンジできるシステムであった。どうやらシステムは機能していないらしい。
アイテムのしまわれている空間に手を差し入れると目的のものを取り出す。
「もう、ずっと着ていろってことなんじゃないの」
美桜はさっさと着替えて着ていたものを空間にしまっていた。
「はあ。目立つから嫌なのですがね」
右腕に腕章をつけ、がっくりと肩を落とせば美桜が笑っている。
「でも、この制服はいろいろと顔パスできるから便利じゃない」
行こうといって先に歩き出す彼女。
一つに束ねた長い髪が風にサラサラと踊る。
──え?
目の前で起きたあり得ない現象を見て、ドキリとした佐倉。
今までシステムのせいだと思っていたが、もしかするとそうではないのかもしれないと思い始めていた。
──もしかしたら戦闘は極力回避したほうがいいのかもしれませんね。
「美桜、建物の方へ向かいましょう」
「え、だってあっちは」
「街の中を通りましょう。それなら戦闘は避けられます」
先ほどまでの面倒だという様子が消え、緊張した面持ちの佐倉を見て美桜は口をつぐむ。
「わかった」
──これはシステムの不具合ではない。
何故ならあり得ないことが起こっているから。
もしかしたらここは、AGによく似た別の世界なのかもしれない。
それならば調停者に関するシステムが起動しないのも頷けるというものだ。その別の世界が『ネット内』なのかそれとも『現実』なのか。
佐倉は後者だと思っていた。
どうにも気になる二つの点。これが決め手なのだが。
──だとすると、移動にかかる時間は。
ネットゲームというのはどんなに広大なマップであっても、それなりに移動が簡略化できるようになってはいる。例えば走る速度や補助アイテム。
疲れはあまり感じないものの、それは緊張しているからともいえる。
真面目に徒歩で移動していては時間もかかるし、疲労する可能性もあるだろう。
佐倉はおもむろに手を横にかざすと異空間を開く。
──できることと出来ないことを把握しておく必要がある。
魔法は使えるようですが。
二人乗りのボードを取り出すと、
「美桜、この先は何があるかわかりません。ボードで移動しましょう」
と声をかける。
AGというゲームの中で使われる移動の道具には燃料などは必要ない。
これが使えるということは、疲労を軽減できるということだ。徒歩での移動をやめた佐倉に、美桜は怪訝な表情をしたのだった。
──彼女には追々説明するとしましょう。
佐倉が今まで集めた情報をもとに現状について推理していると、美桜が何かに気づいて戦闘の準備に移る。
「避けましょうか」
「え」
考えを中断されるのが嫌だった佐倉は、天に手を掲げつつ右手首を左手で撫でた。
「あれ? おかしいですね」
「あ、それ。オレもさっきやったけれど無理みたい」
佐倉がしようとしていたことが何かを察した美桜は、両手を前に出すと空間を開く。
「手動ですか」
それを見ていた佐倉は嫌な顔をすると、手を下ろし同じように空間を開いた。
アバターの手首には特殊なチップが埋め込まれている。通常は振るか触れることで調停者への制服にチェンジできるシステムであった。どうやらシステムは機能していないらしい。
アイテムのしまわれている空間に手を差し入れると目的のものを取り出す。
「もう、ずっと着ていろってことなんじゃないの」
美桜はさっさと着替えて着ていたものを空間にしまっていた。
「はあ。目立つから嫌なのですがね」
右腕に腕章をつけ、がっくりと肩を落とせば美桜が笑っている。
「でも、この制服はいろいろと顔パスできるから便利じゃない」
行こうといって先に歩き出す彼女。
一つに束ねた長い髪が風にサラサラと踊る。
──え?
目の前で起きたあり得ない現象を見て、ドキリとした佐倉。
今までシステムのせいだと思っていたが、もしかするとそうではないのかもしれないと思い始めていた。
──もしかしたら戦闘は極力回避したほうがいいのかもしれませんね。
「美桜、建物の方へ向かいましょう」
「え、だってあっちは」
「街の中を通りましょう。それなら戦闘は避けられます」
先ほどまでの面倒だという様子が消え、緊張した面持ちの佐倉を見て美桜は口をつぐむ。
「わかった」
──これはシステムの不具合ではない。
何故ならあり得ないことが起こっているから。
もしかしたらここは、AGによく似た別の世界なのかもしれない。
それならば調停者に関するシステムが起動しないのも頷けるというものだ。その別の世界が『ネット内』なのかそれとも『現実』なのか。
佐倉は後者だと思っていた。
どうにも気になる二つの点。これが決め手なのだが。
──だとすると、移動にかかる時間は。
ネットゲームというのはどんなに広大なマップであっても、それなりに移動が簡略化できるようになってはいる。例えば走る速度や補助アイテム。
疲れはあまり感じないものの、それは緊張しているからともいえる。
真面目に徒歩で移動していては時間もかかるし、疲労する可能性もあるだろう。
佐倉はおもむろに手を横にかざすと異空間を開く。
──できることと出来ないことを把握しておく必要がある。
魔法は使えるようですが。
二人乗りのボードを取り出すと、
「美桜、この先は何があるかわかりません。ボードで移動しましょう」
と声をかける。
AGというゲームの中で使われる移動の道具には燃料などは必要ない。
これが使えるということは、疲労を軽減できるということだ。徒歩での移動をやめた佐倉に、美桜は怪訝な表情をしたのだった。
──彼女には追々説明するとしましょう。
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