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3・異変に気付くとき
26・切り離された日常
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その日、世界は暗転した。
数日前マザーから徴集され集まった自分たちの誰がこんなことになると想像できただろうか?
数秒間、AG内が強い光に包まれたと思ったら、真っ暗に。だが、その間一分と立たなかったと思う。緊急事態が発生したのかと思っていたが、スクランブル警報が鳴ることもなければ、管理塔からのお知らせもない。
つまり、異常事態ということだ。
近くにいたプレイヤーは沈黙を守っている。こういう時は、慌てず騒がない。それが守れているのは、自分たちが上級者向けの地帯にいるからでもあった。
だがその後、ある一人の言葉によって辺りはざわつき始める。
「ログアウトコマンドがないんだが……」
それは小さな呟き。
佐倉も自分にだけ表示される画面を見て、確認した。確かにあるべき表示が消えている。
「それ以外の部分は、今のところ大丈夫そうだ」
上級者地域というだけあってざわついてはいるものの、騒ぎ立てるものはいない。こういう時は、その場で指示を待つ。異常事態ほど冷静さは不可欠。
──美桜は大丈夫だろうか?
あの子はまだ幼い。こういうことに慣れてはいないだろう。
採取をするといって離れた美桜。
佐倉は彼女が心配になり辺りを見渡し、息を呑んだ。
遠くから走り寄る人影。フードを目深にかぶり、非常に焦っているように見えた。恰好は美桜に似ているが、一回り以上小柄だ。
このバーチャルリアリティーゲームAGをプレイすることのできる年齢は小学校六年、つまり十二歳になる年から。どう見てもそれに満たない身長。
リアルスキャンというアバター作成法では存在しえない人物。
「佐倉……ッ」
だが近づいてみるとネームは確かにspadeとなっている。
「美桜?」
「ど、ど、どうしよう。なんで? ピカってして、暗くなって。その後明るくなったと思ったら、この姿になっていたの」
慌ててはいるものの、目立たないようにしなくてはという気持ちの働いている彼女は、焦りながらも小声で佐倉に事情を説明した。
「とりあえず、あちらの蔭へ行きましょう」
佐倉はひょいっと美桜を抱き上げると、岩陰へ。
「それはリアルと同じ姿なのですか?」
「うん」
彼女は初めて出会ったとき、確かにアバターは少女ではあったがその姿とは違っていた。一からパーツを選んで作成する方のアバター作成法。
つまり勝手にリアルスキャンが行われたということになる。
──なぜ?
これがAGのシステムの不具合だったとしても、アバター作成を任意で行わない限りスキャンはされないはず。
消えたログアウト表示。
美桜のリアルスキャン。
状況を判断するにはまだ材料が足りない。
「スキャンされたなら、変更機能が……」
「そんなのないよ? 佐倉」
自分にしか見えないパネルをじっと見つめる美桜。
とそこへ、内部通信が。
「どうやら調停者の一人、kingからのようですね」
佐倉は耳に指をあて、イヤホンに触れる。
『よう、そっちは無事か?』
「ええ。あなたは今どちらにおられるのです?」
『管理塔付近にいる。合流したいんだが』
「わかりました。参ります。ところで”ログアウト機能”が消えていること以外に何か情報はありませんか?」
現状を把握するには情報を集めることが有効だ。
『管理塔に穴が開いてんのと外部通信が不可ってのが今んとこわかっていることだ。もしかしたらワープポイントもアウトの可能性もある』
kingこと南から情報に眉を寄せる佐倉。
──つまり、閉じ込められたということでしょうかね。
あるいは……。
南との通信を切った佐倉は美桜に向き直ると、彼女のパラメータを確認したのだった。
数日前マザーから徴集され集まった自分たちの誰がこんなことになると想像できただろうか?
数秒間、AG内が強い光に包まれたと思ったら、真っ暗に。だが、その間一分と立たなかったと思う。緊急事態が発生したのかと思っていたが、スクランブル警報が鳴ることもなければ、管理塔からのお知らせもない。
つまり、異常事態ということだ。
近くにいたプレイヤーは沈黙を守っている。こういう時は、慌てず騒がない。それが守れているのは、自分たちが上級者向けの地帯にいるからでもあった。
だがその後、ある一人の言葉によって辺りはざわつき始める。
「ログアウトコマンドがないんだが……」
それは小さな呟き。
佐倉も自分にだけ表示される画面を見て、確認した。確かにあるべき表示が消えている。
「それ以外の部分は、今のところ大丈夫そうだ」
上級者地域というだけあってざわついてはいるものの、騒ぎ立てるものはいない。こういう時は、その場で指示を待つ。異常事態ほど冷静さは不可欠。
──美桜は大丈夫だろうか?
あの子はまだ幼い。こういうことに慣れてはいないだろう。
採取をするといって離れた美桜。
佐倉は彼女が心配になり辺りを見渡し、息を呑んだ。
遠くから走り寄る人影。フードを目深にかぶり、非常に焦っているように見えた。恰好は美桜に似ているが、一回り以上小柄だ。
このバーチャルリアリティーゲームAGをプレイすることのできる年齢は小学校六年、つまり十二歳になる年から。どう見てもそれに満たない身長。
リアルスキャンというアバター作成法では存在しえない人物。
「佐倉……ッ」
だが近づいてみるとネームは確かにspadeとなっている。
「美桜?」
「ど、ど、どうしよう。なんで? ピカってして、暗くなって。その後明るくなったと思ったら、この姿になっていたの」
慌ててはいるものの、目立たないようにしなくてはという気持ちの働いている彼女は、焦りながらも小声で佐倉に事情を説明した。
「とりあえず、あちらの蔭へ行きましょう」
佐倉はひょいっと美桜を抱き上げると、岩陰へ。
「それはリアルと同じ姿なのですか?」
「うん」
彼女は初めて出会ったとき、確かにアバターは少女ではあったがその姿とは違っていた。一からパーツを選んで作成する方のアバター作成法。
つまり勝手にリアルスキャンが行われたということになる。
──なぜ?
これがAGのシステムの不具合だったとしても、アバター作成を任意で行わない限りスキャンはされないはず。
消えたログアウト表示。
美桜のリアルスキャン。
状況を判断するにはまだ材料が足りない。
「スキャンされたなら、変更機能が……」
「そんなのないよ? 佐倉」
自分にしか見えないパネルをじっと見つめる美桜。
とそこへ、内部通信が。
「どうやら調停者の一人、kingからのようですね」
佐倉は耳に指をあて、イヤホンに触れる。
『よう、そっちは無事か?』
「ええ。あなたは今どちらにおられるのです?」
『管理塔付近にいる。合流したいんだが』
「わかりました。参ります。ところで”ログアウト機能”が消えていること以外に何か情報はありませんか?」
現状を把握するには情報を集めることが有効だ。
『管理塔に穴が開いてんのと外部通信が不可ってのが今んとこわかっていることだ。もしかしたらワープポイントもアウトの可能性もある』
kingこと南から情報に眉を寄せる佐倉。
──つまり、閉じ込められたということでしょうかね。
あるいは……。
南との通信を切った佐倉は美桜に向き直ると、彼女のパラメータを確認したのだった。
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